荒野の誘惑
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この大祭司は、わたしたちの弱さを思いやることのできないようなかたではない。罪は犯されなかったが、すべてのことについて、わたしたちと同じように試練に会われたのである。 ? ヘブル人への手紙4:15(口語訳)
第一の試みそこで悪魔が言った、「もしあなたが神の子であるなら、この石に、パンになれと命じてごらんなさい」。イエスは答えて言われた、「『人はパンだけで生きるものではない』と書いてある」。 ? ルカによる福音書4章3節と4節(口語訳)

イエスは旧約聖書から引用して悪魔に答えた。ここで引用した聖句は申命記の8章3節と思われる[9]。40日間断食したというのは出エジプト記における荒れ野の40年を表していると考えられる。イスラエルの民は出エジプトの時に神を疑い、十分に信頼しなかったが、それでも神は不信の民をマナによって養った。イエスが申命記8章3節を引用しつつ反論するのはそのような神に対する完全な信頼があることを示す。 [10][11]

第二の試みそれから、悪魔はイエスを高い所へ連れて行き、またたくまに世界のすべての国々を見せて言った、「これらの国々の権威と栄華とをみんな、あなたにあげましょう。それらはわたしに任せられていて、だれでも好きな人にあげてよいのですから。それで、もしあなたがわたしの前にひざまずくなら、これを全部あなたのものにしてあげましょう」。イエスは答えて言われた、「『主なるあなたの神を拝し、ただ神にのみ仕えよ』と書いてある」 ? ルカによる福音書4章5節から8節(口語訳)

悪魔がすべての国々を任されているというのは、ヨハネの第一の手紙の5章19節にも類似した記述がある[12]

ひざまずくだけで国々全部あげると悪魔自身が語っている事から、悪魔は国々全部よりも自分が崇拝される事を願っている事が分かる。神ではないものを拝むということは偶像崇拝に等しい。この箇所は福音書の読者にとってはコリントの信徒への手紙一10章19-20節にあるようにローマの偶像崇拝による背教が念頭にあったと考えられる。ヨセフスはユダヤの総督ピラトスがカイサルの胸像をエルサレムに持ち込んだことに対してユダヤ人が抗議したことに関して記述している。ピラトスは胸像の撤去はカイサルへの侮辱と考えたためローマ軍によりユダヤ人達を包囲し、騒ぎを中止して家に引き上げなければ命はないと脅迫したが、ユダヤ人たちは身を投げ首を差し出して、律法の賢明なる教えを犯すくらいなら喜んで死を迎えると宣言した。それを受けてピラトスは像をエルサレムから撤去した。[11][13]また、わたしたちは神から出た者であり、全世界は悪しき者の配下にあることを、知っている。 ? ヨハネの第一の手紙5章19節(口語訳)すると、なんと言ったらよいか。偶像にささげる供え物は、何か意味があるのか。また、偶像はなにかほんとうにあるものか。そうではない。人々が供える物は、悪霊ども、すなわち、神ならぬ者に供えるのである。わたしは、あなたがたが悪霊の仲間になることを望まない。 ? コリント人への第一の手紙10章19-20節(口語訳)



第三の試みそれから悪魔はイエスをエルサレムに連れて行き、宮の頂上に立たせて言った、「もしあなたが神の子であるなら、ここから下へ飛びおりてごらんなさい。『神はあなたのために、御使たちに命じてあなたを守らせるであろう』とあり、また、『あなたの足が石に打ちつけられないように、彼らはあなたを手でささえるであろう』とも書いてあります」。 イエスは答えて言われた、「『主なるあなたの神を試みてはならない』と言われている」。悪魔はあらゆる試みをしつくして、一時イエスを離れた。それからイエスは御霊の力に満ちあふれてガリラヤへ帰られると、そのうわさがその地方全体にひろまった。 ? ルカによる福音書4章9節から14節(口語訳)

悪魔は詩篇91篇11-12節を引用しつつ主を試すように誘惑する。それに対してイエスは申命記6章16節を引用しつつその誘惑をはねつける。ここでイエスが飛び降りることをせず主を試みてはならないというのは当然信頼がないからではない。主への完全な信頼があることは第一の誘惑で石をパンに変えることをしなかったことによって証明されている。また、深淵に飛び降りることはマタイ26-27章で十字架にかかることによってなされることなのである。[11]あなたがたがマッサでしたように、あなたがたの神、主を試みてはならない。 ? 申命記6章16節(口語訳)これは主があなたのために天使たちに命じて、あなたの歩むすべての道であなたを守らせられるからである。彼らはその手で、あなたをささえ、石に足を打ちつけることのないようにする。 ? 詩篇91篇11節から12節(口語訳)



