肺癌
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かつてmucinous BACと分類されていた腺癌は、lepidic growth と浸潤性増殖の程度により mucinous AIS, mucinous MIA, invasive mucinous adenocarcinoma のいずれかに分類すべきである。

生検で認められる非小細胞癌は、可能なかぎり腺癌か扁平上皮癌に分類すべきである。

病期

肺がんの病期分類[17]N0N1N2N3M1aM1bM1c
T1miIA1
T1aIA1IIBIIIAIIIBIVAIVAIVB
T1bIA2IIBIIIAIIIBIVAIVAIVB
T1cIA3IIBIIIAIIIBIVAIVAIVB
T2aIBIIBIIIAIIIBIVAIVAIVB
T2bIIAIIBIIIAIIIBIVAIVAIVB
T3IIBIIIAIIIBIIICIVAIVAIVB
T4IIIAIIIAIIIBIIICIVAIVAIVB

肺がんの場合、以下の3つの要素によって病期が決められている[17]

T(原発腫瘍 primary Tumor):原発巣の大きさや周囲の組織との関係

N(所属リンパ節 regional lymph Nodes):胸部のリンパ節転移の程度

M(遠隔転移 distant Metastasis):原発巣以外の肺転移や胸水、その他の臓器への遠隔転移の有無

肺がんのT分類 [17]T分類 病期解説
Tis上皮内がん、肺野に腫瘍がある場合は
充実成分※1の大きさが0センチメートル (cm)、かつ病変の大きさ※2が3cm以下
T1充実成分の大きさが3cm以下、かつ肺または臓側胸膜におおわれ、
葉気管支より中枢への浸潤が気管支鏡上認められない
(すなわち主気管支に及んでいない)
T1mi微少浸潤性腺がんで充実成分の大きさが0.5cm以下、かつ病変の大きさが3cm以下
T1a充実成分の大きさが1cm以下で、TisやT1miには相当しない
T1b充実成分の大きさが1cmを超え2cm以下
T1c充実成分の大きさが2cmを超え3cm以下
T2充実成分の大きさが3cmを超え5cm以下
または、充実成分の大きさが3cm以下でも以下のいずれかであるもの

主気管支に及ぶが気管分岐部には及ばない

臓側胸膜に浸潤がある

肺門まで連続する部分的または片側全体の無気肺か閉塞性肺炎がある

T2a充実成分の大きさが3cmを超え4cm以下
T2b充実成分の大きさが4cmを超え5cm以下
T3充実成分の大きさが5cmを超え7cm以下
または、充実成分の大きさが5cm以下でも以下のいずれかであるもの

臓側胸膜、胸壁、横隔神経、心膜のいずれかに直接浸潤がある

同一の肺葉内で離れたところに腫瘍がある

T4充実成分の大きさが7cmを超える
または、大きさを問わず横隔膜、縦隔、心臓、大血管、気管、反回神経、食道、椎体、気管分岐部への浸潤がある
または、同側の異なった肺葉内で離れたところに腫瘍がある
注記
※1: 充実成分とは、CT検査などによって病変内部の肺血管の形がわからない程度の高い吸収値を示す部分のこと。
これに対し、病変内部の肺血管の形がわかる程度の淡い吸収値を示す部分をすりガラス成分という。
※2: 病変の大きさとは、充実成分およびすりガラス成分を含めた腫瘍全体の最大径のこと。

肺がんのN分類とM分類 [17]病期解説
N0所属リンパ節※3への転移がない
N1同側の気管支周囲かつ/または同側肺門、肺内リンパ節への転移で原発腫瘍の直接浸潤を含める
N2同側縦隔かつ/または気管分岐下リンパ節への転移がある
N3対側縦隔、対側肺門、同側あるいは対側の鎖骨の上あたりにあるリンパ節への転移がある
M0遠隔転移がない
M1遠隔転移がある
M1a対側肺内の離れたところに腫瘍がある、胸膜または心膜への転移、悪性胸水※4がある、悪性心嚢水(しんのうすい)※5がある
M1b肺以外の一臓器への単発遠隔転移がある
M1c肺以外の一臓器または多臓器への多発遠隔転移がある
注記

