過去の自殺試行は最大のリスクファクターである[101]。自殺者の約20 %は以前に自殺未遂を経験しており、自殺未遂者の1 %は1年以内に自殺を遂行し[91]、5 %以上は10年以内に自殺により死亡する[102]。自傷行為は通常自殺未遂ではなく、自傷行為を行った人のほとんどは自殺のリスクは高くない[103]。しかし、別の研究では自傷行為は自殺リスクと関連性があり、自傷行為を行う人は12か月後の自殺死亡リスクが50 - 100倍であると英国国立医療技術評価機構(NICE)は報告している[104]。 一般市民の自殺既遂者の診断[105]気分障害35.8 %
メンタルヘルス問題
薬物乱用22.4 %
統合失調症10.6 %
パーソナリティ障害11.6 %
器質性精神障害1.0 %
その他の精神疾患
不安障害6.1 %
適応障害3.6 %
その他のDSM分類Iの疾患5.1 %
診断なし3.2 %
自殺したうつ病の女性を描いた絵画。彼女を写した写真をもとにしたもの「メンタルヘルス」も参照
世界保健機関(WHO)の自殺予防マニュアルによれば、自殺既遂者の90 %が精神的に不健康な状態にあり、また60 %がその際に抑うつ状態であったと推定している[106][注 5]。該当しなかったのは、診断なし2.0 %と適応障害2.3 %に過ぎないとしている。物質関連障害(アルコール依存症や麻薬)の比率については日本の状況と大きくことなるものの[注 6]。
自殺既遂者の約半数が人格障害と診断される可能性があり、境界性人格障害が最も多いと推定する研究者もいる[107]。統合失調症患者の約5 %が自殺で死亡する[108]。摂食障害も自殺に関して高リスクの病態である[102]。
WHOの2008年の発表では、毎年100万人近くの自殺者のうち、うつ病患者が半数を占めると推定している[109]。WHOは自殺と密接に関連しているうつ病など、3種の精神障害を早期に治療に結びつけることによって、自殺予防の余地は十分に残されていると強調している。
自殺をした人の約80 %の人は死亡する前年に医師の診察を受けており[110]、45 %は自殺する前の月に受診していた[111]。自殺者の約25 - 40 %がその前の年に精神保健サービスにかかっていた[110][112]。SSRIクラスの抗うつ薬は、小児の自殺の頻度を増加させるようであるが、成人の自殺のリスクは変化しない[113]。精神衛生上の問題に対する支援を受けたがらないこともリスクを高める[114]。
物質乱用詳細は「薬物乱用」を参照
物質乱用は、大うつ病や双極性障害に起因する自殺で、2番目に一般的なリスクファクターである[115]。慢性的な物質乱用は、薬物中毒と同程度の関連性が認められている[116][117]。個人的な悲しみ[117]、メンタルヘルス問題[116]は物質乱用リスクを増加させる。『飲酒者の辿る過程』(1846年)。アルコール依存は貧困、犯罪、自殺を導くことを描いた。
自殺を試みる多くの人々は、催眠鎮静剤(アルコールやベンゾジアゼピンなど)の影響を受けており[118]、アルコール依存症は15 - 61 %のケースで確認されている[116]。アルコール消費量やバーの分布が高い国々では、自殺率も高い[119]。アルコール依存治療を受けた人々は、その2.2 - 3.4 %が自殺で人生を終える[119]。アルコール依存症による自殺は、男性、老人、過去に自殺を試行した人々らで一般的である[116]。ヘロイン利用者の3 - 35 %は自殺し、これはそうでない人の14倍高い[120]。青年期のアルコール乱用、神経精神的不全は自殺リスクを増大させるといわれている[121]。大麻はリスクを増加させるとは確認されていない[116]。
コカインやメタンフェタミン乱用は、自殺と高い関連性がある[116][122]。コカイン利用者は、その離脱時が自殺リスクが最大となる[123]。習慣的乱用者は、そのおよそ20 %がいつかは自殺を試行し、65 %は以上は自殺を考えている[116]。喫煙は自殺リスクと関連性があり[124]、エビデンスは小さいが関連性が指摘されている[124]。症例対照研究とコホート研究にて、自殺とたばこの喫煙との関連がみられている[125]。1995年と1998年に日本で行われた40から69歳の男性約4万5千人を対象にした多目的コホート研究(JPHC研究)でも、喫煙者では自殺率が30 %高くなっていると報告されている。自殺率はとくに一日あたりの喫煙本数が多いと増加する[126][127]。たばこの消費と自殺企図による入院に関連が見られた[128]。 自殺のリスクを増大させる心理的要因には、絶望感、人生における喜びの喪失、抑うつ、不安、興奮、硬直した思考、反芻、思考抑制、対処技術の低下などがある[129][130][131]。問題を解決する能力の低さ、以前持っていた能力の喪失、衝動のコントロールができないことも自殺に影響する[129][132]。高齢者では、自分が他人に負担をかけていると思うことが自殺に強く影響する[133]。結婚歴のない人も自殺のリスクが高くなる[91]。家族や友人の喪失や仕事の喪失など、最近の生活上のストレスが一因となっている可能性がある[129][114]。 ある種の人格因子、特に神経症的傾向と内向性の高さが自殺と関連している。このことは、孤立していて苦悩に敏感な人が自殺を試みる可能性を高めることにつながる[130]。一方、楽観主義には自殺の予防効果があることが示されている[130]。その他の心理的危険因子には、ストレスの多い状況に閉じ込められた生活や、感覚をほとんど持たないこと挙げられる[130]。
心理的要因と社会的要因