花粉症
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同じ花粉飛散量であっても症状の程度が異なるほか、どの程度の花粉で症状が出るかの敏感さも個人によって異なる。
花粉飛散量と症状の無相関
例えば花粉飛散量が2倍になったからといって、症状が2倍ひどくなるわけではない。多量の花粉に曝露されると症状も悪化するが、少量であっても連続すると重症化していくのも特徴である。また、一旦最重症化すると、少々の花粉量の変化では症状は変化しなくなる傾向があり、花粉飛散期が終了しても、症状はなかなか改善しない。
モーニングアタック
目覚めのときに強く症状が出ることもあり、俗にモーニングアタックといわれる。就寝中に吸い込んだ花粉が目覚めとともに症状を引き起こしたり、自律神経の切り替えがスムーズにいかないのと、鼻粘膜における高まった過敏性とがあいまって症状が出ると考えられている。緊張すると症状がおさまる、リラックスすると症状が出てくるなども、自律神経のバランスの具合によって説明されている。リラックス時や就寝時には副交感神経が優位となり、その場合に症状が出やすいという。なお、自律神経の影響を強く受ける、すなわち鼻における自律神経失調症ともいうべき症状は血管運動性鼻炎といい、一般に気温差などにより鼻水が多く出るのが特徴である。雨の日なのに症状がひどい場合、花粉症にこれが合併していると考えることもある。
遅発相
6 - 10時間程度遅れて出てくる症状を遅発相という。花粉がないはずの室内で、就寝前などに強い鼻詰まりに悩まされる場合などがこれにあたると考えられている。空気清浄機等を使用しても症状の改善がない場合は、遅発相の可能性がある。
原因植物スギの雄花と花粉ヤシャブシブタクサ

花粉症を引き起こす植物は60種以上が報告されている。

春先に大量に飛散するスギの花粉が原因であるものが多いが、ヒノキ科ブタクサマツイネ科ヨモギなど他の植物の花粉によるアレルギーを持つ人も多くいる。

特にスギ花粉症患者の7 - 8割程度はヒノキ花粉にも反応する。また、「イネ科」と総称されることからもわかるとおり、その花粉症の患者は個別の植物ではなくいくつかのイネ科植物の花粉に反応することが知られている(○○科と総称されるのは光学顕微鏡による肉眼観察では区別がつかないためでもある)。これらは花粉に含まれているアレルゲンがきわめて類似しているため、交差反応を起こしている。

花粉症には地域差もあるといわれる。例えばスギの少ない北海道ではスギ花粉症は少なく、イネ科やシラカバ(シラカンバ)による花粉症が多い。中国地方、特に六甲山周辺において、大量に植樹されたオオバヤシャブシによる花粉症が地域の社会問題になったこともある。北陸の稲作が盛んな地域では、他地域よりもハンノキ花粉症が多い。シラカバ、ハンノキヤシャブシ、オバヤシャブシなどは口腔アレルギー症候群をおこしやすい。

アメリカ合衆国ではブタクサヨーロッパではイネ科の花粉症が多い。北欧ではシラカバ等カバノキ科の花粉症が多い。

花粉症の原因となる植物は、風に花粉を乗せて飛ばす風媒花が一般的であるが、職業性の花粉症にみられるように、その花粉を大量かつ長期にわたって吸い込んでいれば、どんな植物の花粉でも花粉症になり得ると考えられている。職業性の花粉症は果樹の人工授粉に従事する栽培農家などによくみられるが、華道家が発症した例もある。

なお、セイタカアワダチソウ(セイタカアキノキリンソウ)の俗名がブタクサということもあり、ごく一部で混乱が生じている。実際、過去に花粉症の原因植物と言われたこともあったが、セイタカアワダチソウは虫媒花のため、原則的には花粉は飛ばさない。ただし、大群落を作ることが多く、こぼれた花粉が周辺に飛散してしまうことはある。同じキク科のブタクサヨモギ等の花粉に対しても交差的に感作が成立することもある。

日本人の主食の米となるイネは、開花期が早朝でごく短く、水田で栽培されるため、花粉症の原因になることは少ない。

原因花粉をつきとめるためにはアレルゲンの検査が必要であるが、身近にその植物があれば患者自身でもわかる場合がある。花粉の観測を行っている施設は多いが、その多くはスギ・ヒノキの飛散期間のみであり、通年で行っていたとしても、ほとんどはビルの屋上などに装置を設置しているため、草花花粉についての正しい飛散情報を得ることは難しい。また、飛散範囲が局地的であることも、草花花粉の飛散情報を得るのが難しい原因となっている。

花粉量は多い年と少ない年が交互になる傾向があり、花粉量が多い年を「表年」、少ない年を「裏年」という[5]
医学的見地による原因

花粉症は、患者が空中に飛散している植物の花粉と接触した結果、後天的に免疫を獲得し、その後再び花粉に接触することで過剰な免疫反応、すなわちアレルギー反応を引き起こすものである。花粉症はアレルギーの中でも、IgE(免疫グロブリンE)と肥満細胞(マスト細胞)によるメカニズムが大きく関与しており、即時型のI型アレルギーの代表的なものである。

同じI型アレルギーが主であるアトピー性皮膚炎では、IV型のアレルギー反応も部分的に関与するといわれる[注釈 2]。花粉症でも、皮膚症状が出る場合には、IV型(すなわち接触性皮膚炎、いわゆるかぶれ)が関与している場合もあると考えられている。

ここでは、即時型のI型アレルギーのみを紹介している。また、一つの仮説としてTh細胞バランスを紹介する。
アレルギー反応のメカニズム
発症まで

花粉症の患者は、症状が現れる以前にアレルギーの元(アレルゲン)になる花粉に接触している。目や鼻などの粘膜に花粉が付着すると、花粉内およびオービクルからアレルゲンとなるタンパク質が溶け出し、マクロファージ(貪食細胞)に取り込まれ、非自己(異物)であると認識される。この情報は胸腺由来のリンパ球であるヘルパーT細胞のうちのTh2を介し、骨髄由来のリンパ球であるB細胞に伝えられる。B細胞は花粉アレルゲンと特異的に反応する抗体を作り出す。

抗体は本来、体内に侵入した病原細菌や毒素などの異物を排除・無害化するためのものであり、ヒトにはIgG、IgM、IgA、IgD、IgEの5つのタイプが存在するが、花粉症の患者で最も重要なのがIgEである(こうした抗体が関与する免疫反応を液性免疫という)。このIgEは、血液や粘膜中に存在する肥満細胞や好塩基球に結合し、再び花粉アレルゲンが侵入してIgEに結合すると、様々な化学伝達物質(ケミカルメディエーター)が遊離して症状を引き起こす(後述)。

なお、IgEが一定レベルまで肥満細胞に結合した時を感作が成立したと言い、発症の準備が整ったことになる。


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