旧著作権法においては著作物の定義に関する規定はない。1条でいくつかの著作物を例示的に掲げていたにすぎなかった。が、「凡ソ著作権ノ目的タル著作物トハ精神的労作ノ所産タル思想感情ノ独創的表白ニシテ客観的存在ヲ有シ而モ文芸学術若ハ美術ノ範囲ニ属スルモノナリト解スルヲ相当トス」と判示した判例があった[18]。また、同じく旧法下において東京地裁の判決に同じ判示があった[19]。
元々、「著作物」という語はベルヌ条約のフランス語原文における「Oeuvre」や英語の「Work」に相当するものであり、旧著作権法を起草した水野錬太郎は著書「著作権法要義」において、「著作物トハ[...]有形ト無形トヲ問ハズ吾人ノ精神的努力ニヨリテ得タル一切ノ製作物ヲ云フ」と解説していた[20]。旧著作権法では、著作物のうち「文芸学術の著作物」(Oeuvre litteraire)と「美術の著作物」(Oeuvre artistique)に対して著作者の複製権専有を規定することで、それらの著作物のみが著作権の目的物となるようにしていた。 新聞紙法の第一条において、定義を示さずに「著作物」という語が使われているが、新聞紙法における著作物の意味は、思索考量によって案出された著述だけでなく、時事その他に関する報道も含んでいる (信用毀損及新聞紙法違反ノ件(明治四十四年二月九日大審院判決))。 著作権法10条
新聞紙法における著作物の定義
著作物の例示
言語の著作物(10条1項1号) 小説、脚本、論文、講演その他。
ただし、「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道」は、著作物に該当しない(10条2項)。
音楽の著作物(10条1項2号)
舞踊又は無言劇の著作物(10条1項3号)。
美術の著作物(10条1項4号)
美術の著作物は、絵画、版画、彫刻その他。美術工芸品を含む(2条2項)。なお、応用美術(量産品)については意匠法で守られており、高裁判決において、美術鑑賞の対象となりうる審美性を備えていない限り著作物には該当しないとされている[21]。また、漫画のキャラクターにおいては、キャラクターの絵は著作物となるものの、キャラクター自体は「漫画の具体的表現から昇華した登場人物の人格ともいうべき抽象的概念であって、具体的
建築の著作物(10条1項5号)
図形の著作物(10条1項6号)- 地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型その他。
映画の著作物(10条1項7号)。- 映画の著作物には、映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物を含む(2条3項)。映画、ビデオグラム、テレビジョン、テレビゲーム、コンピュータなどの画面表示
著作権法によると、二次的著作物は著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案することにより創作した著作物」としている。 データベースとは、論文、数値、図形その他の情報の集合物であつて、それらの情報を電子計算機を用いて検索することができるように体系的に構成したものをいう(2条1項10号の3)。データベースでその情報の選択又は体系的な構成によつて創作性を有するものは、著作物として保護する(12条の2第1項)。しかし、このことは、当該データベースの部分を構成する著作物の著作者の権利に影響を及ぼさない(12条の2 データベース以外の編集物(著作権法上単に「編集物」という)で、その素材の選択又は配列によつて創作性を有するものは、著作物として保護する(12条
データベースの著作物
編集著作物
意義・特徴
しかし、このことは、当該編集物の部分を構成する著作物の著作者の権利に影響を及ぼさない(12条2項)。
旧著作権法は「数多ノ著作物ヲ適法ニ編輯シタル者ハ著作者ト看做シ其ノ編輯物全部ニ付テノミ著作権ヲ有ス但シ各部ノ著作権ハ其ノ著作者ニ属ス」と規定しており、非著作物を素材とする編集物が編集著作物となるか疑義があった。[23]
そのため、現行法は素材の選択・配列に創作性が認められる編集物を広く保護すべしとの思想のもと、編集著作物に関する定義規定を設けた。[23]
編集著作物の法的性質については、編集著作物とその他の著作物との間に明確な境界線を引くことは困難であり、確認的規定に過ぎないとする見解もあるが、素材の選択・配列という行為が独立して著作権により保護されるという点で、創設的な規定であるとする見解も有力である。[24]
特に、非著作物を素材とする編集物については、素材そのものには特質性がない中で、もっぱらそれを選択・配列することに創作性が認められるという点で、通常の著作物とは大きく異なるとされる。[25] 現行法が、素材の選択と配列に創作性を見出して、非著作物を素材とする編集著作物をも保護範囲に含めたことは、実質的には編集方針というアイデア保護に一歩踏み込んだものとされる。[26] しかし、それでも現行法上は具体的な編集物を離れて、抽象的な編集方針というアイデアそれ自体が著作権により保護されるわけではない(アイディア・表現二分論)。[27] そのため、(特に事実を素材とする編集物において)最も創造性を有する編集方針というアイデアが保護対象外であるという矛盾を抱えるとされる。[26] また、編集方針が保護されないことの帰結として、編集著作物として保護されるのは、一定の素材を創作的に選択または配列した具体的な編集物である。 そのため、素材が全く異なる時には編集著作権侵害の余地はないとする見解もあるが、異論も多い。[28][29]
編集方針の不保護