自動列車停止装置
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乗務員が信号に従った運転取扱いを行っている場合はその運転に介入せず、乗務員の(体調不良、錯誤、故意など理由を問わず)異常な取扱いが行われた場合にだけ介入して列車のブレーキを動作させる安全装置。

ATS装置には様々な構造があり、同一路線でも別の装置が併用・機能分担されている場合がある。以下に、その構造と分類を概説する。
制御方式車上子(写真中央○部)

列車の制御情報を地上から列車(車上)に伝える方式には、制御情報を連続的に車上に伝える「連続制御」、地上子など1点で情報を伝える「点制御」の2種類がある。この区別は情報の伝達に関するものであり、受けた情報に基づく速度照査の方法とは異なる。「点制御」の場合にも、速度照査に関して地上子から受けた情報を即時に照査する「点照査」の方式と、地上子からの情報を記憶して連続して照査する「連続照査」の方式がある。

制御情報を伝達するため、ATSは地上装置と車上装置によって構成されている。

地上装置とは地上に設置される、信号機の現示や速度制限などの情報を列車に送る装置であり、車上装置とは車両に搭載される、地上装置が送った情報を受け取り、条件によって自動的にブレーキを動作させる装置である。列車の速度がある値を超えた時に自動的にブレーキを動作させる機能を速度照査機能(速照)という。

地上装置と車上装置の違いによって、ATSは以下のように分けることができる。
打子(うちこ)式
信号に連動する線路上のトリップアーム(可動打子)で、機械的に列車のブレーキコックを操作する方式。(点制御)
地上子式
線路上に置かれた「地上子」を用いて、電気的に点で列車へ情報を送る方式。(点制御)
軌道回路式
レールに流した信号電流を用いて、電気的に列車へ情報を送る方式。(連続制御)

実際には、同じ制御方式でも地上子やレールに流す信号の周波数や電文(コード)地上子の設置場所などが事業者によって異なるため、さらに細かく分けられている。地上、車上ともに信号の周波数などを含めた方式が一致して初めてATSがシステムとして有効になる。ATSの持つ「地上から列車にブレーキを動作させる」仕組みを利用したものとして、踏切防護装置、曲線速度制限装置、分岐器速度制限装置が存在する。
軌道回路式軌道回路式ATSで使用される受電器(○で囲った部分)

軌道回路式とは、左右2本のレールを伝送線とし閉塞区間終端から入り口に向けて送った信号電流を車軸が短絡することで閉塞入り口には信号電流が届かなくなり、地上では在線を検知して停止信号となる回路(軌道回路)を利用して、車上では車軸より前に取り付けられた受電器[注 2]で信号電流を受信することで、地上から車上に情報を送る方式である。連続制御可能であり、信号現示の変化に対しての追従性が良い。

軌道回路に流す信号電流の種類により商用周波数軌道回路、分倍周軌道回路、AF軌道回路[注 3]、と分けられる。地上から車上に情報を送る方法としては、

地上側で一定時間信号電流を遮断し、車上側では信号電流遮断を検知し、遮断時間で情報を識別する(ATS-B、1号型ATSなど)

AF軌道回路で各信号現示に対応した周波数の信号電流を流し、これを受信する(西武ATSなど)[7]

AF軌道回路で、一定周波数の搬送波を各信号現示に対応した変調周波数で変調した信号電流を流し、これを受信する(阪急ATS、アナログATCなど)

AF軌道回路でデジタル信号を流し、これを受信する(C-ATSなど)

がある。
地上子

情報を受け渡すための地上装置一般。動作原理により変周式、トランスポンダ式などがあり、これを基準に制御する場合が「点制御」となる。ただし、「点制御」で受信した速度制限値などのデータを記憶して参照する場合には点制御でも「連続照査」「連続参照」となり、単純な「点照査」に比べ保安度は高まる。
変周式(単変周・多変周)地上子

変周式とは、車上受信器である車上子が、特定の共振周波数を持つLC回路で構成される地上子の上を通過すると、電磁結合により車上子の発振周波数が地上子の共振周波数に引き上げられるので(これを変周作用という)、この周波数を車上装置のフィルタ回路で検出して地上情報を得る方式をいう。地上子の共振周波数は各々の信号コマンド(信号に対応した指令)に対応づけられており、単変周地上子においてはLC回路の開閉による共振の有無で、多変周地上子においては各信号コマンドに対応した共振周波数のLC回路に切り替えることで、車上に情報を送る。ATS-S地上子(旧・新)の内部結線図
左側が旧型、右側が外付コンデンサを取付けて電気検測車からの地上子良否検査に対応改造したもの。新型の小型地上子とは異なる

日本国有鉄道が開発したATS-S形では、車上側では車上子を含む共振回路により常時発振周波数105 kHzを発信している、その出力の一部はフィルタ回路(105 kHz近傍の周波数しか通過できないバンドパスフィルタ)を経由してリレーを扛上させている。地上子は、内部がコイルとコンデンサが直列接続された共振周波数130 kHzのLC共振回路で構成されており、その共振回路に地上子内蔵の制御リレー[注 4]もしくは地上子制御用のリレー箱を介してケーブルが信号機の制御用継電器と接続されている。地上子が不動作時(信号機が停止信号以外)には、地上子制御リレーが扛上して地上子の共振回路が無効化されているため、車上子による相互誘導による発振周波数の引き込み(変周作用)は起きず、車上子の発振周波数は105 kHzのままであるが、動作時(信号機が停止信号)には、地上子制御リレーが落下して地上子のLC共振回路が構成され、車上子の発振周波数が地上子の共振回路に引き込まれて105 kHzから130 kHzに変化する[8][9]。この時、車上子からの発振出力はフィルタ回路を通過できないためリレーが落下し、停止情報をベル鳴動および表示器の赤色灯で伝える。