※3:肺がんの所属リンパ節は、胸腔内や鎖骨の上あたりにある。
※4:胸水の中にがん細胞がみられること。
※5:心臓の周りにたまった液体(心嚢水)の中にがん細胞がみられること。

治療

肺癌の中でも小細胞肺癌は他の組織型と生物学的な性格が大きく異なるため、小細胞肺癌とそれ以外の組織型を併せた非小細胞肺癌の二つに大別して治療方法が選択される。

小細胞肺癌(Small cell lung cancer:SCLC --- 肺癌の約20%)

非小細胞肺癌(Non-small cell lung cancer:NSCLC --- 肺癌の約80%)

肺癌の治療はその癌の増殖状態と患者の状況(年齢など)に依存する。普通実施される治療は、外科手術、化学療法そして放射線療法である。また、極めて早期の肺門中心型早期肺癌に対しては、光線力学療法(PDT)が行われる。
小細胞肺癌(SCLC)

小細胞肺癌は発育が早いため、発見時にはほとんどが進行性である場合が多い。また、CTなどの画像検査上限局しているように見えても検出できない程度の微少転移が既に存在していることがほとんどである。そのため手術や放射線療法などの局所治療の効果は極めて限定的であり、化学療法が治療の中心となる。治療方針の違いにより病期は2つに分類される。

小細胞肺がんの病期分類病期分類所見治療方針
限局型 (Limited disease: LD)

病巣が片側肺に限局している

反対側の縦隔および鎖骨上窩(じょうか)リンパ節までに限られている

悪性胸水および心嚢水がみられない
リンパ節、周囲臓器への浸潤及び転移が認められない Stage Ia期のみ手術療法が検討されるが、その時期で発見される場合は少ない。
その他の場合は化学療法+胸部放射線療法を同時併用する。
奏効例に対しては脳転移再発予防のため予防的放射線全脳照射(prophylactic cranial irradiation; PCI)が行われる。
進展型 (Extended disease: ED)

「限局型」の範囲を超えてがんが進んでいる
根治的放射線治療の適応は無く全身化学療法(以下が主なレジメン)が主な治療となる。

PE療法:CDDP(
シスプラチン)+VP-16(エトポシド

PI療法:CDDP(シスプラチン)+CPT-11(イリノテカン

CE療法:CBDCA(カルボプラチン)+VP-16(エトポシド)

LD症例の初回治療の標準は化学療法+胸部放射線療法である。化学療法としてはPE療法が標準である(PI療法と放射線療法の併用は肺障害のリスクが高いため行われない)。胸部放射線療法として加速過分割照射(従来の1日1回ではなく1日2回の照射)が行われる。

ED症例については初回治療においてはPE療法が標準治療とされている。ただし日本で行われた臨床試験ではPI療法の方が良好な成績であったため、PI療法が使われることが増えてきている[18]。しかし、海外で行われたPI療法の追試ではPE療法と比較して優位性は証明されなかった。

従来の化学療法に免疫チェックポイントを上乗せすることも推奨されており、CE+アテゾリズマブ療法、CE(またはPE)+デュルバルマブ療法の有効性も認められている。

LD症例、ED症例いずれの場合も初回治療後に再発してくることがある。初回治療が奏効し、かつ治療完遂後から再発までの期間が長い場合は感受性再発、それ以外は難治性再発と呼ばれる。感受性再発症例ではノギテカン単剤投与が標準治療とされている。ノギテカンの奏効率は10%前後に過ぎず、再発例におけるアムルビシンの有効性が現在検討されつつある[19]。またPEI療法(CDDP+VP-16+CPT-11)も推奨されている治療の一つであるが、毒性が強いため注意が必要である。難治性再発例についてはアムルビシンが推奨されている。
非小細胞肺癌(NSCLC)

