ジョン・フォードはまだ駆け出しの頃に、撮影所を訪ねた晩年のアープと実際に会ったことがあり、そのとき本人から聞いた話のとおりに本作を作ったというエピソードがある。しかし、実際には『荒野の決闘』の人物設定やストーリー展開は史実からの乖離が非常に大きい[6][7][8][9]。
この映画の舞台はアリゾナ州のメキシコ国境近くのトゥームストーンであるが、撮影場所はそこから北へ約770kmのユタ・アリゾナ両州にまたがる、ジョン・フォード西部劇定番のモニュメントバレーである[10]。モニュメントバレーはナバホ族居留地内にあり[11]、フォードは25万ドルかけてそこにトゥームストンの町をそっくりセットとして建設し、長期ロケによる撮影に及んだ。
このため、撮影現場は実際に「荒野に孤立した町」となり、戸外でのショットの際、通りの彼方や建物と建物の間に、果て無く広がる荒野や奇岩が入ることになった。手前から奥まで縦に通った構図に、霧や砂埃が風で運ばれる様子や雲の様、遥か彼方を進む馬車隊などが自然に映り込む事により、空気感が増しリアリティや詩情が醸し出されている。また、一般の西部劇ではあまり見られない、荒野側から見た孤立した町の様子や、町と荒野の境目の情景が描かれている。当然、主要な建物の位置関係にも破綻が無い。フォードはさらにBGMの使用を極力廃し、自然の音を優先することにより画面の現実感を引き出している。
トゥームストンのセットは、撮影終了後もナバホの部族会議に寄付されるかたちで残されたが、1951年になって処分された。
ストーリー
牛泥棒左からモーガン、ワイアット、ヴァージル
ワイアット、モーガン、ヴァージル、ジェームズのアープ兄弟は、牛追いとなってカリフォルニアまで牛の群れを運んでいた。途中の荒野で、クラントン一家の当主オールド・マン・クラントンと長男のアイクに出会う。牛を売れと執拗にもちかけられるが、ワイアットは断った。近くにトゥームストンという町があることを教わり、今晩行ってみようと答える。
その夜、街の近郊で野営をしていたアープ兄弟は、四男のジェームズが買った純銀の首飾りをネタに談笑していた。彼を故郷で待っている婚約者のコリー・スーへの土産なのだ。三人は若年のジェームスひとりを牛の群れの見張りに残し、暗雲の夜道をトゥームストンへ向かう。
夜だというのにけたたましい喧騒に満ちたトゥームストン。到着した三人は、理髪店に向かう。早速髭を剃ろうとした瞬間、銃声が鳴り響き銃弾が飛び込んできた。泥酔したインディアン・チャーリー[12]が、拳銃をぶっ放して暴れていたのだ。命が惜しい保安官は及び腰になり、その場で町長にバッジを返し退職を表明した。落ち着いて髭も剃れない状況に業を煮やしたワイアットは、無法者が篭城している娼館に二階の窓から侵入。頭を殴って気絶させ、引き摺り出してきた。感激した町長は、この町の保安官になってくれないかと依頼する。彼はワイアットの名前を聞き、有名なダッジシティの保安官だと驚くが、ワイアットは「元」保安官だとすげなく断る。
三人が野営地に戻ってみると、牛の群れは一頭もいなくなり、末弟ジェームズの射殺体が無言で豪雨に打たれていた。
保安官就任酒場にて
町に取って返したワイアットは、ホテルに住まう町長の元を訪ね、保安官を引き受ける。彼の部屋を出たアープは、ホテルの玄関で土砂降りの雨の中を来たクラントン一家とはち合わせた。ランプの灯りの下、対峙する双方。かすかに雷鳴が聞こえる。牛を盗まれたのでこの町にとどまり保安官をすると告げるワイアット。「保安官?トゥームストンで?」嘲笑するオールドマンは、ワイアットの名を聞いた途端に青ざめる。
ジェームズの墓前に額ずくワイアット。この町を出ていく頃には子供が安心して住める町にしてみせると誓う。
保安官となったアープ兄弟は、職務の傍ら消えた牛の足取りを追っていた。クラントン一家は怪しいが決め手が見つからない。
ワイアットが酒場でポーカーをしていると、酒場の歌姫チワワが「一万頭の牛がいなくなった」という歌[13]を嫌がらせに歌いだす。さらにワイアットのカードを盗み見て賭博師に合図を送る。彼女は、賭博の元締めドク・ホリデイの情婦であり、ドクの留守中に保安官に就任したワイアットを疎ましく思っているのだ。ワイアットはチワワを水桶に突っ込んでお仕置きをする。折しも駅馬車の護衛から戻ったドクが賭博師をたたき出し、それは俺の仕事だというワイアットとの間に緊張が走る。お互いを牽制し合い一時は一触即発の状態となるが、二人はどちらからともなく折り合い、乾杯するに至った。
旅役者の失踪トゥームストンにやってきたシェイクスピア役者
そんな折、荒くれたトゥームストンの町に巡業のシェイクスピア役者がやってくる。