自傷行為
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1983年に、PattisonとKahanが「故意に自らを害する症候群」(Deliberate self-harm syndrome)という概念を提唱し、その3徴候として、「薬物の乱用または依存」、「自傷」、「食行動異常」を挙げた[10]。女性では摂食障害の60?70%に自傷行為を、また男性では薬物乱用の50%以上に自傷行為を伴うとされており、共通の病理、または共通の行動化要素としての関連が考えられる。

身体改造は、タトゥーピアスなどの形態をとるが、これらはほとんどの文化において文化的に是認され、象徴性あるいは美的に施されるものであり、それを自傷ととらえることは不適切であるが、そうした美的な観点を欠いたまま自分で施されたり、特にそれが衝動的に心理的な苦痛から逃れるという動機でなされた場合には、自傷でありうる[11]。アメリカでタトゥー、ピアスを自傷行為と考える専門家は80?90%であったが、2000年半ばには5?10%であり、ゆえに社会的に容認されていれば、身体改造を自傷と考えることは不適切である[11]
自傷と自殺の区別

自傷と自殺については厳密に異なる。自傷行為を自殺行為と誤解することは治療の妨げとなる(Lineham,1993a[要文献特定詳細情報]) とされている。

自殺が、意識を終わらせたい、苦痛から永遠に遠ざかりたいという動機から行われる[12]。自傷に多い、切るという方法は、自殺では1.4%の者しかとらない[12]

自傷は、自傷者の多くが自己報告するように、心理的な苦痛を和らげ変化させるためであり、一方少数はロボットのような感情の空虚さが苦痛でありそこから逃れるためにであると報告する[12]。自傷では、切る、火傷、殴る、頭をぶつける、タトゥー、ピアス、抜毛など、極端な事例を除けば死に至る可能性は低く、自殺とは異なり反復的に行われ、その部位も選択されている[13]。そうではなく、より強く傷をつける場合には、行動のコントロールができなくなっていることを示唆し、自傷というよりは上述したself-mutilationである[13]
原因

悲しみや怒り、孤独感や劣等感などの感情により衝動を抑えきれない状態に陥った時、または呼吸困難頭痛、吐き気など精神的ストレスによる症状が同時に襲ってきた時、それを抑えるために自らを傷つけてしまうと一般的にはいわれている。しかし、本人にとっては具体的に何が引き金となり自傷行為を行うかはたいてい不明である。自傷を行う者は「ただ強い衝動があった」などといったはっきりとしない妙な説明をしてしまうことが多く、中には自傷をしている時点で記憶意識がない場合もある。これはいわゆる解離性障害であるとみられる。

目的は死に到るための自殺ではなく、孤独感や空虚感を紛らわすための「自己の再確認」や「ストレス解消」といった、生きる願望が屈折した形になって現れる行為である。しかし、自傷行為は生きたいための行動であるにもかかわらず、本人に自殺願望があることも多い。自傷行為は自殺を抑えるための役には立つが、自殺願望がある場合には、最終的に自殺をしてしまうこともあるとされる。しかし、自傷行為による事故死と自殺は判別がつきにくく、実際の様相ははっきりとは分かっていない。自傷行為は社会的には理解されにくく不可思議なものとみなされてしまうことが多い。しかし、本人の状態に対する危険信号としての理解が必要である。

また、医師は初め脳器質疾患を疑うこともあるが、それは念のための診断である。肉体を切るとエンドルフィンというホルモンが分泌され、精神的な苦痛が緩和されるのでそれを無意識的に期待して切る者もあるとも考えられている。だが、大抵本人はこの事は分かっていない[要出典]。
精神疾患

自傷行為をする者に最も疑われるのは境界性パーソナリティ障害[5]解離性同一性障害である。DSM-IV-TRでは境界性パーソナリティ障害の診断基準の5番目に「自殺の行為、そぶり、脅し、または自傷行為のくり返し」が含まれている。この他にはうつ病[5]双極性障害[5]演技性パーソナリティ障害自己愛性パーソナリティ障害強迫性障害なども疑われる。また、統合失調症と判断されることもある[5]

精神医学上は自傷行為はそれらのパーソナリティ障害解離性障害などの精神障害の二次的な症状であるとされ、それ単独で起こるとはされない。しかしながら実際には、必ずしも症状の深刻さと自傷行為のひどさは一致しないことが分かっている。これは本人に「自傷行為者(リストカッター)としてのアイデンティティ」が確立するか否かによるようである。これはかつて多くの精神病者と病院との間の関係で社会学者達から指摘されたものであり、病院での交友関係が定常化して「自分は健常者」という意識がもてなくなることによるとされる。
薬物とアルコール

アルコール乱用薬物乱用と関連性がある[5]。10?24歳では、SSRI系の抗うつ薬が自傷行為を増加させると結果が見られており、特に高用量から服用を開始した場合、自傷行為の出現頻度は2倍であった[14]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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