自殺
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自殺が、家族や以前自殺者にかかわったことのある人々、偶然もしくは業務上自殺後の対応にかかわった人々、さらに社会に対して及ぼす心理的影響・社会的影響は計り知れないものがある[6]。自殺が1件生じると、少なくとも平均6人の人が深刻な影響を受ける[6]。学校や職場で自殺が起きる場合は少なくとも数百人の人々に影響を及ぼす[6]。たとえば、「うつ病不安障害、PTSD(心的外傷後ストレス障害)などの深刻な危険を生じかねない」「さまざまな深刻な心理的苦痛に圧倒される」「遺された人自身が自殺の危険を伴う事態に追い込まれることすらある」とされる[14]。また「自殺の事実を知った人の多くは、まず衝撃で頭の中が真っ白になり、すべての感覚がマヒ状態に陥ってしまう」「多大な罪責感にさいなまれ、抑鬱状態になる」「長期にわたり影響が残り続け、心的外傷後ストレス障害などの精神障害を発症する」とされている[15]
語義
英語

自殺を意味する英語suicide(スーサイド)自体の歴史は比較的浅く、『オックスフォード英語辞典』(Oxford Dictionaries)の【suicide】によると、1651年、ウォーター・チャールトンによる1651年の文にある「自殺によって逃れることのできない災難から自己を救うことはではない」という文が初出とされる。この用語の語源は現代(近代)ラテン語の「suicida」であり、「sui(自分自身を)」+、「caedere(殺す)」という表現である。

他にも1662年1635年という説もあり、いずれにしても17世紀からの使用が定説とされる。それ以前には「自己を殺す」「死を手にする」「自分自身を自由」にする、などの表現があったが、一言でまとまってはいない。米国自殺学会のエドウィン・S・シュナイドマン(en:Edwin Shneidman)は「来世という思想を捨て去ることができたとき、その時初めて、人にとって自殺が可能になった」と述べて、観念の変化が反映していると指摘した[16]。来世や魂の不死といったことを信じたとき、死は単なる終わりではなく別の形で「生き続ける」という存在の形態を移したものに過ぎなくなるからである。この概念の登場したのには死生観の変化がある。

このように自殺の問題は「」をどう捉えるかということと不可分の関係にあり、文化や時代によってさまざまな様相を呈する。
仏教での「自殺」

日本の仏教では自殺を「じせつ」と読む。死は永遠ではなく輪廻転生によりとは隔てがたいと、死生観を説いた。殺生十悪の一つに数え、波羅夷罪(はらいざい)を犯すものであるとして、五戒の一つであるため、自殺もそれに抵触するとして禁じられているが、真言宗豊山派寺院石手寺は「自殺者が成仏しないという考えは仏教にはない」という見解を示している[17]。病気などで死期が近い人が、病に苦しみ、自らの存在が僧団の他の比丘僧侶)に大きな迷惑をかけると自覚して、その結果、自発的に断食などにより死へ向う行為は自殺ではないとされる(『善見律』11)。また菩薩などが他者のために自らの身体を捨てる行為は捨身(しゃしん)といい、これは最高の布施であった。また、焼身往生や補陀落渡海密教系仏教の入定即身仏)や行人塚のように人々の幸福のために自ら命を絶った例があった。

現代の日本では、仏教僧が「自死・自殺に向き合う僧侶の会」を組織して遺族や自殺を考える人の話を聞いたり[18]、宗派を問わない追悼法要を増上寺で毎年行ったりしている[19]
対策詳細は「en:Suicide prevention」および「en:Suicide intervention」を参照

自殺願望を持つ人への支援を行う際には、何よりもまず時間をかけて丁寧に本人の気持ちに耳を傾けていく。この際、一般論を押しつけたり話題をそらしたり激励をしたりすると、一度開きかけた心を再び閉じさせてしまい、孤独感を強め自殺願望を増幅させてしまう。そのため支援者は、本人と時間を共有し、共感的に耳を傾け、信頼できる援助関係を構築していく。このようにして形成された関係性は、本人の心理的なよりどころとなり、自殺したい気持ちを和らげていく効果がある[20][21]

