著作権
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新しいテクノロジーに関連する個別の判例や法制には、1984年に判決が出た米国のベータマックス事件(ソニー勝訴)[33]、1992年に生まれた日本の私的録音録画補償金制度[34]、1997年に創設されたインタラクティブ送信に係る公衆送信権・送信可能化権(日本)[35]、1999年に起こされたソニー・ボノ法への違憲訴訟(米国、2003年に合憲判決)[36]、2001年のナップスター敗訴(米国)[37]などがある。アメリカ合衆国の判例については「著作権法の判例一覧 (アメリカ合衆国)」を、他国の判例については「en: List of copyright case law」を参照
著作権の対象と要件

本節では著作権のうち、おもに狭義の著作権(著作財産権)の保護の対象と要件について述べる。
著作権の対象

著作権は、著作者の精神的労力によって生まれた製作物[38]を保護し[39]、また、自由市場における市場価格を著作者に支払うことを保証して、著作者の創作業務を維持し、収入を安定させることで、間接的に著作者本人を保護する効果もある。

日本の現行著作権法では具体的に「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法第2条第1項第1号)と定めており[40]、ここでいう「創作的」については、既存の著作物との差異(表現者の個性)が表れていればよく、新規性や独創性は求められず、区別できる程度であればよいとされる。

中山 (2014)によれば、思想又は感情が現れている箇所がどのような箇所なのか明確に定義することは難しい。そのため思想又は感情でないものがどういったものなのかを定義する方が明確にそれらを区別できる。思想・感情的から漏れ出ているものとしては、第1に著作物を書いた者が事実としているもの。例えば、ガリレオが地動説に関する本を出版した際、彼は地動説を事実として扱っていた。その場合地動説は事実として扱われる。第2に契約書案等。第3に単なる事実の報道や雑報。しかし事実を報道する新聞記事などは記事の配列、評価、分析などで創作性が保たれているためそれらは著作物として成立する。著作物として成立しないものとしては表現の幅の狭い新聞の見出しや死亡報道などである。第4に、スポーツやゲームのルールである。第5に技術や自然科学のアイディアそれ自体である。どんなに苦労して完成させた理論であっても、アイディアそれ自体には著作権はない。しかしそのアイディアを表現した論文での創作性が確保されているものに関しては著作権がある (pp.46-55)。

また、表現されている必要があり[40]、文字・言語・形象・音響などによって表現されることで著作物となる[41]

著作権の対象として想定されるのは、典型的には美術、音楽、文芸、学術に属する作品である。絵画、彫刻、建築、楽曲、詩、小説、戯曲、エッセイ、研究書などがその代表的な例である。ほかにインターネット掲示板の書き込み[42]、写真、映画、テレビゲームなど、新しい技術によって出現した著作物についても保護の対象として追加されてきた。

美術的分野では、著作権のほか、意匠権工業デザインの権利を保護するが、著作権は原則として美術鑑賞のための作品などに適用され、実用品には適用されないとする。ただし、この境界線は必ずしも明解ではなく、美術工芸品は双方の権利が及ぶとする説もある。また、国によっては意匠法と著作権法をまとめて扱っている場合もある。

入学試験の問題は、数学の問題における数式そのもの、社会科の問題における歴史的事実そのものといった場合を除き、問題を作成した学校等に著作権が生じるとされる[43]

国によって保護の対象が異なる場合があり、たとえば、フランスの著作権法では著作物本体のほかにそのタイトルも創作性があれば保護する旨を規定している。同じく、一部の衣服のデザインが保護されることが特に定められている。米国の著作権法では船舶の船体デザインを保護するために特に設けられた規定がある。ほかに、明文規定によるものではないが、活字の書体は日本法では原則として保護されないが、保護する国もある。アプリケーションプログラミングインタフェース(API)についても日本法では明示的に保護対象外としているが、米国では「保護が及ぶ」という最高裁判決が出ている。
著作権が生じないもの極めて正確に描かれた正方形は著作物ではない

ラスト・メッセージin最終号事件
裁判所東京地方裁判所
判決1995年(平成7年)12月18日
意見
(前略)休刊又は廃刊となった雑誌の最終号において、休廃刊に際し出版元等の会社やその編集部、編集長等から読者宛に書かれたいわば挨拶文であるから、このような性格からすれば、少なくとも当該雑誌は今号限りで休刊又は廃刊となる旨の告知、読者等に対する感謝の念あるいはお詫びの表明、休刊又は廃刊となるのは残念である旨の感情の表明が本件記事の内容となることは常識上当然であり、また、当該雑誌のこれまでの編集方針の骨子、休廃刊後の再発行や新雑誌発行等の予定の説明をすること、同社の関連雑誌を引き続き愛読してほしい旨要望することも営業上当然のことであるから、これら五つの内容をありふれた表現で記述しているにすぎないものは、創作性を欠くものとして著作物であると認めることはできない