非小細胞肺癌において、Stage IIまでは多くの場合手術療法が選択され、多くの症例で術前あるいは術後(多くの場合は術後)の化学療法が検討される。Stage IIIでは手術が選択されることもあれば、化学療法や放射線療法が選択されることもあり、個々の症例によって治療選択が異なる。Stage IVでは化学療法が治療の主体となり、症状緩和目的の放射線治療も検討される。
手術療法

 肺葉切除+肺門縦郭リンパ節郭清が標準術式であり、個々の症例の肺機能や病気の広がりなどに応じて術式が決定される。
化学療法非小細胞肺癌に対する化学療法は大きく3つに分けられる。術前もしくは術後(多くの場合術後)に行われる再発予防を目的とした化学療法、切除不能な局所進行例に対して根治的な放射線療法と併用して行われる化学療法(化学放射線療法)、遠隔転移を有するなどの理由で根治的放射線照射が不能な症例に対して行われる化学療法である。前2者は根治を目指した治療である。後1者は生存期間延長を目的とした治療であるが、近年の化学療法の進歩は目覚ましく、5年以上の長期生存例もみられるようになってきている。詳細は「転移」を参照
周術期の化学療法周術期に行われる化学療法の有用性は数多くの試験で報告されており、術前化学療法と術後化学療法はともに術後の再発リスクを下げ、生存率を改善するとされている。両者の効果はほぼ同等とされているが、行うべき化学療法が明確である術後化学療法を行うことが多い。術後化学療法として術後病期IA3?IB期の症例にはUFT内服療法、術後病期II?III期にはCDDP(シスプラチン)+VNR(ビノレルビン)併用療法が広く行われる。
化学放射線療法化学放射線療法として、CDDP+DTX(ドセタキセル)療法、CBDCA(カルボプラチン)+PTX(パクリタキセル)療法、CDDP+VNR療法などの化学療法に放射線療法が併用される。これらの治療完遂後の地固め療法として免疫チェックポイント阻害薬であるデュルバルマブ(イミフィンジ)を投与した場合の生存期間の延長効果が確認されている[20]。化学放射線療法は根治を目標とした治療ではあるが、再発することも多く、その場合は進行期に対する化学療法が行われる。
進行期に対する化学療法進行期に対する化学療法は、腫瘍の組織型、PD-L1発現、ドライバー遺伝子(EGFRALK、ROS1、BRAFMET、NTRK)変異の有無などによって大きく異なる。ドライバー遺伝子変異を有する症例についてはそれに対応した阻害薬が投与される。ドライバー遺伝子変異を有さない場合、PD-L1の発現に応じて治療方針が検討され、免疫チェックポイント阻害薬や細胞障害性薬剤を組み合わせた治療が選択される。PD-L1高発現の場合は免疫チェックポイント阻害薬単剤も治療選択肢となる。歴史的には進行非小細胞肺癌の初回治療では歴史的に白金製剤を含む2剤併用化学療法が推奨されてきた。以下に主なレジメンを示す。

CDDP+DTX

CDDP+VNR

CBDCA+PTX

CDDP+GEM(ゲムシタビン

CDDP+CPT-11(イリノテカン
21世紀に入り、分子標的薬が台頭してきた。抗VEGFモノクローナル抗体ベバシズマブ(アバスチン)はCBDCA+PTX療法に上乗せすることで全生存期間の延長効果が認められている[21]。後述のEGFRに代表されるドライバー遺伝子変異がみられる症例に対してはそれぞれに対応した分子標的薬が投与されるようになってきた。近年は組織亜型に合わせて異なるレジメンを用いることが提唱されており、そのため生検段階での亜型確定診断が強く求められてきている。肺扁平上皮癌は、それ以外の非小細胞肺癌と異なりペメトレキセドなどの葉酸拮抗薬に対する感受性が乏しく[22]、またベバシズマブ(アバスチン)は臨床試験において出血の有害事象が多かったため投与できない[23]


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