日本における腕足動物としては、舌殻綱シャミセンガイ目シャミセンガイ科Lingulidae
シャミセンガイ属Lingulaとしての4種の生息が確認されている。[10]また、同目スズメガイダマシ科Discinidaeについても
スズメガイダマシ Discradisca stella(Gould,1926)
スゲガサチョウチン Discradisca sparselineata Dall, 1920
の2種の生息が確認されている。しかし、潮間帯を生息地とするシャミセンガイ類は、水質汚染や干拓により急速に生息地を減らしており、主産地である有明海においても、食用としての漁獲の対象にならないまでに個体数が減少しており、日本における絶滅は不可避である。イカリチョウチン(Craniscus japonicus)をはじめとする頭殻目、タテスジホオズキガイ(Coptothyris grayi)をはじめとする嘴殻目も日本近海の潮間帯から浅海底に生息するが、分布の詳細は明らかでない。
化石記録デボン紀のシャミセンガイ属化石。
腕足動物の化石は顕生代のどの時代の地層にも見られる。古くは古生代カンブリア紀初期の地層から発見されている。はじめは無関節類しか見られないが、カンブリア紀中期になると有関節類も登場する。有関節類の登場以降、無関節類の数は減少し、デボン紀以降はわずかしか見られない。オルドビス紀には有関節類が多様化し、デボン紀にその多様性は最大となる。しかし古生代末(P-T境界)の大量絶滅で、腕足動物の多様性は大部分が失われた。その後、腕足動物はかつてのように繁栄することなく、衰退傾向にある[11]。腕足動物の化石種は1万3000種記載されているのに対し、現生種は350種程度に留まっている[2]。腕足動物の多様性の減少は、生態の似た二枚貝類との競争に敗れたためと考えられている[1]。
現生のミドリシャミセンガイを含むシャミセンガイ属は、生きている化石(古くから大きく形態を変化させることなく生きてきた生物)の代表例としてよく知られている[12]。これと同じ属の化石(異論はあるが、いずれにしてもよく似た形態を持つ化石)が、オルドビス紀・シルル紀から見つかっているためである。同じ属に分類されるほどではないが、現生種に似た化石はさらに遡り、カンブリア紀からも見つかっている。
ハルキエリアハルキエリアの化石。
グリーンランドのシリウス・パセットで見つかったハルキエリアの化石は、体の両端背側に殻を備えていた。サイモン・コンウェイ・モリス(英語版)は、この殻が腕足動物のものに似ていることを指摘し、腕足動物はハルキエリアのような動物から進化したと推測した。彼の考えによれば、両端に殻を持つハルキエリアの体が折りたたまれるように変化し、2枚の殻が向かい合うようになったことで、腕足動物の体制が起源したという[13]。彼はほかに、腕足動物の持つ剛毛がハルキエリアの持つ硬皮に由来すると考えられること、一部の現生の腕足動物では幼生が変態するときに、体が折りたたまれるようになることを根拠に挙げている。ハルキエリアの硬皮は環形動物の剛毛に由来するとも考えられることから、この仮説は腕足動物と環形動物が近縁であるとする仮説に整合する[4]。一方で、ハルキエリアを軟体動物に近いと考える意見もある[5]。
ところで、このコンウェイ・モリスの主張が正しければ、腕足動物の殻は2枚とも背側にある(腹側は内側に折り込まれる)ことになり、2枚の殻が背腹にあるという伝統的な考えは正しくないことになる[5]。 大プリニウスの『博物誌』には、「二形、白と黒、男と女という特徴を有する」石への言及がある。16世紀の古生物学者は、これに相当する化石を発見し、女性器を思わせるその外見から、子宮石と命名した(陰門石、外陰石などと呼ばれることもあった)。この化石は女性器のみならず、男性器のように見える部分も持ち、17世紀には、子宮の異常や男性の精力減退を改善すると信じられたこともあった。18世紀半ばまでには、子宮石は腕足動物の殻の内側に形成された雌型化石だと正しく認識されるようになった。女性器を思わせる割れ目は殻の内側の隆起を、男性器に見える突起は窪みを写し取ったものである[14]。 伝統的には有関節綱と無関節綱の2綱に大別されてきたが、3つの亜門(舌殻亜門
子宮石
下位分類
ほかに、殻の成分を重視して、炭酸カルシウムの殻を持つ頭殻類と嘴殻類をCalciataとしてまとめ、リン酸カルシウムの殻を持つ舌殻類と並べる体系も提案されている[15]。以下には、蝶番の有無による伝統的な2綱の体系と、3亜門の体系を示す。
