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この「尼証摂施入状」が、柱間装置あるいは建具としての「板蔀」ないし「蔀」についての最古の史料である[3]

その「板蔀」が格子状だったかどうかは解らないが、延喜5年(905年)から編纂され始めた『延喜式』木工寮式には幅八尺・高九尺の板蔀、方一丈の板蔀など巨大な板蔀についての記載がある[5]

平安時代でも『源氏物語』以前に成立していた『宇津保物語』には、質素というより異常な倹約家である左大臣の粗末な寝殿を「寝殿は端クずれたる小さき萱屋(かやや)、編垂蔀(あみたれしとみ)一間あげて、葦簾(あしすだれ)かけたり。御座(おまし)所、九のなる蓆(むしろ)敷きたり。」と表す[6]。編垂蔀(あみだれしとみ)とは竹や板を編んだものを垂らしたもので、席障子(むしろしとみ)と同類である。それを非常に粗末な蔀、粗末な寝殿の表現に用いている。

以上のように蔀は格子状とは限らないが、平安時代後期からの絵巻には上層住宅にはほとんどは格子状の蔀が描かれ、格子状でない板蔀は『粉河寺縁起』の田舎の猟師の家とか[7]、『年中行事絵巻』の京の町屋など[8]、格の下がる住居に描かれる。なお『年中行事絵巻』の町屋では内法長押までの高さ全てではなく、窓のような部分に短いものを付けている[9]
格子状の蔀323:法隆寺聖霊院の吊金物324:法隆寺東院伽藍・礼堂の蔀

通常、寝殿造で蔀というと画像322のように桟を格子状に組み、板を張ったものである。内裏では伝統的にそれを「格子」または「隔子」と呼んでいる[10]承和10年(843年)に建てられた東寺の灌頂院・礼堂の図にも正面七間に内側に跳ね上げる「格子」が描かれ、書き込みにも「格子」とある[11]

「蔀」は機能、「格子」は形状からの呼び名であるが、「蔀」の最初は格子状ではなく、加工に手間のかかる格子状の蔀、さらに漆を塗った最高級品が内裏周辺からはじまったことから、内裏では当時の「蔀」一般と区別して「格子」と呼び、そのまま定着したのかもしれない[10]

平安内裏の紫宸殿に最初から格子が使われていたのかどうかは史料が無いが、『西宮記』所引の「蔵人式」によると、仁和年間(885-889)にはすでに使用されていたことが判る[12]

以下格子状のものも含めて「蔀」と呼ぶ。『日本建築史図集』[13]西明寺の蔀の図面がある。柱間は芯々で9.4尺(2.84メートル)である。そして内法長押と下長押の間は8.1尺(2.4メートル)。その高さを上下二枚の蔀で覆う。この寸法は建物によって若干変わりはするが寝殿造でも平均的なサイズである。法隆寺聖霊院(画像321・画像322)、西明寺(画像331)の実例でも判るとおり、上下二枚の蔀は上の方が大きい。

その上下の蔀の上は内法長押に打ち込まれた蝶番でぶらさげる。柱の室内側に方立が打たれて室内側には開かないようになっている(画像321)。日中はそれを外側に開いて、軒先の化粧屋根裏からぶら下げた吊金物(画像323)に引っかける。

法隆寺東伽藍・礼堂(鎌倉時代)の例では、柱に方立と同じような縦木が打たれ、それと方立との間の溝に上から落とし込んでいる(画像324)。全面を開放するときにはこれを上に引き上げて外し、他の場所へ運ぶ。室生寺の本堂(灌頂堂)では掛け金で止めている。蔀はかなり重いので女官一人では満足に開けられなかったことが清少納言の『枕草子』にあり[14]、『吾妻鏡』には朝晩にその開閉を担当する将軍御所の格子番の任命が出てくる[15]
注記^ 9世紀中頃の『貞観様式』や10世紀の『延喜式』にその記録がある(小泉和子2015、p.24)。
^ 「席障子」を(むしろしょうじ)でなく(むしろしとみ)と読むのは高橋康夫1985、p.19による。

出典^ 高橋康夫1985、p.19
^ 高橋康夫1985、p.20
^ a b 高橋康夫1985、p.21
^ 川上貢1973、p.75
^ 高橋康夫1985、pp.20-21
^ 宇津保物語、一巻、p.193
^ 粉河寺縁起、pp.21-22
^ 年中行事絵巻、pp.61-65
^ 年中行事絵巻、p.63
^ a b 高橋康夫1985、p.22
^ 高橋康夫1985、p.39
^ 高橋康夫1985、p.12
^ 日本建築史図集2011、p112
^ 『枕草子』、87段
^ 吾妻鏡、建長4年4年3年条

参考文献

高橋康夫『物語・ものの建築史-建具のはなし』鹿島出版会、1985年。 

川上貢 「紙障子と板戸」『建築もののはじめ考』新建築社、1973年。 

日本建築学会編『日本建築史図集』(新訂第三版)彰国社、2011年。 

新訂増補国史大系『吾妻鏡(普及版)』吉川弘文館、1983年。 

日本古典文学大系10『宇津保物語』岩波書店、1959年。 

小松茂美 日本の絵巻5『粉河寺縁起』中央公論社、1987年。 

小松茂美 日本の絵巻8『年中行事絵巻』中央公論社、1987年。 










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