肺結核(A15
)は呼吸器疾患で、日本における感染者の80%は肺への感染である。当初は全身倦怠感、食欲不振、体重減少、37℃前後の微熱が長期間にわたって続く、就寝中に大量の汗をかく等、非特異的であり、咳嗽(痰は伴うことも伴わないこともあり、また血痰を伴うことがある)が疾患の進行にしたがって顕在化する。抗生物質による治療法が確立する以前は「不治の病」と呼ばれていた。 ツベルクリン反応、インターフェロンγ遊離試験、顕微鏡下での病原体の検出、核酸増幅検査(核酸増幅法)、画像検査などの検査方法がある。 後述の通り、日本ではBCG接種が義務であるため、欧米より信頼性が乏しい検査となっている。それでも、発赤20mm以上、硬結10mm以上の「強陽性」の所見は、活動性の結核感染を示唆する。「中等度陽性」は、特に結核の診断の可能性を高めるものでも低くするものでもないと考えられる。免疫不全患者や悪性リンパ腫では、結核に関する免疫寛容が成立していたり現在は結核菌感染があったりしても、ツベルクリン反応が陰性になり、「アネルギー」と呼ばれる。 この検査は、血液を結核菌特異的なタンパク(ESAT-6およびCFP-10)で刺激し、結核菌特異的T細胞の産生するインターフェロンγの産生量をみることで、結核感染を診断する検査法である。BCGや非結核性抗酸菌感染の影響を受けず、感度89%、特異度98%と報告[16]される。検査時には検体の温度管理を行う必要がある(採血から搬入までの時間10時間以内、搬送温度は摂氏17℃から27℃)。また、数時間から一両日で検査結果を出すことができるとされている。また同様の原理のT-SPOT.TB検査も用いられる。 QFTならびにT-スポットは、インターフェロンγ遊離試験 (IGRA) と総称される[17][18][19]。 核酸増幅法としてリアルタイムPCR (TaqMan PCR)[20]、核酸増幅とキャピラリ電気泳動を組み合わせたPCR-CE法としてミュータスワコーMTB[21]がある。また、核酸検出法としては、DNA-RNAハイブリダイゼーション(アキュプローブ法)、DNA-DNAハイブリダイゼーション(DDHマイコバクテリア)などがある。他に迅速診断法としてキャピリアTB蛋白検出法)がある[20]。 喀痰塗抹検査(チール・ニールセン染色)は喀痰中の抗酸菌の有無および排菌量をみる検査であり、まず行うべき方法である。また蛍光塗抹検査を利用することもできる。 なお、結核を疑った患者から採痰を行う場合は、専用ブースを用意して採集する。これまで喀痰中の排菌量はガフキー号数で表記されてきた。新結核菌検査指針では、検出菌数を 1+, 2+, 3+ で表すこととなった(± はガフキー1号、1+ は2号、2+ は5号、3+ は9号に相当)。 塗抹検査では、結核菌か非結核性抗酸菌かの同定はできない。菌の同定および薬剤耐性を調べるには喀痰培養検査を行うが、結核菌は培養による繁殖が遅く、3-6週間必要で早期診断には適さない。 早期診断には、喀痰の結核菌DNAのPCR検査が有用である。感度・特異度が高く日本でも普及してきている。ただPCR法は、死菌でもDNAを検出することで、陽性になってしまう。 気管支鏡下のBAL(気管支肺胞洗浄)やTBLB(経気管支肺生検)も診断に有用である。胃液検査は培養のみが検査に適するので、早期診断に有用ではない。血液培養をする場合は、専用のスピッツが必要である。 胸水がある場合、胸水培養で結核菌が陽性になるのは25%未満である。胸膜生検が必要である。 多彩な像を呈するため肺結核は画像のみでの正確な診断は困難である。喀痰検査や血液検査とともに総合的に診断する。 かつては、抗菌剤のストレプトマイシン単剤の投与で効果があったが、現在は薬剤耐性獲得の危険があるため、単剤での治療は行わない[22]。 イソニアジド (INH)、リファンピシン (RFP)、ピラジナミド (PZA)、エタンブトール (EB)(またはストレプトマイシン (SM))の4剤併用薬物療法を行うべきであると考えられている[22]。ほかに、デラマニド製剤(デルティバ)[23]も使用される。結核菌はこのそれぞれの薬物に耐性をもつものが存在するが、イソニアジドおよびリファンピシンの2剤に耐性を持つ菌は「多剤耐性結核菌」と呼ばれ、治療に難渋することがある。一度発症した場合は、6?9ヶ月の投薬療法が一般的である[22]。 治療を正確に完了した場合、再発率は5%未満である。しかし、治療中断により結核菌に薬剤耐性ができ、集団感染することが問題となっている。そのため、特にストリートやホームレスの住人に対して、確実な薬の服用を目指した直接監視下短期化学療法(directly observed treatment, short-course, DOTS)の実施拡大が求められている[24]。 肺結核は空気感染が起こるため、排菌のある結核患者は感染症予防法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)により、負圧設備のある結核病棟への入院が義務づけられている[25]。医療従事者はN95マスク(FFP3マスク)を装着する必要がある[26]。患者の搬送は最低限にすべきであるが、どうしても必要な場合は患者に通常のマスクを、医療従事者にN95マスクを装着し、窓を開けるなど換気に留意する。
診断・検査法
ツベルクリン反応詳細は「ツベルクリン」を参照
インターフェロンγ遊離試験「QFT検査」を参照
核酸・蛋白検出
検査所見肺の病巣の断面標本TBLBで見つかった結核肉芽腫ラングハンス型巨細胞
画像所見
単純レントゲン写真:古典的典型例では空洞を伴う結節影がみられる。
胸部CT:肺浸潤影と娘結節の存在、空洞形成、肺門リンパ節腫大、胸水など。
治療
A18
A19
結核性髄膜炎詳細は「結核性髄膜炎」を参照
結核性髄膜炎 (A17.0 Tuberculous meningitis) は、亜急性髄膜炎の鑑別の一つである。真菌性、梅毒性、癌性髄膜炎との鑑別を要する。
症状
無気力、過敏、食欲不振、発熱、頭痛、嘔吐、痙攣、昏睡である。