前口動物のなかで、触手冠動物は、担輪動物(軟体動物など、トロコフォア幼生を持つグループ)と併せて、冠輪動物としてまとめる考えが支持されている[6]。しかし、冠輪動物のなかでの、腕足動物の位置は明らかではない[5]。触手冠動物が単系統群になるという伝統的な考えも疑われている[3]。
キャバリエ=スミスは触手冠動物の3群のなかで、外肛動物だけは異なる系統的位置にあるが、腕足動物と箒虫動物は単系統になると考えて、この2群を亜門として含む腕動物(英語版)門を提唱した[7]。ヘルムカンプらの研究は腕動物の単系統性を支持し、さらに紐形動物(ヒモムシ類)がその姉妹群になると主張した[6]。またコーエンは、箒虫動物は腕足動物門のなかに含まれると述べている[8]。一方で、ダンらは腕足動物、箒虫動物、紐形動物の3群が単系統群になるという点では同じ結論に達しているが、腕足動物にもっとも近縁なのは箒虫動物ではなく、紐形動物と推定した[9]。遠藤は、ミトコンドリアゲノム上の遺伝子の順序に基づいて、腕足動物はむしろ環形動物やユムシ動物に近いと推定し、箒虫動物との近縁性に疑問を呈している[5]。 日本における腕足動物としては、舌殻綱シャミセンガイ目シャミセンガイ科Lingulidae
日本における分布
ミドリシャミセンガイ Lingula anatina(Lamarck,1801)
ウスバシャミセンガイ Lingula reevii Davidson,1880
ドングリシャミセンガイ Lingula rostrum Shaw,1798
オオシャミセンガイ Lingula adamsi Dall,1873
の4種の生息が確認されている。[10]また、同目スズメガイダマシ科Discinidaeについても
スズメガイダマシ Discradisca stella(Gould,1926)
スゲガサチョウチン Discradisca sparselineata Dall, 1920
の2種の生息が確認されている。しかし、潮間帯を生息地とするシャミセンガイ類は、水質汚染や干拓により急速に生息地を減らしており、主産地である有明海においても、食用としての漁獲の対象にならないまでに個体数が減少しており、日本における絶滅は不可避である。イカリチョウチン(Craniscus japonicus)をはじめとする頭殻目、タテスジホオズキガイ(Coptothyris grayi)をはじめとする嘴殻目も日本近海の潮間帯から浅海底に生息するが、分布の詳細は明らかでない。
化石記録デボン紀のシャミセンガイ属化石。
腕足動物の化石は顕生代のどの時代の地層にも見られる。古くは古生代カンブリア紀初期の地層から発見されている。はじめは無関節類しか見られないが、カンブリア紀中期になると有関節類も登場する。有関節類の登場以降、無関節類の数は減少し、デボン紀以降はわずかしか見られない。オルドビス紀には有関節類が多様化し、デボン紀にその多様性は最大となる。しかし古生代末(P-T境界)の大量絶滅で、腕足動物の多様性は大部分が失われた。その後、腕足動物はかつてのように繁栄することなく、衰退傾向にある[11]。腕足動物の化石種は1万3000種記載されているのに対し、現生種は350種程度に留まっている[2]。腕足動物の多様性の減少は、生態の似た二枚貝類との競争に敗れたためと考えられている[1]。
現生のミドリシャミセンガイを含むシャミセンガイ属は、生きている化石(古くから大きく形態を変化させることなく生きてきた生物)の代表例としてよく知られている[12]。これと同じ属の化石(異論はあるが、いずれにしてもよく似た形態を持つ化石)が、オルドビス紀・シルル紀から見つかっているためである。同じ属に分類されるほどではないが、現生種に似た化石はさらに遡り、カンブリア紀からも見つかっている。
ハルキエリアハルキエリアの化石。
グリーンランドのシリウス・パセットで見つかったハルキエリアの化石は、体の両端背側に殻を備えていた。サイモン・コンウェイ・モリス(英語版)は、この殻が腕足動物のものに似ていることを指摘し、腕足動物はハルキエリアのような動物から進化したと推測した。彼の考えによれば、両端に殻を持つハルキエリアの体が折りたたまれるように変化し、2枚の殻が向かい合うようになったことで、腕足動物の体制が起源したという[13]。彼はほかに、腕足動物の持つ剛毛がハルキエリアの持つ硬皮に由来すると考えられること、一部の現生の腕足動物では幼生が変態するときに、体が折りたたまれるようになることを根拠に挙げている。ハルキエリアの硬皮は環形動物の剛毛に由来するとも考えられることから、この仮説は腕足動物と環形動物が近縁であるとする仮説に整合する[4]。一方で、ハルキエリアを軟体動物に近いと考える意見もある[5]。
ところで、このコンウェイ・モリスの主張が正しければ、腕足動物の殻は2枚とも背側にある(腹側は内側に折り込まれる)ことになり、2枚の殻が背腹にあるという伝統的な考えは正しくないことになる[5]。 大プリニウスの『博物誌』には、「二形、白と黒、男と女という特徴を有する」石への言及がある。16世紀の古生物学者は、これに相当する化石を発見し、女性器を思わせるその外見から、子宮石と命名した(陰門石、外陰石などと呼ばれることもあった)。
子宮石