突然始まり、急速に最大振幅に達し、突然終わるような出現様式をとる脳波を突発波という。突発波の判読で最も重要なのはてんかんであり、てんかんの診断、分類、治療効果判定に脳波は行われることがある。突発波の異常には波形の異常、出現の仕方、出現の場所などの性状が知られている。 突発性脳波異常は、棘波ならびに鋭波と突発性律動波とに大別される。 棘波は突発性脳波異常の最も基本的な形であり、持続が20msec以上70msec未満すなわち1/50?1/14秒で急峻な波形をもち、背景脳波から区別される。前述のように棘波はその出現様式によって散発性と律動性にバースト(群発)を形成することがある。棘波は皮質ニューロンの過同期性発火をあらわすものである。てんかん患者の場合は棘波成分は最も特異的な発作発射と考えられている。孤立性の棘波がかなり長い間隔をおいて散発するばあいは、それはてんかん原焦点の局在を示すだけであり臨床症状は出現しないのが普通である。 棘波に持続200?500msecの徐波が続いて現れる場合は棘徐波複合という。棘徐波複合の発生機序に関しては不明であるが徐波は抑制過程を現し、棘波に表現される強い興奮過程の発現に対して、ただちにこれを抑制しようとする生体の防御機構が働くために棘波に続いて徐波が出現するという考え方もある。棘波単独で出現するよりもてんかん原損傷が広範であることが多い。局在性棘徐波複合、全般性(広汎性)棘徐波複合、多棘徐波複合などが知られている。局在性棘徐波複合は焦点性を示す。全般性棘徐波複合には欠神発作の3Hz棘徐波律動などの有名な波形も含まれる。多棘徐波複合にはミオクロニー発作との関連も知られている。 棘波に似ているが、持続が70msec以上200msec未満すなわち1/14?1/5秒の波形を鋭波という。棘波との意義の大差はない。なぜ持続が棘波より長いかということにかんしては棘波に比べてニューロンの同期が不完全であるという考え方がある。同期が不完全になるには2つの機序が知られている。第1にはその部位が原発焦点であっても、空間的にてんかん原損傷部位が広い場合がある。この場合は広い領域にある多数のニューロンが同期するのに鋭波よりも時間がかかると考えられる。第2に原発焦点が対側半球、皮質深部、皮質下諸核などにあって、そこから伝播してくる神経衝撃によって当該皮質部位に鋭波が誘発される場合は、神経衝撃の時間的分散が増大し、持続が長くなると考えられる。 鋭波に徐波が引き続いて形成される場合は鋭徐波複合という。鋭徐波複合は比較的広いてんかん原損傷が存在する部位から記録される。 棘波や鋭波を含むが波形は、散発性、孤発性に出現する場合も律動的に反復する場合も脳波的には発作発射である。棘波や鋭波を含まない場合は振幅が大きく、背景脳波から際立った律動性群発(律動性バースト)をなして出現する場合は発作発射とみなされる場合があり突発律動波という。3Hz、6Hzの徐波の群発、10Hzの高振幅の群発、速波の群発などが知られている。 発作名発作時脳波非発作時脳波 その他、有名なものとしてWest症候群のヒプスアリスミアやLennox症候群非発作期の2Hz前後の鋭・徐波複合、irregularな1.5Hz - 2.5Hzのsharp-and-slow-wave-complexなどが知られている。 下記に述べるものは病的意義に乏しい。偽性てんかん発作波ともいわれる。 陽性群発、陽性棘波ともいう。振幅は75μV以下のことが多く、側頭後部、後頭部優位に両側性、一側性ないし左右交代性に睡眠第1?2段階に出現する。年齢依存性があり4歳ころから出現し、12?14歳ころがピークであり成人になると減少する。Gibbsらは自律神経症状を示す視床あるいは視床下部てんかん患者に関連すると記載したがその後、小児、思春期を中心に健常者20?60%に認められることがわかった。正常から境界の所見と考えられる場合が多い。国際学会では病的意義は確立していないとしている。 入眠期、軽睡眠期に単発性の小棘波が出現することがあり小鋭棘波といわれた。てんかんとの関連がはっきりしないため良性てんかん型発射(BETS)ともいう。 欠神発作で認められる広汎性3Hz棘徐波複合を小型化したような波形であることからファントム棘徐波とも呼ばれる。内因性精神病、特に統合失調症との関連も提唱されている。しかしこれも健常者でも認められる。左右対称性ときに非対称性に全般性に出現するが、前頭部優位や後頭部優位を示すこともある。睡眠第1期で認められることが多いが、過呼吸や光刺激で賦活される。 精神運動発作異型ともいう。