落雷
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しかし雷観測技術が進歩し、雷の性質や挙動が次々に解明された結果、雷からの人身防護として最も確実なのは、雷注意報が出ているときは屋外に出ないことである[22]という、昔から経験的に知られていたことが改めて明らかになった。アメリカ海洋大気局(NOAA)では、2010年5月現在、「When Thunder Roars, Go Indoors!」(日本語で「雷が近づいたら、建物の中へ入れ!!」)をスローガンとし、広く米国民に人的落雷被害防止を呼びかけている[17]。2010年5月31日には、アメリカ合衆国バラク・オバマ大統領が、雷雨の中、全米国民に向けて雷からの人身防護を呼びかけた[17]

雷は極めて局地的な気象現象であるのに「雷注意報」は広域かつ長時間に渡ってされることが多く、これにいちいち従って避難していたのでは何もできないという現実的要求から、十分な時間的余裕をもって確実にピンポイントで「落雷警報」を出すためのものとしての雷観測手段、すなわち雷検知器が人身防護用ツールの「切り札」として期待されたのであるが、皮肉にもそのための大規模な雷観測と研究がすすめられた結果、それは技術的にではなく「雷の挙動」により困難であることが明らかになり、雷ナウキャストなどの「システム」として構築されるに至った。

雷の挙動は速く、雷雲の形成開始より、わずか10分程度で落雷に至ることもあれば、数十キロメートルの範囲で同時に落雷する、さらに前線に伴うものなどでは、同時刻に落雷の起きる範囲が数百キロメートルといったことも珍しくない。このため、たとえ1000km、あるいはそれ以上の範囲で生じる稲妻探知能力を有する雷検知器を用いて観測を行っても、落雷を確実に予測できるものにはならず、まして数十キロメートル程度の範囲の稲妻探知能力しかない簡易型落雷警報機などはこの場合、単体では役に立たないものとなる。これをおぎなうことができるのは、気象レーダーによる雨雲観測、あるいはその場に固定設置する電荷検出型雷検知器などになるが、雷雲の形成開始よりわずか10分程度で落雷に至ることがある以上、ピンポイントで「落雷警報」が出せるのはせいぜい10分前であり、人身防護の点で、確実には雷注意報に従うしかない。2010年9月23日、千葉県で起きた落雷事故において、気象庁の雷ナウキャストの「警報」にあたる「活動度2」以上は、間に合っていない[注釈 2]。しかし発表されていた雷注意報は正しく、雷ナウキャストの「活動度1」も正確であった。
退避行動
雷鳴が聞こえたら建物等への避難が原則

稲光から雷鳴までの時間差で現在地から落雷地点までの距離を測り雷雲の接近を予測するという方法がとられる場合もあるが[23]、これは危険性を完全には排除できない。基本的には、雷鳴が聞こえ始めた時点でその場所にも落雷の恐れがあり、早めに建物などに避難する必要がある。これは落雷範囲の分布を踏まえたもので、雷雲の直下だけでなく周辺にも及ぶ落雷は水平方向に10 km程度の広がりをもって発生するが、雷鳴の聞こえる範囲も約10 kmであることによる[7][9][11]。更に、雷雲の移動速度も時速5 - 40kmほどある[9]。ちなみに、日本における落雷事故の多くは、雷鳴がまだ遠いと楽観視していたり聞こえなかったりして、屋外での活動を継続していたときに発生している[7]

また雷鳴や稲光の他にも、黒い雲が接近してくる、急に冷たい風が吹いてくるなど、雷雲や発達した積乱雲の接近を示す特徴も、避難の目安となる[24]

屋外で雷から身を守るため電柱の近くに逃れたり姿勢を低くしたりする行動例がいくつか知られているが、これらの多くは「そうしない場合よりも相対的に安全である」に過ぎない[11]。基本的に「屋外にはどこにも安全な場所はない」と考えられている[25]。退避行動は第1に、建物(特に鉄筋コンクリート造建物)や自動車の中への退避を目指すことが最優先となる。よって、海や山などのレジャーレクリエーションゴルフ、屋外でのイベントに出かけるときなど、直ちに建物に避難できないような場所に出かけるときは、その前から天気予報に十分注意して、予定変更や中止を含めた判断を行うことが求められ、例えば野外音楽イベント花火大会などの最中でも会場から離れる選択が必要[7][9][11][24][13]

レジャーで訪れるキャンプ場海岸ゴルフ場、スポーツ競技中のグラウンドなどの開けた場所では、人に雷が落ちやすいため注意する必要がある[13]

そして、基本的には雷鳴が聞こえている間は退避を続けることが勧められている。活動再開をルール化するときには、「雷鳴が30分間聞こえない」ことなどが目安として使用される[13]

自動車、飛行機列車の中にいれば落雷が直撃しても中の人間は守られる。ただし、激しい衝撃があり窓が割れたり一部設備が焼け焦げたりする恐れがある。また、荒れた天候での自動車への避難は突風による横転のリスクも考慮する必要がある[11]

建物内では、特に一般家屋では配電線およびテーブルタップ、電源プラグで接続する家電製品およびそれに接続されているコード類、またテレビのアンテナ線は雷サージの影響を受けるものの、これらから1 m以上離れることができれば人身防護の観点では十分に安全と考えられる(家電製品自体の保護の観点ではプラグを抜くことが有効)[7]

屋外スポーツの指導者や施設管理者にも落雷事故を予防するための正しい知識が要求される。日本では高知県の高等学校の生徒が課外クラブ活動としてのサッカーの試合中に落雷により負傷した事故の損害賠償請求訴訟で、最高裁が「上空には黒く固まった暗雲が垂れ込め、雷鳴が聞こえ、雲の間で放電が起きるのが目撃されていた」という事実を認定したうえで、「スポーツ指導者において、落雷事故発生の危険性の認識が薄く、雨がやみ、空が明るくなり、雷鳴が遠のくにつれ,落雷事故発生の危険性は減弱するとの認識が一般的なものであったとしても左右されるものではない。なぜなら、上記のような認識は、平成8年までに多く存在していた落雷事故を予防するための注意に関する本件各記載等の内容と相いれないものであり、当時の科学的知見に反するものであって、その指導監督に従って行動する生徒を保護すべきクラブ活動の担当教諭の注意義務を免れさせる事情とはなり得ない」とした(平成18年3月13日最高裁判決)。
避難できない場合の被害軽減策電柱による保護範囲の概念図。


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