脂肪肝
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また、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)では肝細胞の線維化が進行して正常な肝細胞が少なくなると、ALTやASTの値はむしろ低下するためである[29]

検査正常値脂肪肝では?
AST(GOT)10-40 IU/L軽度上昇。過栄養では ALT > AST
ALT(GPT)5-35 IU/Lアルコール性の場合は AST > ALT
γ-GTP50 IU/L以下アルコール性脂肪肝では高くなる
コリンエステラーゼ186-490 IU/L過栄養で上昇する
総コレステロール120-220 mg/dl高くなる
中性脂肪50-150 mg/dl高くなる
血小板13-37.9 万/μL[30]20万/μL以下[31]

総合南東北病院資料[32]より引用し改変。
画像検査

エコー検査「肝腎コントラスト上昇(hepatorenal contrast)」(腎よりも肝が高エコー)や「肝脾コントラスト上昇」(脾よりも肝が高エコー)が見られる。また深部減衰(deep attenuation)もみられる。肝臓は腫大し、肝右葉下端が右下極よりも尾側に位置することがある。超音波が斜めに入射する胆嚢壁では、壁が不明瞭化する「fatty boundless sign」もみられる。限局性に脂肪沈着が多い部分・少ない部分がある場合、腫瘍と鑑別を要する。鑑別点は、門脈など正常の脈管構造の有無などである。

CT肝の脂肪化に伴い肝実質が低吸収となる。肝/脾のCT値比が0.9以下で肝脂肪化30%の目安となるため、CT上はこれによって脂肪肝とされることが多い。脈管が肝実質より高吸収となることもある。

MRI

病理検査非アルコール性の脂肪肝疾病(NAFLD)のマッソン・トリクロームおよびヴァーホフ染色による顕微鏡写真。大きな楕円形の空隙が脂肪滴、残った肝細胞は赤、死滅した細胞の痕に集まった線維が緑に染まっている。大きく膨らんだ脂肪滴が、圧迫により肝細胞のを変形させている。

肝生検にての病理組織所見は決定される。基本的には肝細胞の脂肪変性が認められる。

アルコール性脂肪肝

非アルコール性脂肪肝

診断基準

観察者の判断差異や施設間差異の低減のため、下記表によるスコアリングによる病理診断(NAS: NAFLD Activity Score)が行われる事がある[28]

NAS (NAFLD Activity Score)項目程度点数
肝脂肪化5%未満0点
5-33%1点
33-66%2点
66%以上3点
小葉内炎症病巣なし0点
200倍の視野で2箇所の病巣以下1点
200倍の視野で2-4箇所の病巣2点
200倍の視野で4箇所以上の病巣3点
肝細胞の風船様変化なし0点
少数の風船様変性細胞1点
多数の風船様変性細胞2点

診断合計
脂肪肝 (NAFL)0-2点
境界型 NASH3-4点
非アルコール性脂肪肝炎 NASH0-8点

更に、下記 Younossiの診断基準を併用する事がある[28]
肝細胞の脂肪化(程度は問わない)に加え小葉中心性の肝細胞の風船様変性(centrilobular ballooning)やMallory-Denk体を認めるもの。

肝細胞の脂肪化に加え小葉中心性の細胞周囲/類洞周囲(pericellular/perisinusoidal)の線維化または架橋形成(bridging fibrosis)を認めるもの。

以上 1.または 2.を満たす場合NASHと定義する。
病態

炭水化物や糖分はグルコースに分解され生体活動で消費されるが、余剰分は中性脂肪脂に合成され肝細胞中に蓄積される。砂糖が分解してできる果糖は、量に依存する肝毒性を示す。果糖は、肝臓でのみ代謝される。この理由として、果糖はグルコースに比べ開環率が高く(約10倍も糖化反応に使われやすいため[33])、生体への毒性はグルコースよりも遥かに高い。この毒性を早く消す目的で、肝臓はグルコースよりも果糖を優先的に処理する[34]。果糖は、肝臓や骨格筋にインスリン抵抗性を引き起こす。インスリン抵抗性が生じると、膵臓からのインスリン分泌が促される。過剰なインスリンによる高インスリン血症は、各種の臓器障害をもたらす。例えば、脂質異常症や肝臓の炎症をもたらす[35][36]。「炭水化物代謝」も参照