元々は共振周波数が1種類だったことから、これを特に「単変周」と呼んだが、現在[いつ?]では電気検測車の車上からの地上子良否検査を可能にするため、地上子制御用リレー箱内の制御ケーブルにコンデンサ(外付コンデンサ)を接続して、地上子制御リレーが扛上し短絡されている不動作時の共振周波数を車上装置のフィルタ回路を通過する周波数である103 kHz付近とすることで、車上計測を可能にしている[注 5]

その後、改良された地上子は複数の共振周波数を持たせる共振回路構成になり(これを多変周と呼ぶ)[8]、共振回路の共振周波数に応じて地上子からの信号コマンドを送るシステムとなった。いずれも車上子の単独発振周波数の変化または、後述する脱変周式では複数の周波数を車上子から送出し、特定周波数の上昇を検知して地上子の情報を得る。

京王電鉄小田急電鉄東武鉄道などの信号ATSがこの多変周方式で、東武ATS (TSP) は周波数の一部をパターン発生地上子に割り当てている(信号ATSとは別に過速度・過走防止ATSがある)。

最近の分類では意味の薄れた「多変周 - 単変周」を避け「多情報 - (単情報)」と整理されている。またATSシステムとしては多数の変周周波数を使用しても、単機能地上子として1周波数ということもある。

JR西日本が開発したATS車上装置であるATS-SW2形は脱変周式と呼ばれる共振周波数検出方式を採用しており、スペクトラム拡散方式により、車上装置から車上子にATS地上子で使用されている共振周波数帯域の複数の周波数を常に送信しており、車上子と地上子が電磁結合すると、地上子では共振電流が流れ、車上子では地上子から発信される共振周波数の信号スペクトルの受信レベルが上昇して、それをFFT方式によるスペクトル解析で共振周波数帯域の複数の周波数ごとの信号スペクトルの受信レベル変化によるピーク周波数を検知して共振周波数を検出している[10]


ATS-S形の構成図と常時発振周波数および共振周波数の流れ。A: 増幅器(105 kHzを発信)、B: 車上子、C: 地上子、D: フィルター回路(105 kHzだけを通過させる)、E: リレー、赤の矢印の線は、増幅器から発信される常時発振周波数105 kHzの流れ、黒の矢印の線は、地上子からの共振周波数130 kHzの流れ。ATS-S形の地上子と地上子制御用リレー箱の内部結線図。A: コイル、B: 内部抵抗、C: コンデンサー、D: 外付コンデンサー、E: 地上子制御リレー(QRリレー)の接点、F: 地上子制御リレー(QRリレー)、G: ケーブル。

トランスポンダ式地上子

トランスポンダ(地上子)とは、鉄道ではデジタル情報送受地上子のことで、送信機能のみのものも含めて呼んでいる。ATS-P形で知られる様になったが、それ以前にも新幹線には多数使われている。元々はトランスミッタ(送信機)とレスポンダ(応答機)で構成される通信機器のことであり、問い合わせに対して応答するもの、もしくは中継器を指していて、多くの情報を高品質と高速度で伝達する機能を有している。

トランスポンダ式地上子を使用している、ATS-P形の基本的な地上設備は、符号処理器 (EC) と中継器 (RP) と地上子で構成されており、地上子と車上子との間の送受信に使用される周波数(搬送波)は、有電源地上子又は無電源地上子から車上子に送信する際は1708 kHz、車上子から有電源地上子に送信する際は3000 kHz、車上子から無電源地上子に送信する際は245 kHz[注 6]を使用しており、変調方式はFSK変調(Frequency Shift Keying : 周波数偏移)を使用している[注 7]通信方式は双方向での情報伝達が可能なよう二重通信方式を使用しており、64 kbpsの伝送速度で、HDLCのフレーム構成に準拠した電文構成により、1フレームあたり88又は96ビットのデジタル信号が、繰り返し伝送されている。また、地上装置と車上装置の間では、そのデジタル信号を一旦変換(変調)してから、送受信を行うため、その変換手段としてモデムを使用しており、その変調器 (MOD) と復調器 (DEMO) を使用して、送信の際では、変調器にデジタル信号を入力して変調波を出力させ、受信の際では、復調器に変調波を入力してデジタル信号を復元させることにより、情報を得られるようになっている。
速度照査

列車の速度を計測し、その速度が許容された速度の範囲内であるか否かを照合することを速度照査(そくどしょうさ)と言う。
時素式

列車が線路上の2点を通過するのにかかった時間から速度を計測する方法を時素式と言う。計測を地上側で行う方式(地上時素式)と車両側で行う方式(車上時素式)がある。速度を客観的に測定することができる点で優れているが、原理的に「特定の地点において制限速度を上回っている場合に停止させる」以外の機能を持たせることができない。2019年現在も多くの事業者で使用されているが、パターン照査を導入するために演算式へ移行ないし併用する事業者が増えている。
地上時素式

地上側に設置された列車検出装置でタイマーを起動して一定時間停止地上子を有効にし、この間に列車が停止地上子に到達した場合に列車を停止させる。常時有効な停止地上子を配置することで絶対停止機能を兼ねることができる点で優れているが、地上子に電源が必要である。


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