この節は特に記述がない限り、日本国内の法令について解説しています。また最新の法令改正を反映していない場合があります。ご自身が現実に遭遇した事件については法律関連の専門家にご相談ください。免責事項もお読みください。 船長は海上企業主体(船主もしくは船舶賃借人)によって選任される[9]。船舶共有の場合は船舶管理人が選任を行う(旧商法700条
船長の選任と解任
船長がやむを得ない事由により自ら船舶を指揮することができないときは法令に別段の定めがある場合を除いて他人を選任して自己の職務を行わせることができ(旧商法707条
・改正709条前段)、これを代船長という[9]。この場合においては船長はその選任につき船舶所有者に対して責任を負う(旧商法707条・改正709条後段)。また、船長が死亡したとき、船舶を去ったとき、又はこれを指揮することができない場合において他人を選任しないときは、運航に従事する海員は、その職掌の順位に従って船長の職務を行う(船舶法20条)。これを代行船長というが、代行船長は厳密な意味での船長ではない[9]。
船長は雇用契約の終了事由によりその地位を失うほか、船舶所有者は何時でも船長を解任することができる(旧商法721条1項本文・改正715条1項)[9]。ただし、正当な理由なく解任したときは船長は船舶所有者に対し解任によって生じた損害の賠償を請求することができる(旧商法721条1項但書・改正715条2項)。
船長の権限
私法上の権限
船長の代理権
船長には船主からの代理権授与契約に基づく代理権が認められている[10]。船長の代理権に加えた制限は善意の第三者に対抗することができない(旧商法714条・改正708条2項)。
船籍港外においては船長は、船舶について抵当権を設定することや、借財をすることを除いて、航海のために必要な一切の裁判上または裁判外の行為をなす権限を有する (旧商法713条1項・改正708条1項)。
積荷の供用
船長は航海を継続するため必要なときは積荷を航海の用に供することができる(旧商法719条・改正712条)。
公法上の権限
船舶指揮権
船長は船舶の運行責任者として船舶指揮権を有する[11]。船舶指揮権は船主から授権されたものではなく船舶共同体の安全確保のために法律によって国から授権された権限である[11]。
船舶指揮権の内容は以下参照。
指揮命令権
船長は指揮命令権を有し、海員を指揮監督し、かつ、船内にある者に対して自己の職務を行うのに必要な命令をすることができる(船員法第7条)。
懲戒権
船長は、海員が船員法21条の事項を守らないときは、これを懲戒することができる(船員法22条-24条)。
危険に対する処置
船長は、海員が凶器、爆発又は発火しやすい物、劇薬その他の危険物を所持するときは、その物につき保管、放棄その他の処置をすることができる(船員法25条)。
船長は、船内にある者の生命若しくは身体又は船舶に危害を及ぼすような行為をしようとする海員に対し、その危害を避けるのに必要な処置をすることができる(船員法26条)。
船長は、必要があると認めるときは、旅客その他船内にある者に対しても、前二条に規定する処置をすることができる(船員法27条)。