これとは逆に、例えば拒食症などによって、生体の飢餓状態が長期にわたって続いた場合も、肝細胞内に脂肪が蓄積して、脂肪肝になることがある。

脂肪肝においては、血清フェリチンの増加がしばしばみられ、脂肪肝のなかでも非アルコール性脂肪性肝炎 (NASH) を含んだ非アルコール性脂肪性肝疾患では、肝組織内の鉄の過剰が肝障害の増悪因子と考えられている[37]
治療

アルコール性脂肪肝であれば、禁酒を行うと6週間以内に症状は改善する。必要であれば食生活改善を行う。なお、肝硬変に至っていない、脂肪肝の状態の肝臓は可逆的なので[38]、患者は生涯にわたる禁酒ではなく、脂肪肝が正常な肝臓に戻るまでの一時的な断酒で良い場合がある。肝臓が正常になったと診断された後には、脂肪肝を再発しない程度の適度な飲酒であれば許され得る。逆に、アルコール性脂肪肝であるのにもかかわらず飲酒してしまう対応を取った場合、アルコール性肝炎、さらには、アルコール性肝硬変へと進行してしまい、一時的な禁酒ではなく、生涯にわたる禁酒が求められる。なぜなら、肝硬変は不可逆的な肝臓の病変であり延命治療しかできないものの、飲酒は肝硬変の進行を促進するため、断酒することが、延命につながるからである[39]

肥満を伴う非アルコール性脂肪性肝炎であれば、ダイエット等の食生活改善が基本で、間食、夜食習慣は悪化させる[40]。コロラド州立大学教授の Michael Pagliassotti が、実験動物を、摂取エネルギー量の20%分を砂糖で飼育したところ、その実験動物には、数ヶ月後には脂肪肝が生じて、インスリン抵抗性が生じた。砂糖をやめたところ、脂肪肝は速やかに消失し、インスリン抵抗性も消失したと報告している[35][40]

拒食症やタンパク質摂取を削減するダイエットが原因となっている場合、摂取カロリーの主体が炭水化物や糖質が過剰(低タンパク-高炭水化物)となっている事が多いが、タンパク質が主体の(高タンパク-低炭水化物)に食事に変えることで改善される。

食事療法のポイント[40]

エネルギー

25-35kcal/kg日,蛋白質 1.0-1.5g/kg日


3大栄養素の配分

蛋白質 20-25%,脂質 15-20%,糖質 60%


抗脂肪肝ビタミン様物質

糖アルコールの1種であるイノシトールは、一般にビタミンには分類されないものの、ビタミンと似たような作用を持ったビタミン様物質の1つとして挙げられる[41]。このイノシトールの作用の1つとして、脂肪肝になりにくくする作用も存在すると言われている[42]
脚注^ a b c NAFLD,NASHの病名変更 (PDF) 日本肝臓学会 2023/09/29.
^ 斎藤征夫、柳生聖子、服部泰子 ほか、健康診査受診者における脂肪肝に関する研究 『日本衛生学雑誌』 1989年 44巻 5号 p.953-961, doi:10.1265/jjh.44.953
^ a b c 宮本敬子、小野正文、西原利治、非アルコール性脂肪性肝疾患の疾患関連遺伝子 『日本消化器病学会雑誌』 2013年 110巻 9 p.1597-1601, doi:10.11405/nisshoshi.110.1597
^ a b c d 斎藤征夫、大塚享、高橋玲、岡本伸夫、脂肪肝の推移とその発症因子に関する研究 『消化器集団検診』 1993年 31巻 3号 p.26-32, doi:10.11404/jsgcs1982.31.3_26
^ a b c 小川祐二, 今城健人, 米田正人 ほか、「NAFLDの疫学と病態のupdate」『日本消化器病学会雑誌』 2014年 111巻 1号 p.14-24, doi:10.11405/nisshoshi.111.14
^ 川口巧「脂肪肝の新概念:Metabolic dysfunction-associated fatty liver disease(MAFLD)」『肝臓』第64巻第2号、日本肝臓学会、2023年、33-43頁、doi:10.2957/kanzo.64.33。 
^ 土居忠、田中信悟、佐藤康裕 ほか、【原著】脂肪性肝疾患の頻度に及ぼすアルコール摂取の影響 『肝臓』 2010年 51巻 9号 p.501-507, doi:10.2957/kanzo.51.501
^ 山岸由幸、加藤眞三、「アルコール性肝障害」『medicina.』 43巻12号, 2006/11/30, doi:10.11477/mf.1402101510
^ 西原利治、大西三朗、NASH (非アルコール性脂肪肝炎) の新たな展開 『肝臓』 2003年 44巻 11号 p.541-545, doi:10.2957/kanzo.44.541


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