メシアへの期待

ラビは、メシアがエルサレム神殿の屋根に立つことを期待した。[14]
批評

トマス・ホッブズジョン・ロック など、批評家によると「荒野の誘惑」は 寓話と解釈されている。橋本はQ資料においてイエスのメシア意識についての自己検討や内的な葛藤が物語化され、イエス伝伝承に組み込まれたとする。[10]
美術『曠野のイイスス・ハリストス
(画:イワン・クラムスコイ

ドゥッチョの祭壇画や、ボッティチェリシスティーナ礼拝堂の壁画が有名である。近代ロシア美術では『曠野のイイスス・ハリストス』がイワン・クラムスコイの代表作の一つとなっている。
脚注^ 誘惑の山
^ 『地球の歩き方 E 05、イスラエル 2013?2014』(ダイヤモンド・ビッグ社)
^ "Israel & the Palestinian Territories" (Lonely Planet Publications, 2012)
^ 田川建三『 ⇒新約聖書 訳と註 第一巻 マルコ福音書/マタイ福音書』作品社、2008年、535-541頁。.mw-parser-output cite.citation{font-style:inherit;word-wrap:break-word}.mw-parser-output .citation q{quotes:"\"""\"""'""'"}.mw-parser-output .citation.cs-ja1 q,.mw-parser-output .citation.cs-ja2 q{quotes:"「""」""『""』"}.mw-parser-output .citation:target{background-color:rgba(0,127,255,0.133)}.mw-parser-output .id-lock-free a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-free a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/6/65/Lock-green.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .id-lock-limited a,.mw-parser-output .id-lock-registration a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-limited a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-registration a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/d/d6/Lock-gray-alt-2.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .id-lock-subscription a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-subscription a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/a/aa/Lock-red-alt-2.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .cs1-ws-icon a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/4/4c/Wikisource-logo.svg")right 0.1em center/12px no-repeat}.mw-parser-output .cs1-code{color:inherit;background:inherit;border:none;padding:inherit}.mw-parser-output .cs1-hidden-error{display:none;color:#d33}.mw-parser-output .cs1-visible-error{color:#d33}.mw-parser-output .cs1-maint{display:none;color:#3a3;margin-left:0.3em}.mw-parser-output .cs1-format{font-size:95%}.mw-parser-output .cs1-kern-left{padding-left:0.2em}.mw-parser-output .cs1-kern-right{padding-right:0.2em}.mw-parser-output .citation .mw-selflink{font-weight:inherit}ISBN 978-4-86182-135-6。 ⇒http://www.sakuhinsha.com/bible/21356.html。 
^ Joseph Thayer. Thayer's Greek-English Lexicon of the New Testament: Coded With the Numbering System from Stron's Exhausive Concordance of the Bible. Hendrickson Pub. ISBN 978-1565632097 
^ The Brown-Driver-Briggs Hebrew and English Lexicon: With an Appendix Containing the Biblical Aramaic : Coded With the Numbering System from Strong's Exhaustive Concordance of the Bible. Hendrickson Pub. ISBN 978-1565632066 
^ John Calvin. John Calvin Commentary on a Harmony of the Evangelists, Matthew, Mark, and Luke. 1. p. 184-195. https://calvin.edu/centers-institutes/meeter-center/files/john-calvins-works-in-english/Commentary%20031%20-%20Harmony%20of%20the%20Evangelists-Matthew-Mark-Luke%20Vol.%201.pdf 
^ T.G.ロング 著、笠原義久 訳『ヘブライ人への手紙 (現代聖書注解)』日本基督教団出版局、2002年、119-131頁。ISBN 978-4818404441。 
^ 人はパンだけでは生きず、人は主の口から出るすべてのことばによって生きることをあなたに知らせるためであった。(申命記(口語訳)#8:3後半)
^ a b 『新共同訳新約聖書注解1マタイによる福音書?使徒言行録』日本基督教団出版局、1991年。ISBN 978-4818400818。 
^ a b c D.R.A.Hare 著、塚本恵 訳『マタイによる福音書 (現代聖書注解)』日本基督教団出版局、2006年、58-64頁。ISBN 978-4818402539。 
^ また、わたしたちは神から出た者であり、全世界は悪しき者の配下にあることを、知っている。(ヨハネの第一の手紙(口語訳)#5:19)
^ フラウィウス・ヨセフス 著、秦剛平 訳『ユダヤ古代誌6』筑摩書房、2000年、31-32頁。ISBN 978-4-480-08536-8。 
^ "Our Rabbis related that in the hour when the Messiah shall be revealed he shall come and stand on the roof of the temple." Pesikta Rabbati 62 c-d Rivka Ulmer, A Synoptic Edition of Pesiqta Rabbati Based upon All Extant Manuscripts and the Editio Princeps. South Florida Studies in the History of Judaism 155, 1995


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