菱形動物
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Dicyema balamuthi を用いた実験[36]では、蠕虫型幼生はネマトジェンの軸細胞内で軸芽細胞 (じくがさいぼう、axoblast)と呼ばれるアガメート(agamete、非配偶体)から無性的に生じる[13]。初期発生は螺旋卵割に類似した分裂で進行し、5細胞期以降は左右相称型に移行する[3]有糸分裂によって増殖する軸芽細胞のうち、胚発生に向かうものは不等分裂を行い、大小2個の細胞となる[13]。大細胞が一度分裂を休止する間、小細胞が均等分裂を繰り返し、そこでできた娘細胞が大細胞を取り囲む。大細胞は小細胞に取り囲まれると極端な不等分裂を行ってクロマチンを放棄し、更に不等分裂を行うが、その際小さい方の細胞は大きい方の細胞内に取り込まれる[13]。この大きい方の細胞は軸細胞となって分裂することなく伸長し、小さい方の細胞は最初の軸芽細胞となってその数を増し、軸細胞の外側を取り囲む小細胞はその種に固有の細胞数となるまで有糸分裂を行う[13]。小細胞は極帽を作る細胞と胴部を覆う体皮細胞に分化し、細胞表面に繊毛を生じることで蠕虫型幼生が完成する[13]

ヤマトニハイチュウ Dicyema japonicum およびコンボウニハイチュウ Dicyema clavatum を用いた実験[35]では、体外に出た蠕虫型幼生はネマトジェンとなるが、体皮細胞数は変化せず、各細胞の肥大・伸長により成長することが解っている[13]
インフゾリゲンの発生

インフゾリゲンの発生も蠕虫型幼生の発生と同様に軸芽細胞から起こる[3]。腎嚢内の個体群密度が高まると、それまで蠕虫型幼生を作っていた軸芽細胞の1個が不等分裂を行い、小さい方の細胞は細胞質を失って軸細胞内に留まるが、大きい方の細胞がインフゾリゲンを形成する[3][13]

ヤマトニハイチュウ Dicyema japonicum を用いた実験[38]では、インフゾリゲンとなる細胞はさらに不等分裂によって大小の細胞に分かれ、大きい方の細胞は均等分裂を行ってインフゾリゲンの軸細胞と卵原細胞を生じ、小さい方の細胞は精原細胞となる[13]。これ以降、インフゾリゲンの軸細胞は分裂を行わず肥大し、細胞質内に精原細胞を取り込む。卵原細胞はインフゾリゲンの軸細胞の表面に留まって均等分裂を繰り返し、卵系列(それ以降の卵原細胞と第1卵母細胞を生じる細胞系列)の始祖となる[13]。第1卵母細胞は減数分裂を行うが、第1分裂前期に入ると精子の侵入を待ち分裂を一時停止する[13]。一方、インフゾリゲンの軸細胞内の精原細胞は均等分裂を繰り返し、以後の精原細胞と第1精母細胞を生じる細胞系列の始祖となる[13]。第1精母細胞は減数分裂を行い精細胞となって、直ちに変形し直径約2 μm(マイクロメートル)の精子となる[13]。完成した精子は鞭毛をもたずアメーバ運動により移動し、インフゾリゲンの軸細胞から出てその表面に位置する直径約12 μmの第1卵母細胞内に侵入して受精卵を生じる[13]
滴虫型幼生の発生

滴虫型幼生はインフゾリゲン内で分化した卵と精子の自家受精により受精卵から発生する[13][3]。精子の侵入を受けた第1卵母細胞は減数分裂を再開し、極体を放出して両核の合体が起こる[13]。受精卵はインフゾリゲンから脱出し、発生を続けながらロンボジェンの軸細胞内で体の両極端に移動する[13]。卵割様式は等全割で、初期発生は螺旋卵割であり、24細胞期以降左右相称型に移行する[3]
分布

ニハイチュウをもつ頭足類が分布する海域は温帯から南極沿岸にかけてが多く、熱帯から亜熱帯の頭足類には寄生率が低い傾向がある[2][25]。日本では、沖縄沿岸の珊瑚礁に棲むワモンダコ Octopus cyanea Gray1849、シマダコ Callistoctopus ornatus (Gould, 1852)、アナダコ Octopus oliveri (Berry, 1914)、オオマルモンダコ Hapalochlaena lunulata (Quoy & Gaimard1832)、および紀伊半島南部の岩礁に棲息するマメダコ Octopus parvus Sasaki1917サメハダテナガダコ Callistoctopus luteus (Sasaki1929) といった種にはニハイチュウが寄生していない[2][25]。Hochberg (1990)によると、熱帯地域に生息する頭足類にニハイチュウ類が見られないのは緯度あるいは海水温と関係があると考えられてきた[2][39]。ところが沖縄沿岸の珊瑚礁から砂泥にかけて生息するコブシメ Sepia latimanus Quoy & Gaimard1832 や台湾沿岸の砂泥に生息するスナダコ Amphioctopus kagoshimensis (Ortmann, 1888) やトラフコウイカ Sepia pharaonis Ehrenberg1831にはニハイチュウ類が確認されており、低緯度海域にニハイチュウが見られないのは海水温だけでなく宿主が棲息する底質の違いにもよるのではないかと考えられている[2][40]
寄生率

温帯海域の砂泥に生息する頭足類では、ニハイチュウ類の寄生率は高く、成熟したマダコやイイダコではほぼすべての個体に寄生している[2][41][35]。また、寄生率は宿主のサイズによっても異なる場合があり、マダコでは、小さな個体の寄生率はかなり低く、サイズが大きくなるにつれて100%に近くなる[2]。イイダコでは507個体中、506個体において寄生が確認された[2]。逆に寄生率の低い宿主の頭足類はミミイカで、これは本来ミミイカはニハイチュウの宿主ではなく、生態が似ている他の頭足類から誤感染したためと考えられる[25]
日本近海のニハイチュウ相

日本沿岸に普通に見られるニハイチュウ類はニハイチュウ科に属するディキエマ属 Dicyema、Dicyemennea、Dicyemodeca および Pseudicyemaである[25]

日本産のニハイチュウは1938年、中尾 (Yoshio Nakao)とヌベル (Henri Nouvel)らによってはじめて記載された[3][29]。それはヌベルが東京帝国大学三崎臨海実験所を訪れた際、マダコとアオリイカからそれぞれ発見したミサキニハイチュウ Dicyema misakiense およびアオリイカニハイチュウ D. orientale である[2]。ヌベルは1947年にも記載し、それまでで2属4種が報告された。さらに1992年の古屋らの研究により6種となり[29]、1999年の古屋の報告により、新たに14種が記載され、4属20種となった[3]。Furuya (2017)では4属45種(うち6種は未記載)が挙げられている[42]


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