2005年時点の世界平均では、全被害者のうち死亡者は30(%)とされている[3]。しかし日本では被害者の70%が死亡している。すなわち日本の落雷事故による死亡率は異常に高い。これは日本の事故実態として、ほとんどが屋外で危険な木の下などで雨宿りをしていて側撃雷にやられており、直撃雷による死亡率、すなわち約80%とあまり差が出ないことによる[16]。日本の場合、被害のおよそ全数を把握する体制・システムはないので、数字としてあらわれてこない軽傷事故がどのくらいあるのか不明であるが、日本ではこの事故実態と高い死亡率より、専門家の間で国民一般に対する防雷意識の啓蒙が叫ばれている。ちなみに米国では2008年現在のデータで、年平均被害者数400名、死亡者数62名であり、死亡率は15.5(%)と低い[17]。なお警察白書にある数字で、日本における死亡リスクとして観ると、2000年時点で航空機事故を1とするならば、落雷による死亡リスクは0.66、癌による死亡リスクの約5万分の1である[18]。
ヒトの危険回避プロセスは「認知」「判断」「行動」であるが、雷は、ヒトの五感で直接、危険性を認知するのに限界があり、従って後の判断と行動に誤りが生じやすい。そのためこれを補助する「予報」「警報」が重要になる。
落雷予測雷ナウキャスト雷ナウキャストの見方
かつて雷の詳細な予報は困難であり、天気予報においても雷注意報などで注意を呼びかけるにとどまっていた。しかしその後の雷観測技術の飛躍的な進歩により、日本の気象庁は2010年5月27日から、落雷を予報する「雷ナウキャスト」を開始するに至った。これは、日本全国を精度1000m四方、60分先まで10分刻みの局地落雷予測を行うものである[19][20]。また、日本の電力会社各社[注釈 1]や民間[21]でも、独自に雷雲や落雷の観測システムを持っている。
しかし雷観測技術が進歩し、雷の性質や挙動が次々に解明された結果、雷からの人身防護として最も確実なのは、雷注意報が出ているときは屋外に出ないことである[22]という、昔から経験的に知られていたことが改めて明らかになった。アメリカ海洋大気局(NOAA)では、2010年5月現在、「When Thunder Roars, Go Indoors!」(日本語で「雷が近づいたら、建物の中へ入れ!!」)をスローガンとし、広く米国民に人的落雷被害防止を呼びかけている[17]。2010年5月31日には、アメリカ合衆国のバラク・オバマ大統領が、雷雨の中、全米国民に向けて雷からの人身防護を呼びかけた[17]。
雷は極めて局地的な気象現象であるのに「雷注意報」は広域かつ長時間に渡ってされることが多く、これにいちいち従って避難していたのでは何もできないという現実的要求から、十分な時間的余裕をもって確実にピンポイントで「落雷警報」を出すためのものとしての雷観測手段、すなわち雷検知器が人身防護用ツールの「切り札」として期待されたのであるが、皮肉にもそのための大規模な雷観測と研究がすすめられた結果、それは技術的にではなく「雷の挙動」により困難であることが明らかになり、雷ナウキャストなどの「システム」として構築されるに至った。
雷の挙動は速く、雷雲の形成開始より、わずか10分程度で落雷に至ることもあれば、数十キロメートルの範囲で同時に落雷する、さらに前線に伴うものなどでは、同時刻に落雷の起きる範囲が数百キロメートルといったことも珍しくない。このため、たとえ1000km、あるいはそれ以上の範囲で生じる稲妻探知能力を有する雷検知器を用いて観測を行っても、落雷を確実に予測できるものにはならず、まして数十キロメートル程度の範囲の稲妻探知能力しかない簡易型落雷警報機などはこの場合、単体では役に立たないものとなる。これをおぎなうことができるのは、気象レーダーによる雨雲観測、あるいはその場に固定設置する電荷検出型雷検知器などになるが、雷雲の形成開始よりわずか10分程度で落雷に至ることがある以上、ピンポイントで「落雷警報」が出せるのはせいぜい10分前であり、人身防護の点で、確実には雷注意報に従うしかない。2010年9月23日、千葉県で起きた落雷事故において、気象庁の雷ナウキャストの「警報」にあたる「活動度2」以上は、間に合っていない[注釈 2]。しかし発表されていた雷注意報は正しく、雷ナウキャストの「活動度1」も正確であった。 稲光から雷鳴までの時間差で現在地から落雷地点までの距離を測り雷雲の接近を予測するという方法がとられる場合もあるが[23]、これは危険性を完全には排除できない。基本的には、雷鳴が聞こえ始めた時点でその場所にも落雷の恐れがあり、早めに建物などに避難する必要がある。
退避行動
雷鳴が聞こえたら建物等への避難が原則