次に、自殺願望をもたらす背景要因に共感的に耳を傾けた上で、その背景要因へのアプローチを行っていく[22]精神医学的要因にとどまらず、心理社会的ならびに経済的要因まで含めて広範なアセスメントを行い、必要なソーシャルワーク(社会的支援)を試みる。たとえば、背景要因として多重債務家庭内における暴力被害が見出された場合、司法書士や配偶者暴力相談支援センター、福祉事務所等の適切な支援資源につなげていく[22]。この際に支援者は、支援機関へ同行する、家族などに同行を依頼する、支援機関に連絡して確実に対応してもらえるよう日程を押さえる等、支援資源に確実につなぐための配慮をすることが重要である[22]
予防の取り組み
世界的な取り組み「en:List of suicide crisis lines」、「世界の自殺防止相談窓口一覧」、「全米自殺予防ライフライン」、および「en:National Suicide Prevention Lifeline」を参照

世界保健機関(WHO)の自殺予防に関する特別専門家会議によると、自殺の原因は個人や社会に内在する多くの複雑な原因によって引き起こされるものの、自殺は予防できることを知ることが大切で、自殺手段の入手が自殺の最大の危険因子で自殺を決定づける、とした。毎年9月10日は「世界自殺予防デー」として、WHOと国際自殺防止協会( IASP=The International Association for Suicide prevention)、その他の非政府組織によって、世界保健機関加盟各国で自殺防止への呼びかけやシンポジウムが行われている。日本でも2007年から、16日までの1週間を自殺予防週間と定めており、地方自治体や関係機関が9月に各種啓蒙運動を行っている。

アメリカ合衆国政府は自殺につながるような自殺防止のための無料電話を、かつての10桁番号から、2022年7月に3桁(988)に短縮するなど相談しやすくしたが、差し迫った自殺の危険があると判断された場合に警察に通報されかねないことへの警戒・反発も起きている[23]。世界の自殺防止相談窓口一覧(英語版)
日本の取り組み

日本における自殺対策としては相談室の設置、カウンセラーの増強などの対策が取られている地域がある(各都道府県・都市の相談窓口一覧(外部リンク:自殺総合対策推進センター(JSSC)))。2006年10月28日には自殺対策基本法が施行され、『自殺対策白書』が発表されている。民間では悩み相談を受け付けるNPOやボランティアが相談窓口を開設している(いのちの電話など)[24][10]
宗教の取り組み

WHOのデータによると、宗教で自殺をタブーとしている宗教での自殺率は低く、タブーとしていない仏教などの宗教、そして無宗教と順に自殺率が高くなっている。これら宗教での自殺率が低い理由として、仏教を含めて、宗教関係者がカウンセラーとして相談窓口を提供し、自殺防止に貢献していることが考えられる。窓口としては、各宗派の宗教施設、仏教テレフォン相談[25]などがある。
まわりの人やカウンセラーの取り組み

自殺予防に向けて悩み相談に乗る者は、ゲートキーパーと呼ばれる。これは特別な人ではなく、相手を心配して相談に乗りたいと思う全ての人がゲートキーパーである。その相談や気付きの方法としては、以下の取り組みが推奨されている。

日本では、厚生労働省から公開されており印刷してポケットに入れられる『誰でもゲートキーパー手帳』、研修用の『ゲートキーパー養成研修用テキスト』で誰でもゲートキーパーの知識を習得可能となっている[26]。カウンセラーやゲートキーパーらは「TALKの原則」で相談に乗るようにとされている。日本で行われる「TALKの原則」とは、誠実に自殺したいという気持ちを否定せず思いやりを持って話しかける(Tell)、自殺についてはっきりと尋ねる(Ask)、相手の話に傾聴する(Listen)、安全を確保する(Keep safe)の頭文字から来ている[27]

英語圏のゲートキーパーは、Question(質問)、Persuade(説得)、Refer(医師などの専門家を紹介する)の頭文字からQPRで対応を行っている。このQPR Gatekeeperは習得が容易で、1 - 2時間程度で習得でき、オンラインの講義も可能で多くの人が履修できるようになっている[28][29]。また、自殺念慮を有するクライエントへのアプローチの一つとして、問題解決技法がある[30]。これは、クライエントのつらさに共感した上で、死ぬことを考えた原因や背景にある問題に耳を傾け、その問題を解決する方法をクライエントと支援者が協同で模索し実行することで、希死念慮を引き起こす問題の解決を支援する技法である。問題解決をサポートするにあたって、共感的・支持的な関係性を形成しておくことがポイントとなる[30]。同時に、困難や苦痛を感じながらも生きてこられている、クライエントの強さを認めていくことも大切である。ここまで生きてこられているのは、生きる上で大切な考え方やストレス対処方略などを持てているためであり、そのような肯定的な側面に光を当てていくことで、自己肯定感の形成をサポートすることができる[31]
マスメディアなどの企業の取り組み詳細は「自殺報道ガイドライン」を参照


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