権利が生じず、保護の対象にならない製作物がある。おもなものは以下の通り。
典型的にはまったく創作性のない表現と情報やアイディア・ノウハウ
誰が表現しても同じようになるものは創作性があるとは言えない。ただし、最低限どのような創作性が必要になるかについて画一的、定型的な基準は存在しない。具体的判断については事案ごとに周辺の事情をも勘案したものになるため、判例ごとに異なる。
自然科学に関する論文
大阪地裁判決[44][45]では、「論文に同一の自然科学上の知見が記載されているとしても、自然科学上の知見それ自体は表現ではないから、同じ知見が記載されていることをもって著作権の侵害とすることはできない。また、同じ自然科学上の知見を説明しようとすれば、普通は、説明しようとする内容が同じである以上、その表現も同一であるか、又は似通ったものとなってしまうのであって、内容が同じであるが故に表現が決まってしまうものは、創作性があるということはできない」としている。なお、判例では「もっとも、自然科学上の知見を記載した論文に一切創作性がないというものではなく、例えば、論文全体として、あるいは論文中のある程度まとまった文章で構成される段落について、論文全体として、あるいは論文中のある程度まとまった文章として捉えた上で、個々の文における表現に加え、論述の構成や文章の配列をも合わせて見たときに作成者の個性が現れている場合には、その単位全体の表現として創作的なものということができるから、その限りで著作物性を認めることはあり得るところである」としている。また大阪高裁判決(控訴審)では、原告の請求を棄却した。この判決では、「自然科学論文,ことに本件のように,ある物質の性質を実験により分析し明らかにすることを目的とした研究報告として,その実験方法,実験結果及び明らかにされた物質の性質等の自然科学上の知見を記述する論文は,同じ言語の著作物であっても,ある思想又は感情を多様な表現方法で表現することができる詩歌,小説等と異なり,その内容である自然科学上の知見等を読者に一義的かつ明確に伝達するために,論理的かつ簡潔な表現を用いる必要があり,抽象的であいまいな表現は可能な限り避けられなければならない。その結果,自然科学論文における表現は,おのずと定型化,画一化され,ある自然科学上の知見に関する表現の選択は,極めて限定されたものになる。したがって,自然科学論文における自然科学上の知見に関する表現は,一定の実験結果からある自然科学上の知見を導き出す推論過程の構成等において,特に著作者の個性が表れていると評価できる場合などは格別,単に実験方法,実験結果,明らかにされた物質の性質等の自然科学上の知見を定型的又は一般的な表現方法で記述しただけでは,直ちに表現上の創作性があるということはできず,著作権法による保護を受けることができないと解するのが相当である」としている。また、大阪高等裁判所の判決では「表現技法について著作権法による保護を認めると,結果的に,自然科学上の知見の独占を許すことになり,著作権法の趣旨に反することは明らかである」としている。
独創的な思想または貴重な情報そのもの
ある数学の問題の解法やニュース報道で取り上げられる事実などは、その発見や取材に非常な努力を要することがあっても、著作権で保護されることはない。ただし、その解法の表現や、ニュース報道における事実の表現などは著作権で保護されることがある[46]

そのほか、キャラクター設定[47]や感情そのもの、創作の加わっていない模倣品[48]、範囲外の工業製品[48](たとえば自動車のデザイン[49])などは著作物とはならないほか、短い表現・ありふれた表現[48][50](たとえば作品のタイトル[51][52]や流行語[53]や商品名[54])・選択の幅が狭い表現などは創作性が認められない傾向にある。
保護の要件
方式主義と無方式主義「著作権の形式的手続」も参照

特許権、意匠権、商標権などは登録が権利発生の要件であるが、著作権の発生要件について登録などを権利発生の要件とするか否かについては立法例が分かれる。

著作権の発生要件について、登録、納入、著作権表示など一定の方式を備えることを要件とする立法例を方式主義という[55]。これに対して著作物が創作された時点で何ら方式を必要とせず著作権の発生を認める立法例を無方式主義という[56]

ベルヌ条約は、加盟国に無方式主義の採用を義務づけている(ベルヌ条約5条2項)[56]。なお、日本には著作権の登録の制度があるものの、ベルヌ条約の加盟国であることもあり発生要件ではなく、あくまでも第三者対抗要件であるに過ぎない[57]


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