うとうと状態の時に側頭部、とくに側頭中部を中心に出現する4?7Hzのθ波の群発である。複雑部分発作(精神運動発作)で認められる方形波に似ているため精神運動発作異型と言われたが、てんかん性異常波ではない。群発の持続は10秒以上で一側性または交代性に出現する。 両側または一側の頭頂、側頭部優位に比較的高振幅の4?7Hzの徐波または鋭波様活動が周波数を変えながら律動的に出現し数十秒から数分間持続するパターンであり、この間臨床症状を伴わない。臨床的意義は乏しいと考えられている。 一側(特に左)ないし両側の側頭中部から側頭前部優位に出現する比較的高振幅の律動性6Hzのアーチ型のμ律動様波形である。 覚醒や傾眠時に一側または両側の中心・頭頂部に出現する9?11Hzの律動波 骨欠損の場合にμ律動様の波形が目立って出現することがあり、ブリーチリズムといわれる。 限られた検査時間内で効率よく異常波を誘発・観察するため、主に以下の賦活法が用いられる。
波形の異常
棘波、鋭波、棘徐波、多棘徐波などが知られている。棘波(spike)とは持続20msec - 70msec程度の尖った波形であり、鋭波(sharp wave)とは持続70msec - 200msec程度の振幅が大きな尖った波である。棘波ひとつに徐波ひとつが組み合わさると棘徐波複合(spike-and-slow-wave complex)といい、鋭波一つとと徐波一つでは鋭徐波複合(sharp-and-slow-wave complex)という。多棘複合、棘徐波複合といったものも存在する。
出現の仕方
単発、2から3個連なって、群発(数秒続く)といった出現の仕方が知られている。持続的、頻発、散発(sporadic)、律動性(rhythmic)、多律動性、非律動性、周期性、突発性、両側同期性、非同期性といった表現も用いられる。
出現場所
焦点性、半球性、全般性などが知られている。広域性、広汎性、局在性、一側性、両側性、対称性、非対称性といった言葉も使われる。これらは左右差などに注目するのが重要である。
突発性異常
棘波(spike)
棘徐波複合(spike and wave complex)
鋭波(sharp wave)
鋭徐波複合(sharp and slow wave complex)
突発律動波(paroxysmal rhythmic activity)
てんかん発作と脳波の対応
定型欠神発作広汎性3Hz棘徐波複合広汎性3Hz棘徐波複合(短い)
非定型欠神発作広汎性遅棘徐波複合広汎性遅棘徐波複合他
ミオクロニー発作広汎性多棘徐波複合広汎性多棘徐波複合
強直発作広汎性漸増律動不定
強直間代発作広汎性棘波、棘徐波広汎性棘徐波複合など
部分発作局在性棘波律動局在性棘波、棘徐波、徐波あるいは徐波律動(出現しないこともある)
病的意義の乏しい突発性活動
6&14Hz陽性棘波
小鋭棘波(SSS・BETS)
6Hz棘徐波複合(ファントム棘徐波)
律動性中側頭部放電(RMTD)
成人潜在性律動性脳波発射(SREDA)
ウィケット棘波
頭頂部鋭波
μ律動
後頭部陽性鋭一過波(POSTs)
ブリーチリズム
脳波の賦活
開閉眼賦活法
安静閉眼時に開眼10秒後に閉眼させる。主にαブロック(α attenuationまたはα blocking)をみるための賦活法である。αブロックは視床と皮質反響回路の脱同期によるものと考えられている。一側で開眼によるαブロックが欠如した場合はBancaud現象といい半球の機能異常が示唆される。入眠期に開眼させると覚醒度があがり逆にα波が出現する。徐波があったり、反応性が低い場合は病的意義も高くなる。
過呼吸賦活法(HV)
1分間に20回 - 30回の速さで3分 - 4分間連続して過呼吸を行わせる方法である。過呼吸によって呼吸性アルカローシスになり脳血管が収縮し[5]、安静時に見られなかった徐波が出現したり、振幅が大きくなることがある。このような変化をbuild-upという。10歳以下ではbuild-up自体に病的な意義がないことも多い。過呼吸を中止し1分以内にbuild-upが消失しなかったらそれも所見である。過呼吸を中止すると徐波が一度減少、消失して再び徐波化する場合をre-build upという。build-up、re-build upともにもやもや病などウィリスの大動脈輪障害における所見と考えられている。
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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