薬莢
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資源が逼迫した大戦末期では九九式普通実包九二式普通実包の鉄薬莢化も進められたが品質的に十分ではなく、火器自体の製造品質低下と相まって作動不良が増える原因となった。

これとは対照的に、豊富な資源と生産・兵站能力を誇る米軍は演習での空薬莢の回収をほとんど行わなかったため、日本や韓国の米軍演習場周辺では空薬莢拾いで生計を立てる人達がいたほどだった(ジラード事件を参照)。

第二次世界大戦下のドイツでは、銅の節約のために当時世界最高の水準にあったプレス加工技術を活かした軟鋼薬莢が実用化され、戦後ドイツの技術を得たソ連は、純鉄に近いほど柔らかな軟鋼素材でAK-47用の7.62x39mm弾などを大量生産したため、旧共産圏の弾薬の多くは軟鋼薬莢が主流となっている。

旧共産圏製の軟鋼薬莢は、酸化し易い軟鋼を保護するため表面にコーティング材が塗られ、缶に入った状態で配備されるものが大部分である。これら軟鋼薬莢は安価であるため、回収の必要も無く、雷管部も再充填の困難なベルダン式であるため、発射後に放置しておいても回収されて再利用される危険性は少ない。放っておけば自然に錆の塊と化して風化してしまうため、環境への負荷も小さい。一方これら弾薬のパッケージングは部隊レベルでの使用を前提に1000発単位の大型のもので、開封後の保管は想定されていない。軟鋼薬莢の普及はもっぱらこれら軍用弾に限られ、民間ユースを含む旧西側圏の薬莢は2022年現在に到るまで真鍮製が主流のままである。

また、弾薬を軽量化する目的でアルミ合金による薬莢の試作が行われ、この研究の過程でジュラルミンが発見されたことも広く知られており、アルミ製薬莢は高価ながら現在でも使用されている。アルミは真鍮よりも割れ易いため、全体を薬室が囲んでいる回転式拳銃用の弾薬や、低腔圧で知られるU.S.M1カービン用弾薬などに用いられた。

腔圧の低い散弾銃の装弾では全金属構造の製品はまれで、薬莢底部のみ金属で作り、残りの前半部は厚紙やプラスチックで作られている。最近では腔圧の高いライフル弾でも同様の薬莢が開発されており、民間市場にも出回っている。真鍮薬莢よりも軽量であるが、外力に対する耐久性に劣り(内圧に強いが柔らかい)、遠距離目標に対する命中精度も劣る。

アメリカ陸軍は2017年に開始した次世代分隊火器プログラム(NGSW)において新規格の6.8mm口径の採用を決め、弾薬には合成樹脂薬莢のTrue Velocity弾と、真鍮・ステンレス(及び継手部のアルミ)ハイブリッド薬莢の.277 FURY弾を候補と定め、2022年1月に後者を採用した。

ドイツ陸軍レオパルト2や、陸上自衛隊90式戦車などに採用されたラインメタル社の120mm滑腔砲では焼尽薬莢(しょうじんやっきよう)が採用されている。焼尽薬莢は発射薬の燃焼と共に燃え尽きて無くなってしまうニトロセルロース系素材、腔圧に耐えるために薬莢底部のみ金属素材で作られ、発射後は底部のみが排出される。

従来の戦車では、発射後の空薬莢の処理が問題となっていた。第二次大戦時の一部の戦車では、給弾と排莢のための小ハッチが砲塔に設けられていたが、戦訓によりこれらが溶接されてふさがれると、戦闘中に空薬莢を処理するための余裕が失われた際には、最悪の場合車内の床に空薬莢がゴロゴロ転がることとなり、戦闘行動に少なからず支障を来すこととなった。戦後では、T-62以降のソ連戦車などに自動排莢装置と、使用済み薬莢を車外へ排出するハッチの設置が見られた。これも、フィルター付きの換気装置が設けられているとはいえ、NBC環境下では車外の有害物質が侵入するリスクがあるとして、一部はその後にふさがれてしまった。結局、空薬莢の問題は焼尽薬莢の採用まで解決できなかった。ロシアなど旧ソ連諸国で開発された戦車の砲塔には、焼尽薬莢が普及して以降もなお、自動装填・排莢装置と連動して自動的に開閉する車外排出用ハッチが設けられている。もっとも、これは薬莢底部専用であるため、ハッチのサイズは必要最小限となっている。
バリエーション
ケースレスH&K社とダイナマイトノーベル社[9]が試作したG11用4.73x33mm DM11 ケースレス弾
(左から)成型加工された推進薬、雷管、弾頭、保護キャップ

薬莢は金属資源を消費し、排莢動作により連射速度を制限し、弾薬の重量と体積を増加させて補給と携行に負担をかける。工作精度の向上と共に、薬莢を廃止してこれらの諸問題を解決しようとする試みがなされ、発射薬を特殊素材で固めて弾頭と起爆薬を張りつけたケースレス弾薬の研究が各国で行われた。

ケースレス弾薬の問題点の一つとして、コックオフと呼ばれる暴発現象がある。発射薬の燃焼による熱は、通常なら一部が薬莢に吸収された上で排出され、また薬室に熱が残っていても、次弾の発射薬はそれを覆う冷えた薬莢によって保護される。ケースレス弾薬の場合は薬室内が排熱不足に陥りやすく、更にそこへ発射薬が直接触れるので、暴発のリスクが大きくなる傾向にある。

最も実用に近づいたのは、ドイツのダイナマイト・ノーベル社の弾薬と、H&K社のG11 アサルトライフルである。ドイツ連邦軍でも採用が決まりかけたが、コストや信頼性の面で難があり、採用されずに試作のみに終わり、東西ドイツ再統一により、計画は凍結された。

なお薬嚢や液体装薬を用いた火器も薬莢を使用しないが、弾丸と発射薬が一つにパッケージされない点で上記のケースレス弾とは区別しうる。
テレスコープ弾

小銃弾は、通常の弾薬と同様、薬莢の先端に弾頭を取り付けているが、ネックが絞られているため細くなっている部分が弱くなり、特にむき出しの弾頭が変形する可能性が拳銃弾よりも高い。

これらを解決するために研究されているテレスコープ弾というものがある。これは、細い弾頭を太い薬莢に埋め込んで弾頭の後部・周囲に装薬を詰めるもので、弾頭がむき出しになっておらず、薬莢に細くなっている部分が無いために衝撃に強い。また、全長が短くなるというメリットがある。

2010年代に到り、テレスコープ弾は40mm口径の機関砲40 CTC」として本格的に実用化がなされた。

現在、テレスコープ弾を使用する制式銃は存在しないが、アメリカでM249に替わる新型機関銃が開発されている。薬莢の一部およびベルトリンクポリマーを利用することで軽量化を図っている。薬莢の太さは.50口径ほどで、弾頭は5.56x45mm NATO弾のものを流用している。発射機構は、リヴォルヴァーカノンに似たものであると推測される。
歴史
出現まで

前装銃前装式)の時代には、弾丸と火薬は銃口から別々に装填されていた。日本では木製の筒型容器に一発分の弾丸と火薬を組み合わせたものを携行し、装填の手間を短縮する方式がとられるようになり、これを「早合(はやごう)」と呼んだ。


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