以下は伝統的な体系の1例である[16]。同じ2綱に分ける体系でも、下位の分類については異なるものもある[17]。絶滅群は冒頭に†を付した。「腕足動物の一覧(英語版)」も参照オルドビス紀のオルチス目Platystrophia属の化石。
無関節綱 Inarticulata
シャミセンガイ目(舌殻類、リンギュラ目) Lingulida
イカリチョウチン目(頂殻類) Acrotretida
†オボレラ目 Obolellida
†パテリナ目 Paterinida
有関節綱 Articulata
†オルチス目(オルシス目) Orthida
†ストロフォメナ目 Strophomenida
†ペンタメルス目 Pentamerida
クチバシチョウチン目(嘴殻類、リンコネラ目) Rhynchonellida
以下は3亜門に分類する体系である[18]。なお、コーエンはホウキムシ類を腕足動物門の第4の亜門として含める体系を提案している[8]が、本項ではホウキムシ類は腕足動物に含めていない。オルドビス紀の頭殻目Petrocrania属の化石。 人間生活と直接に関わることは少ない。日本や東南アジアでは、ミドリシャミセンガイなどのシャミセンガイ属が食用にされている[19]。
頭殻亜門 Craniiformea
頭殻綱 Craniata
頭殻目(クラニア目、頂殻目、イカリチョウチン目) Craniida
†Craniopsida目
†Trimerellida目
舌殻亜門 Linguliformea
舌殻綱 Lingulata
†アクロトレタ目 Acrotretida
シャミセンガイ目(リンギュラ目) Lingulida
†Siphonotretida目
†パテリナ綱 Paterinata
†パテリナ目 Paterinida
嘴殻亜門 Rhynchonelliformeaジュラ紀のクチバシチョウチン目Rhynchonella属の化石
†Chileata綱
†Chileida目
†Dictyonellida目
†Kutorginata綱
†Kutorginida目
†オボレラ綱 Obolellata
†Naukatida
†オボレラ目 Obolellida
嘴殻綱 Rhynchonellataオルドビス紀のストロフォメナ類化石。
†Athyridida目
†アトリパ目 Atrypida
†オルチス目(オルシス目) Orthida
†ペンタメルス目 Pentamerida
†Protorthida目
クチバシチョウチン目(嘴殻目、リンコネラ目) Rhynchonellida
†スピリファー目 Spiriferida
†Spiriferinida目
ホウズキガイ目(穿殻目) Terebratulida
テキデラ目 Thecideida
†ストロフォメナ綱 Strophomenata
†Billingselloidea目
†Orthotetida目
†プロダクタス目 Productida
†ストロフォメナ目 Strophomenida
人間との関わり
脚注[脚注の使い方].mw-parser-output .side-box{margin:4px 0;box-sizing:border-box;border:1px solid #aaa;font-size:88%;line-height:1.25em;background-color:#f9f9f9;display:flow-root}.mw-parser-output .side-box-abovebelow,.mw-parser-output .side-box-text{padding:0.25em 0.9em}.mw-parser-output .side-box-image{padding:2px 0 2px 0.9em;text-align:center}.mw-parser-output .side-box-imageright{padding:2px 0.9em 2px 0;text-align:center}@media(min-width:500px){.mw-parser-output .side-box-flex{display:flex;align-items:center}.mw-parser-output .side-box-text{flex:1}}@media(min-width:720px){.mw-parser-output .side-box{width:238px}.mw-parser-output .side-box-right{clear:right;float:right;margin-left:1em}.mw-parser-output .side-box-left{margin-right:1em}}ウィキメディア・コモンズには、腕足動物