著作権侵害
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同様の性質を有する独占権に回路配置利用権がある(半導体集積回路の回路配置に関する法律12条1項)。一方、特許権実用新案権意匠権は絶対的独占権である。すなわち、自ら独立して創作した発明、考案、意匠を実施していても、それらが他人の特許権、実用新案権、意匠権の対象となっている場合には、権利侵害が成立する。著作権侵害訴訟においては、原告(著作権者)が類似性と依拠性の立証責任を負うものと解されている。類似性は、原告の既存著作物と被告の利用著作物の対比による客観的な判断が可能であるため、その立証は比較的容易である。一方で、依拠性は被告の主観的心理状態の問題であるから、たとえば以下のような間接事実から依拠性を推認することになる。
被告による原告の著作物へのアクセス可能性

被告の利用著作物と原告の著作物における表現の酷似性

原告の著作物の著名性、周知性
これらの間接事実を原告が立証したときは、逆に依拠性が存在しなかったことを、被告が独立創作の抗弁として立証しないかぎり、依拠性は認められるものと解する。
類似性
パロディ・モンタージュ写真事件」(第一次)の最高裁判所判決(昭和55年3月28日)は、「自己の著作物を創作するにあたり、他人の著作物を素材として利用することは勿論許されないことではないが、右他人の許諾無くして利用をすることが許されるのは、他人の著作物における表現形式上の本質的な特徴をそれ自体として直接感得させないような態様においてこれを利用する場合に限られる」と判示した。本事件は著作者人格権の一つである同一性保持権侵害の事案であるが、著作権(財産権)侵害の場合にも適用されるべきものと解される。
利用者が著作物利用について正当な権原を有していないこと[ソースを編集]

以下のような場合は、著作物の利用について、正当な権原を有しているといえる。
著作物の利用許諾[ソースを編集]

著作権者から著作物の利用許諾(63条1項)を受けた場合、その利用許諾の範囲内で著作物を利用する限り、著作権侵害は成立しない。例えば、音楽のネット配信について音楽著作権者(および音楽著作権者から著作権管理業務を委託された一般社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)等や、音楽著作権者から音楽著作物の販売を委託されている著作隣接権者であるレコード会社など)から許諾を受けた場合において、許諾を受けた音楽を、許諾を受けた方法にしたがってネット配信する行為は、著作権侵害とならない。
出版権の設定[ソースを編集]

著作権者(複製権者)から出版権(79条1項)の設定を受けている場合も、設定行為により定められた範囲内で著作物を複製する限り、著作権侵害は成立しない。
みなし侵害[ソースを編集]

以上に列挙した要件を満たさない場合は、原則として著作権侵害(直接侵害)は成立しない。しかし、これらの要件を満たさない場合であっても、直接侵害の予備的行為が著作権侵害と擬制されることがある(みなし侵害)。
著作権法113条[ソースを編集]

日本国著作権法では、以下の5類型を著作権侵害とみなしている(113条)。
国内において頒布することを目的をもって、輸入の時において国内で作成したとしたならば著作権の侵害となるべき行為によって作成された物を輸入する行為(同条1項1号)

著作権を侵害する行為によって作成された物(前記1の輸入物を含む)を情を知って頒布し、または頒布の目的をもって所持する行為(同条1項2号)

プログラムの著作物の著作権を侵害する行為によって作成された複製物を、業務上電子計算機で使用[注 4]する行為(複製物の使用権原を取得した時に情を知っていた場合に限る)(同条2項)

権利管理情報に関する以下の行為(同条3項)
虚偽の権利管理情報を故意に付加する行為(1号)

権利管理情報を故意に除去し、または改変する行為(2号)

前記の行為が行われた著作物を、情を知って頒布し、もしくは頒布目的で輸入し、または情を知って公衆送信、送信可能化する行為(3号)


国内頒布目的商業用レコード(以下、国内盤)を発行している著作権者が、それと同一の国外頒布目的商業用レコード(以下、外国盤)を国外において発行している場合において、情を知って、外国盤を国内頒布目的で輸入する行為、または当該外国盤を国内で頒布し、もしくは国内頒布目的で所持する行為(ただし、著作権者が得ることが見込まれる利益が不当に害される場合に限られる。また、国内盤発行から政令で定める期間を経過した場合を除く)(同条5項)(レコード輸入権を参照)

著作権侵害行為に対する制裁措置[ソースを編集]

