菱形動物
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LapanとMorowitzの実験では、人工培養液中で固体密度を上げると約1日でネマトジェンが滴虫型幼生を形成し始めてロンボジェンに転換し、個体群密度を元に戻すとロンボジェンがネマトジェンになる逆の転換が起こることが確認された[13][33]。ネマトジェンからロンボジェンへの転換中個体の軸細胞内にはインフゾリゲンと発生中の滴虫型幼生、そして退化中の蠕虫型幼生が混在する[13]。しかし個体群密度上昇による相転換が何により引き起こされているかは明らかになっていない[4]
形態ニハイチュウ Dicyema sp. (ロンボジェン)の頭部のスケッチと、各部の名称

生活環の項で記述の通り、形態的に成体(ネマトジェン・ロンボジェン)と蠕虫型幼生からなる蠕虫型個体と、滴虫型幼生に区別でき[34]、どちらも組織器官と呼べる構造を持たない[4]
成体の体制

成体(あるいは蠕虫型個体)の形態はネマトジェン、ロンボジェンに拘らずほぼ共通で、極帽と呼ばれる頭部とそれに続く胴部を持つ[13]。また、体の構造は内外2層で非常に単純であり、内部は1個の軸細胞 (じくさいぼう、axial cell)と呼ばれる1個の円筒形の細胞、外側は繊毛を持つ体皮細胞 (たいひさいぼう、peripheral cell)と呼ばれる1層の細胞群に覆われている[4]極帽 (きょくぼう、calotte)は通常8ないし9個の体皮細胞からなり、繊毛を密生している[13][4]。極帽の体皮細胞は前極細胞 (ぜんきょくさいぼう、propolar cell)と後極細胞 (こうきょくさいぼう、metapolar cell)と呼ばれ、前者は通常4個、後者は4-5個存在する[4]。胴部は側極細胞、間極細胞、尾極細胞と呼ばれる体皮細胞と軸細胞からなる[4]。側極細胞 (そっきょくさいぼう、parapolar cell)は極帽に続く2個の体皮細胞で、尾極細胞 (びきょくさいぼう、uropolar cell)は体の最後端の2個の体皮細胞であり、その間を埋める全ての体皮細胞が間極細胞(かんきょくさいぼう、diapolar cell)と呼ばれる[4]。後方の体皮細胞は栄養分を蓄積し、肥瘤細胞(ひりゅうさいぼう、verruciform cell[28])となることがある[7]。蠕虫型個体には体内に腔所はなく、組織を持たない[4]
滴虫型の体制

蠕虫型個体に比べ滴虫型幼生は細胞数が多く、体制はかなり複雑である[4]。滴虫型幼生の体は卵形で、後半に繊毛を具えている[4]。前端の2細胞は頂端細胞(ちょうたんさいぼう)と呼ばれ、各1個ずつ屈光体 (くっこうたい、refringent body)を持つ[4]。この小体は強度に中和されたイノシトール6リン酸マグネシウム塩(C6H6P6O24Mg6・50H2O)という単一の化合物からなる[4]。体内に腔所を持たない蠕虫型個体に対し、滴虫型幼生は体内に芽胞嚢腔 (がほうのうこう、urn cavity)をもつ[4]。その内部には後側を嚢壁細胞 (のうへきさいぼう、capsule cell)により覆われた芽胞嚢細胞 (がほうのうさいぼう、urn cell)があり、それらはそれぞれ1個ずつ芽胞細胞 (がほうさいぼう、germinal cell)を内蔵している[4]。芽胞嚢腔の壁の一部を作る腹内細胞 (ふくないさいぼう、ventral internal cell)は腔内に向けて細胞表面に繊毛を備え、その細胞質にはPAS染色陽性でアミラーゼによって分解されない多数の顆粒がある[4][35]
発生

