薬物代謝
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その後の第2相の反応では、活性化された生体外物質の代謝物は、グルタチオン(GSH)、グリシンまたはグルクロン酸のような電荷を持つ化学種に抱合される。薬物の抱合反応が起こる部位には カルボキシ基 (-COOH)、ヒドロキシ基 (-OH)、アミノ基 (-NH2)、チオール (-SH)などがある。多くの場合活性な代謝物が生成される第1相の反応とは異なり、抱合反応の生成物は、分子量が増加し、基質より不活性になる傾向がある。GSHのような大きな陰イオンの付加により、反応性求電子剤は解毒され、より極性が高く細胞膜を通過して拡散することができない代謝物となり、積極的に排出へと輸送される。

これらの反応は、広い特異性を持つ一群の転移酵素によって触媒される。これらの転移酵素は組み合わせによって、求核性もしくは求電子性官能基を持つほとんどの疎水性化合物を代謝することができる[1] 。その中でもグルタチオン-S-トランスフェラーゼ類は、最も重要な酵素群である。

機構酵素[8]補因子[8]場所[8]
メチル化メチルトランスフェラーゼS-アデノシルメチオニン肝臓、腎臓、肺、中枢神経系
硫酸抱合スルホトランスフェラーゼ3'-ホスホアデノシン-5'-ホスホ硫酸肝臓、腎臓、腸
アセチル化

N-アセチルトランスフェラーゼ

胆汁酸CoA:アミノ酸N?アシル転移酵素(BAA)
アセチルCoA肝臓、肺、脾臓、胃粘膜、赤血球、リンパ球
グルクロン酸抱合UDP-グルクロン酸転移酵素UDP-グルクロン酸肝臓、腎臓、腸、肺、皮膚、前立腺、脳
グルタチオン抱合グルタチオン-S-トランスフェラーゼグルタチオン肝臓、腎臓
グリシン抱合N-アセチルトランスフェラーゼアセチルCoA肝臓、腎臓

第3相(追加変性及び排出)

第2相後、抱合された生体外物質はさらに代謝を受ける場合がある。例としてグルタチオン抱合体がシステイン抱合体からメルカプツール酸(英語版)へと変換される反応が挙げられる[9] 。グルタチオン分子のグルタミン酸残基とグリシン残基はγ-グルタミルトランスフェラーゼとジペプチダーゼによって取り除かれ、最終段階でシステイン残基はアセチル化される。抱合体とその代謝物は代謝過程の第3相において、P糖タンパク質ファミリーの様々な膜輸送体に対して、陰イオン性置換基が親和性標識として働き、細胞から排出される[10] 。これらのタンパク質はABC輸送体ファミリーであり、非常に広範囲な疎水性陰イオンのATP依存性輸送を触媒し[11]、第2相の生成物を細胞外へ移動してさらなる代謝や排出システムに乗せる役割を果たす[12]
内因性の毒素

上述のシステムでは、過酸化物や反応性のアルデヒド類のような、内因性の反応性代謝物は解毒できない場合がしばしばある。これはこれらの化学種が正常な細胞構成物の誘導体であり、通常その高い極性を引き継いでいるためである。しかし、そのような化合物の種類は少ないので、特定の酵素により認識され排除される。従って、有害な分子と有用な代謝物が類似しているため、それぞれの内因性毒素グループを代謝するために異なる解毒酵素が必要とされる。反応性のメチルグリオキサールを除去するグリオキサラーゼシステムと活性酸素化学種を除去する様々な抗酸化システムが、この特異的解毒システムの例として挙げられる。
代謝の場所

全ての生物の組織がある程度薬物を代謝する能力を備えているが、肝臓細胞の滑面小胞体が量的な意味で薬物代謝の主要器官である。肝臓は、大きな器官であること、また消化管から吸収された化学物質が最初に通過する器官であること、そして他の器官と比較して非常に高濃度の多くの薬物代謝酵素が存在していることから、薬物代謝への肝臓の寄与は大きい。ある薬物が消化管から吸収され、門脈を通じて肝循環へと入ると、薬物は代謝作用を受け、いわゆる初回通過効果を示す。その他の薬物代謝の場所として、消化管肝臓皮膚上皮細胞がある。通常これらの場所は局所的な毒性反応に対応する。
薬物代謝に影響する要因

ほとんどの脂溶性薬物の薬学的作用の持続時間と強度は、その薬物が不活性な生成物に代謝される速度によって決定される。その意味ではシトクロムP450システムが最も重要な経路であるといえる。一般に、何らかの要因で薬学的に活性な化合物の代謝速度が増加すると、薬物作用の持続時間と強度は減少する(例えば酵素誘導)。また逆の現象も起こる(例えば酵素阻害)。しかし、プロドラッグが薬物に変換される酵素反応においては、反応を司る酵素の誘導によってプロドラッグの変換が加速され、薬物の活性レベルが上昇する。一方で潜在的に毒性を示す可能性がある。様々な’’生理学的’’および’’病理学的’’要素が薬物代謝に影響する。生理学的要素には、年齢、個人差(たとえば、ゲノム薬理学)、腸肝循環栄養腸内細菌性差などが含まれる。一般に薬物の代謝は、ヒト動物において、胎児新生児高齢者成人に比べて遅い。遺伝的多様性(多型)は、薬物の効果にある程度ばらつきが見られる原因として重要である。第2相のアセチル抱合に関与する、N-アセチル基転移酵素(またはN-アセチルトランスフェラーゼ)の例では、遺伝的要因によりヒトは、アセチル化が遅い体質と早い体質の集団に分かれる。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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