自殺
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世界保健機関(WHO)の自殺予防マニュアルによれば、自殺既遂者の90 %が精神的に不健康な状態にあり、また60 %がその際に抑うつ状態であったと推定している[106][注 5]。該当しなかったのは、診断なし2.0 %と適応障害2.3 %に過ぎないとしている。物質関連障害(アルコール依存症や麻薬)の比率については日本の状況と大きくことなるものの[注 6]

自殺既遂者の約半数が人格障害と診断される可能性があり、境界性人格障害が最も多いと推定する研究者もいる[107]統合失調症患者の約5 %が自殺で死亡する[108]摂食障害も自殺に関して高リスクの病態である[102]

WHOの2008年の発表では、毎年100万人近くの自殺者のうち、うつ病患者が半数を占めると推定している[109]。WHOは自殺と密接に関連しているうつ病など、3種の精神障害を早期に治療に結びつけることによって、自殺予防の余地は十分に残されていると強調している。

自殺をした人の約80 %の人は死亡する前年に医師の診察を受けており[110]、45 %は自殺する前の月に受診していた[111]。自殺者の約25 - 40 %がその前の年に精神保健サービスにかかっていた[110][112]SSRIクラスの抗うつ薬は、小児の自殺の頻度を増加させるようであるが、成人の自殺のリスクは変化しない[113]。精神衛生上の問題に対する支援を受けたがらないこともリスクを高める[114]
物質乱用詳細は「薬物乱用」を参照

物質乱用は、大うつ病双極性障害に起因する自殺で、2番目に一般的なリスクファクターである[115]。慢性的な物質乱用は、薬物中毒と同程度の関連性が認められている[116][117]。個人的な悲しみ[117]、メンタルヘルス問題[116]は物質乱用リスクを増加させる。『飲酒者の辿る過程』(1846年)。アルコール依存は貧困、犯罪、自殺を導くことを描いた。

自殺を試みる多くの人々は、催眠鎮静剤(アルコールベンゾジアゼピンなど)の影響を受けており[118]アルコール依存症は15 - 61 %のケースで確認されている[116]。アルコール消費量やバーの分布が高い国々では、自殺率も高い[119]。アルコール依存治療を受けた人々は、その2.2 - 3.4 %が自殺で人生を終える[119]。アルコール依存症による自殺は、男性、老人、過去に自殺を試行した人々らで一般的である[116]ヘロイン利用者の3 - 35 %は自殺し、これはそうでない人の14倍高い[120]。青年期のアルコール乱用、神経精神的不全は自殺リスクを増大させるといわれている[121]大麻はリスクを増加させるとは確認されていない[116]

コカインメタンフェタミン乱用は、自殺と高い関連性がある[116][122]。コカイン利用者は、その離脱時が自殺リスクが最大となる[123]。習慣的乱用者は、そのおよそ20 %がいつかは自殺を試行し、65 %は以上は自殺を考えている[116]喫煙は自殺リスクと関連性があり[124]、エビデンスは小さいが関連性が指摘されている[124]。症例対照研究とコホート研究にて、自殺とたばこの喫煙との関連がみられている[125]。1995年と1998年に日本で行われた40から69歳の男性約4万5千人を対象にした多目的コホート研究(JPHC研究)でも、喫煙者では自殺率が30 %高くなっていると報告されている。自殺率はとくに一日あたりの喫煙本数が多いと増加する[126][127]。たばこの消費と自殺企図による入院に関連が見られた[128]
心理的要因と社会的要因

自殺のリスクを増大させる心理的要因には、絶望感、人生における喜びの喪失、抑うつ不安、興奮、硬直した思考、反芻、思考抑制、対処技術の低下などがある[129][130][131]。問題を解決する能力の低さ、以前持っていた能力の喪失、衝動のコントロールができないことも自殺に影響する[129][132]。高齢者では、自分が他人に負担をかけていると思うことが自殺に強く影響する[133]。結婚歴のない人も自殺のリスクが高くなる[91]。家族や友人の喪失や仕事の喪失など、最近の生活上のストレスが一因となっている可能性がある[129][114]

ある種の人格因子、特に神経症的傾向と内向性の高さが自殺と関連している。このことは、孤立していて苦悩に敏感な人が自殺を試みる可能性を高めることにつながる[130]。一方、楽観主義には自殺の予防効果があることが示されている[130]。その他の心理的危険因子には、ストレスの多い状況に閉じ込められた生活や、感覚をほとんど持たないこと挙げられる[130]。脳のストレス反応系の変化は、自殺状態の間に変化する可能性がある[134]。具体的には、ポリアミン[135]視床下部-下垂体-副腎系の変化である[136]
社会的要因
膨大な数の統計学的・疫学的研究が、文化(宗教・教育)と生活様式(都会暮らしか田舎暮らしか)と家族の状態(独身か既婚か)、社会的状況(失業状態や収監状態など)が自殺に強く影響することを明らかにしている[137]社会的孤立と社会的な支援の欠如は、自殺のリスク増加と関連している[130]。貧困もまた自殺の要因であり[138]、周囲の人々と比較して相対的貧困が高まると自殺のリスクが高まる[139]。インドでは1997年以降、20万人以上の農民が、負債の問題もあって自殺している[140]。中国では、農村部の自殺率が都市部の3倍に達しているが、この地域の財政難も高自殺率の原因の一部と考えられている[141]。失業した人々や事業破綻した人々の人生をしっかりと救済する制度がつくられていてその制度がきちんと機能している国では、失業が自殺に直結するようなことはない。だが、失業した人々や事業破綻した人々を行政がきちんと救済していない国では、失業や事業破綻が自殺に直結してしまうことになる。失業それ自体より、行政が人々を救うような制度を整えているか、行政がその制度を実際にきちんと機能させて実際に人々を救っているかどうか、ということのほうが強く影響するのである。たとえば失業率が高い国は世界には多くあるが、例えばスペインの失業率は20 %を超えているが自殺が社会問題とはなっていない[142]。各国ごとのジニ係数と自殺率には相関がみられず[143]、これは所得格差が自殺率と相関が少ないことを意味する。ただし、ジニ係数は自殺未遂率とは有意な相関がある[143]。日本の自殺者305名の遺族を対象にした調査を元にした危険複合度の分析によれば、主な根本要因として「事業不振」「職場環境の変化」「過労」があり、それが「身体疾患」、「職場の人間関係」「失業」「負債」といった問題を引き起こし、そこから「家族の不和」「生活苦」「うつ病」を引き起こして自殺に至る[144]


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