ニハイチュウの発生は無性生殖・有性生殖ともに成体(無性虫)の軸細胞内でおこり、蠕虫型幼生および滴虫型幼生が発生する[13]。このような発生現象は他の後生動物からは知られていない[13]。軸細胞内には様々な発生段階の胚が存在しており、いずれの胚も完成の都度、体外へ放出されて幼生となる[13]。放出の際、軸細胞の傷口はすぐに修復される[13][36]。ニハイチュウの発生は非常に簡単であるが、プログラム細胞死が見られるなど厳密にプログラムされていることが知られている[3][37]
蠕虫型幼生の発生

Dicyema balamuthi を用いた実験[36]では、蠕虫型幼生はネマトジェンの軸細胞内で軸芽細胞 (じくがさいぼう、axoblast)と呼ばれるアガメート(agamete、非配偶体)から無性的に生じる[13]。初期発生は螺旋卵割に類似した分裂で進行し、5細胞期以降は左右相称型に移行する[3]有糸分裂によって増殖する軸芽細胞のうち、胚発生に向かうものは不等分裂を行い、大小2個の細胞となる[13]。大細胞が一度分裂を休止する間、小細胞が均等分裂を繰り返し、そこでできた娘細胞が大細胞を取り囲む。大細胞は小細胞に取り囲まれると極端な不等分裂を行ってクロマチンを放棄し、更に不等分裂を行うが、その際小さい方の細胞は大きい方の細胞内に取り込まれる[13]。この大きい方の細胞は軸細胞となって分裂することなく伸長し、小さい方の細胞は最初の軸芽細胞となってその数を増し、軸細胞の外側を取り囲む小細胞はその種に固有の細胞数となるまで有糸分裂を行う[13]。小細胞は極帽を作る細胞と胴部を覆う体皮細胞に分化し、細胞表面に繊毛を生じることで蠕虫型幼生が完成する[13]

ヤマトニハイチュウ Dicyema japonicum およびコンボウニハイチュウ Dicyema clavatum を用いた実験[35]では、体外に出た蠕虫型幼生はネマトジェンとなるが、体皮細胞数は変化せず、各細胞の肥大・伸長により成長することが解っている[13]
インフゾリゲンの発生

インフゾリゲンの発生も蠕虫型幼生の発生と同様に軸芽細胞から起こる[3]。腎嚢内の個体群密度が高まると、それまで蠕虫型幼生を作っていた軸芽細胞の1個が不等分裂を行い、小さい方の細胞は細胞質を失って軸細胞内に留まるが、大きい方の細胞がインフゾリゲンを形成する[3][13]

ヤマトニハイチュウ Dicyema japonicum を用いた実験[38]では、インフゾリゲンとなる細胞はさらに不等分裂によって大小の細胞に分かれ、大きい方の細胞は均等分裂を行ってインフゾリゲンの軸細胞と卵原細胞を生じ、小さい方の細胞は精原細胞となる[13]。これ以降、インフゾリゲンの軸細胞は分裂を行わず肥大し、細胞質内に精原細胞を取り込む。卵原細胞はインフゾリゲンの軸細胞の表面に留まって均等分裂を繰り返し、卵系列(それ以降の卵原細胞と第1卵母細胞を生じる細胞系列)の始祖となる[13]。第1卵母細胞は減数分裂を行うが、第1分裂前期に入ると精子の侵入を待ち分裂を一時停止する[13]。一方、インフゾリゲンの軸細胞内の精原細胞は均等分裂を繰り返し、以後の精原細胞と第1精母細胞を生じる細胞系列の始祖となる[13]。第1精母細胞は減数分裂を行い精細胞となって、直ちに変形し直径約2 μm(マイクロメートル)の精子となる[13]。完成した精子は鞭毛をもたずアメーバ運動により移動し、インフゾリゲンの軸細胞から出てその表面に位置する直径約12 μmの第1卵母細胞内に侵入して受精卵を生じる[13]
滴虫型幼生の発生

滴虫型幼生はインフゾリゲン内で分化した卵と精子の自家受精により受精卵から発生する[13][3]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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