著作権侵害をした者に対しては、損害賠償請求や差止請求のような民事的請求が認められている。また、故意に著作権侵害をした者に対しては、懲役罰金の刑事罰が科されることがある。
民事訴訟[ソースを編集]
差止請求
著作権者は、著作権を侵害する者または侵害するおそれがある者に対し、侵害の停止または予防を請求することができる(112条1項)。また、差止請求をするに際し、侵害行為組成物、侵害行為供用物の廃棄を請求することもできる。侵害行為組成物の例としては、違法に複製されたCD、DVDメディア等、侵害行為供用物の例としては、違法複製に用いられたパソコン、違法演奏に使用された楽器などが挙げられる。差止請求には、被告の故意または過失は要件とされず、不可抗力による侵害であっても請求可能である。これには侵害行為組成物、侵害行為供用物の廃棄も含まれる。また、「著作権を侵害する」や「侵害するおそれがある」の判断基準時は、事実審の口頭弁論終結時であると解する。したがって、事実審の口頭弁論終結時までに著作権が消滅し、あるいは被告が著作権侵害行為を停止し、かつ再度の著作権侵害のおそれがなくなれば、差止請求は棄却される。
損害賠償請求
著作権者は、故意または過失により著作権を侵害し、著作権者に損害を発生させた者に対し、発生した損害の賠償請求をすることができる(民法709条)。ただし、著作権者またはその法定代理人が、損害および著作権侵害者を知った時から3年間損害賠償請求権を行使しないときは、請求権は時効によって消滅する。また、著作権侵害の時から20年(除斥期間)が経過した時も、同様に消滅する(民法724条)。著作権侵害を原因として発生する損害には、侵害の調査費用や弁護士への報酬といった、著作権侵害がなければ支払う必要がなかった費用(積極的損害)と、侵害品(海賊版)の流通による正規品の売上減退のような、著作権侵害がなければ得られるはずであった利益(消極的損害)がある。前者の損害額の立証は比較的容易であるが、著作権の対象である著作物は無体物であるゆえ、後者の損害額の立証は困難である。そこで、著作権法は損害の推定規定などを置き、原告(著作権者)による損害額の立証負担を軽減している(114条1項?3項)。さらにTPP11協定法改正後は、対象が著作権等管理事業者により管理されている場合においてはその使用料規程により算出した額(複数ある場合は最高額)を損害額として賠償を請求することができる。なお、これらの損害額の算定については補充的規定であり、法114条4項および民法709条に基づいてそれらを越えた額の損害額の請求を妨げない。
不当利得返還請求
その他、著作権者は、著作権を侵害することによって利益を得ている者に対し、当該不当利得の返還を請求することができる(民法703条)
刑事罰[ソースを編集]

著作権を故意に侵害した者は、10年以下の懲役または1000万円以下の罰金に処せられる(懲役と罰金が併科されることもある)(119条)。

また、法人の代表者、従業員等が著作権侵害行為をしたときは、行為者のほか、当該法人も3億円以下の罰金に処せられる(両罰規定)(124条)。

刑事罰(懲役刑、罰金刑)が科されるのは、著作権を故意に侵害した場合のみである。過失により著作権を侵害した場合は、刑事罰は科されない(刑法38条1項)。

いわゆる「違法ダウンロードの刑事罰化」として、「私的使用の目的をもって、有償著作物等の著作権又は著作隣接権を侵害する自動公衆送信を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を、自らその事実を知りながら行って著作権又は著作隣接権を侵害した者に対し、2年以下の懲役若しくは 200万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」[5]が定められている。違法ダウンロードの刑事罰化における「有償著作物等」とは、「録音され、または録画された著作物、実演、レコードまたは放送もしくは有線放送に係る音もしくは影像であって、有償で公衆に提供され、または提示されているもの(その提供または提示が著作権または著作隣接権を侵害しないものに限る。)」である。

これらを含む著作権侵害罪の大部分(著作権法第119条、第120条の二第三号及び第四号、第121条の二並びに前条第一項の罪とされるもの)は親告罪である(123条1項)。これらについては、著作権者による告訴がなければ、検察官公訴を提起することができない[注 5]が、TPP11協定法改正により、一定要件下の著作権等侵害等罪につき、非親告罪となった(「日本の著作権法における非親告罪化」を参照)。

技術的保護手段の回避を行うことをその機能とする装置の提供、およびそれを利用した複製を業として行った場合については、三年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処せられる(懲役と罰金が併科されることもある)(著作権法第120条の2第一号及び第二号)。別途、不正競争防止法による罰則もある。

著作権法には国外犯規定がないが、刑法施行法(明治41年3月28日法律第29号)第27条第1号により著作権法に掲げる罪については刑法第3条の例に従う、即ち日本国民の国外犯が適用になり、日本国内での行為の他、日本国民が日本国外で著作権侵害(罪)となる行為を行った場合、処罰される。
歴史[ソースを編集]

日本で初めての著作権侵害訴訟は、浪曲家・桃中軒雲右衛門のレコードを巡るものである[6]
アメリカ合衆国[ソースを編集]「著作権法 (アメリカ合衆国)」も参照

アメリカ合衆国ではアメリカ合衆国通商代表部(USTR)が知的財産権の保護の世界的状況について毎年評価報告書を公表している[7]。この報告書は「スペシャル301条報告書」と呼ばれるもので301の番号は1974年通商法301条を指し、通商代表部が知的財産権の保護を十分に行っていない国を特定するという条項である[7]


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