進行度により、手術、全身化学療法、放射線療法、あるいはこれらの組み合わせが行われる。進行度は治療の観点から以下の3段階に分けられる。 外科的切除が根治的治療であるが、発見時には進行していることが多く、手術不能の場合が多い[23]。 腫瘍を含めての膵切除術が行われる。最も侵襲が大きい手術の一つでもあるため、適応は患者の年齢や全身状態を考慮して検討される。高難度手術であるので、高度専門医療機関やハイボリュームセンター(手術件数の多い病院)での手術が望まれる。 また、膵全摘術は予後・QOLを考慮しあまり行われなくなってきている。また腹部大動脈周囲や上腸間膜動脈周囲のリンパ節郭清は、手術侵襲が大きい上に生存率に改善がないため、施行されなくなってきている。 ほか、不可逆電気穿孔法(IRE、通称:ナノナイフ)があり、こちらの場合、開腹と穿刺の2通りが考えられ、後者の場合侵襲度が低い。 血管に浸潤した、切除不能膵癌も治療できることが特徴。 外科的切除後に行われる化学療法としては以下がある。 Border line resectable症例については術前にS-1+RTまたはFOLFIRINOX(フォルフィリノックス)またはGEM+nabPTX(アルブミン懸濁型パクリタキセル)療法を行う。 全身化学療法としては以下がある。 以下の3つはGEM単独療法と比較して優越性を示しており、後2レジメンが現在の標準的な一次治療である。 「BRCA遺伝子変異陽性の治癒切除不能な膵癌におけるプラチナ系抗癌剤を含む化学療法後の維持療法」を適応症としてオラパリブが認可されている。 二次治療としてはGEMベースの一次治療を行った場合はフッ化ピリミジン系薬剤ベースのレジメンを、FOLFIRINOXなどフッ化ピリミジン系薬剤ベースのレジメンを行った場合はGEMベースのレジメンが選択される。一次治療にGEMベースのレジメンを選択した場合の二次治療としてNAPOLI-1試験の結果よりよりnal-IRI(オニバイド?)+5FU/LV療法が適応を有している。 他臓器への転移はないが動脈浸潤などのため切除不能な局所進行膵癌に対しては、化学療法(5-FUまたはS-1またはGEM)と放射線照射を同時に行う化学放射線療法が行われる。 また、開腹手術を行い病巣付近に集中的に放射線を照射する方法(術中照射)も行われることがある。
切除可能:癌が膵臓周囲に限局しており、重要な血管への浸潤や遠隔転移がない段階。膵癌取扱い規約によるStageIVa以下の膵癌で、腹腔動脈(膵頭部癌)や上腸間膜動脈に浸潤がないものが該当する。手術による切除が第一選択の治療法である。
局所進行:癌が膵臓周囲に限局しているものの、重要な血管への浸潤や後腹膜への広範囲な進展によって根治切除不能とみなされる段階。化学放射線療法もしくは全身化学療法が行われている。
遠隔転移あり:癌が膵臓周囲を超えて全身へ広がっている段階。肝臓への転移もしくは腹膜播種によるものが多い。この段階ではたとえ目に見える癌をすべて切除したとしても早期に再発するため、膵切除による治療上の利点はないと考えられている。全身化学療法が第一選択の治療法である。
治療
臨床病期分類Stage 0からIIIのうち手術可能:術前化学療法(GEM+S-1療法)+手術加療にての根治的切除に術後補助化学療法を併用。
臨床病期分類Stage IIからIIIのうち手術不能:化学放射線療法または化学療法
臨床病期分類Stage IV:化学療法
外科手術
膵頭部癌・膵鉤部癌:膵頭十二指腸切除術(PD)
膵体部癌・膵尾部癌:膵体尾部切除術
化学療法
GEM(ゲムシタビン)単独療法:世界的には標準治療。CONKO-001試験で対照群のプラセボとの比較で優れていた。
S-1単独療法:日本での標準治療。JASPAC-01試験で対照群のGEM単独療法との比較で優れていた。
GEM+カペシタビン併用療法:ESPAC-4試験でGEM単独療法と比較して有意に生存期間を延長した。
modified FOLFIRINOX療法:対照群のGEM単独療法との比較で優れた成績であった。術前化学療法の効果を検討した試験では、行った群で有意に生存期間が延長したため、術前にGEM+S-1療法を行う。
5-FU単独療法
GEM単独療法:5-FU単独療法との比較で優越性を示した。
S-1単独療法(GEST試験):GEM単独療法との比較で非劣性を示した。同じ試験でGEM+S-1併用療法はGEM単独療法との比較で優越性を示せなかったため、標準治療とは見なされていない。
GEM+エルロチニブ併用療法
GEM+nab-パクリタキセル併用療法(MPACT試験)
FOLFIRINOX療法:オキサリプラチン (L-OHP) +イリノテカン (CPT-11) +レボホリナート(l-LV:ロイコボリン)+5-FU(ACCORD11試験)
放射線療法
その他
免疫療法:種々の方法で免疫系を賦活化させ、癌の進行を抑える治療法である。腫瘍特異的な抗原に対する細胞傷害性T細胞を誘導する方法などが試みられている。副作用が比較的軽微であるのが特徴で、他の抗癌療法との併用も行われている。未だ開発途中の治療法であり、一部の施設で臨床試験として行われている程度である。また民間において独自に活性化自己リンパ球移入療法を行っている施設もあるが、治療効果におけるエビデンスが乏しいため一般には推奨されていない。「切除不能膵癌」については、日本膵臓学会はその診療ガイドラインにおいて「切除不能膵癌に対して生存期間の延長を考慮した場合,一般臨床として免疫療法を行わないことを提案する」としている[24]。
支持療法:癌による諸症状を緩和するために行われる治療法である。痛みの緩和、消化器症状の緩和、栄養状態の改善、腹水のコントロール、精神的苦痛のケアなど、その範囲は多岐にわたる。症状コントロールにより抗癌治療の継続を可能にし、有効な抗癌治療がなくなった後でもQOLを保ち命を全うすることを可能とする。膵癌においてはほぼ全ての患者が癌により死亡するため、特に重要と考えられている。
ハイパーサーミア - 前立腺肥大や振戦の治療に使われる高密度焦点式超音波治療法による非侵襲治療が実現している[23]。
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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