肝硬変
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2002年現在、日本には約40万人の肝硬変患者がおり、60%がC型肝硬変、15%がB型肝硬変、12%がアルコール性肝硬変である[3]。かつては日本でも日本住血吸虫の有病地において、虫卵と栄養不良を原因とする肝硬変もみられた。最近ではメタボリックシンドロームに関連した非アルコール性脂肪性肝炎 (NASH) が原因として注目されている。
症状・所見肝硬変になった肝臓の顕微鏡写真。トリクローム染色(英語版)によって線維組織を青く染めてある。肝細胞が線維組織によって締め付けられている様子が見て取れる。アルコール性肝硬変になった肝臓の顕微鏡写真。トリクローム染色によって線維組織を青く染めてある。こちらも肝細胞が線維組織によって締め付けられている。さらに、過度の飲酒者にありがちな脂肪肝の所見である脂肪空胞(赤く見える肝細胞の中に見える丸く抜けた白い場所)も見える。

肝硬変であっても、代償性肝硬変の段階であれば、肝臓などに異常所見はあっても、患者にはほとんど症状が出ないこともあれば、食欲不振、易疲労感(疲れやすくなる)と言った、幾つかの症状が見られる程度であったりすることもある。肝臓は能力に余裕のある臓器であり、たとえ肝細胞が少々減少したり、機能低下したりしても、ある程度はホメオスタシスを保てるためである。しかし、肝機能の低下が限界を超えて、非代償性肝硬変に進行すると、患者は多彩な症状に襲われる[4]

肝硬変が進行すると、体重減少、手掌紅斑(palmer erythema、掌の小指側の紅潮)が見られる場合もある。腹部超音波検査などで肝硬変に至った肝臓を見た場合、本来は比較的滑らかな表面をしているはずの肝臓は、表面に凹凸が見られるようになる。肝硬変はヒト以外の動物にも起こり得る病変であり、動物種によって肝臓の形状にこそ違いはあるものの、肝硬変になると肝臓の表面に凹凸が現れるのは共通である。なお、肝硬変に至ったヒトの肝臓は、左葉が腫大し、右葉が萎縮した形状に変化しているのが観察される。場合によっては、鳩尾(みぞおち)付近に、硬く変形した肝臓を、皮膚の上からでも触知可能なこともある。また、肝臓が硬く変化したために、特に門脈から肝臓への血液が流入しにくくなるため、門脈圧亢進症が起きてくる。脾臓からの血液は門脈へと流れ込むようになっている関係で、門脈圧亢進によって脾腫と呼ばれる状態になることもある。その上、門脈に溜まった血液は、硬くなった肝臓を迂回して心臓に戻るべく挙動するため、痔核食道静脈瘤メデューサの頭と呼ばれる腹部静脈の怒張、クモ状血管腫(vascular spider)が見られることもある。さらに、門脈から血漿成分が血管外に出るなどして、腹水を生じ、腹部が膨満することもある。肝機能の低下に伴って、肝臓で合成されるアルブミンなどの血漿タンパク質の合成量が減少してくると、血液の正常な浸透圧を維持できなくなり、血液からは水分が血管外へと出てゆきやすくなるわけだが、これも腹水を増加させ、胸水まで見られるようになる場合もある。血液からの血管外へ水分が出やすくなったことに伴って浮腫が見られるようになり、特に下肢の浮腫は目立ってくる。肝硬変に伴う血液の異常はこれに留まらない。脾腫に伴って、脾臓の機能が亢進するために、赤血球破壊の亢進や血小板の分布異常[5][6]などにより惹起される、汎血球減少症を来たすこともある。赤血球の破壊亢進によって、貧血ビリルビンの大量遊離が起きてくる。さらに、血小板の分布異常によって生じる循環血液内の血小板減少に加えて、肝臓による血液凝固因子の合成量も低下するために、出血傾向となり、鼻血歯茎からの出血量増加、皮下出血に伴う紫斑(purpura)、消化管からの出血によるタール便(tarry stool)などが見られることもある。そして、これらの出血によって、貧血はさらに悪化する。また、食道静脈瘤の破裂などに伴う消化管出血は、しばしば大量出血を引き起こし、これによって死亡する場合もある。消化管出血による死は免れても、吐血下血、酷い匂いのタール便、貧血の悪化などに苦しむことになる。

他にも、肝機能の低下に伴って、ビリルビンの処理や排泄も滞り、眼球の結膜が黄色くなるといった黄疸が現れてくる。黄疸が酷くなると、皮膚は黄褐色になったり、ややどす黒い色調を示すようになる。これに対して、肝臓自体は胆汁の鬱滞によって緑色を帯びてくることがある[7]。また、胆汁として排泄されるべき物の排泄が上手くゆかなくなったことで老廃物が全身を巡り、結果として、患者は全身の痒みなどを訴えることもある。肝臓における女性ホルモンの処理能力も落ちるため、男性の場合は女性化乳房や精巣の萎縮などが起こることもある。その他の物質を肝臓で処理する能力も落ち、タンパク質の代謝の結果生ずるアンモニアの処理が滞ったことや、主に肝臓で代謝される芳香族アミノ酸の処理も滞ったことなどが原因で、肝性脳症を合併し、羽ばたき振戦(flapping tremor)が現れたり、見当識障害などが出ることもあれば、昏睡状態に陥る場合もある。なお、肝不全が原因で死亡することもある。その上、肝硬変になった肝臓は肝がんを発症しやすい状態にあり、しばしば肝がんを合併し、肝がんも死因となり得る。
検査
血液検査

肝硬変に至った肝臓は、すでに肝細胞の数が減少していることもあり、何らかの原因で新たに肝細胞が破壊されたことによって血中に遊離してくるALTASTは、軽度の上昇に留まっていることが多い。このため、肝硬変の程度をはかる指標としてALTなどの逸脱酵素を用いることは不適切である。

肝硬変の程度を見る指標としては、むしろ肝不全にどれだけ近いかを見る血液検査項目が注目される。血小板は肝硬変早期から減少傾向を示し、肝不全に近くなると各種老廃物の肝臓での処理や排泄や無毒化が遅れるために、肝臓でのビリルビンの処理や排泄が滞ったことによる血中の総ビリルビン濃度が上昇したり、肝臓での尿素回路が充分に動いていないことによる血中のアンモニア濃度が上昇したりする。また、肝不全に近くなると肝臓でのタンパク質合成能力も落ちるために、肝臓で合成される血中タンパク質が低下してくる。すなわち、血中のアルブミンの濃度低下、血中のブチリルコリンエステラーゼの濃度低下などが起こる。さらに、肝臓で合成される血液凝固因子も減少するために、プロトロンビン時間の延長も起きてくる。このように肝臓で合成される血中タンパク質は、総じて低下傾向となるために、血清総タンパク(Serum total protein)も低下傾向となるため、その代償として、γグロブリンが上昇してくることもある[8]

他に、肝硬変特有の検査として、肝臓の線維化マーカーであるヒアルロン酸やIV型コラーゲン7S,プロコラーゲンIIIペプチド(P-III-P)も用いられる。これらの異常は肝硬変であることを強く示唆する。排泄能の評価にはインドシアニングリーン静注後15分の停滞率を測定することが多い(略号ICG15)。

それから、肝硬変に伴って門脈から肝臓への血流が入りにくくなった結果、門脈圧が上昇したことによって、しばしば脾腫を生ずる。脾腫に伴って、しばしば脾臓の機能は亢進し、結果として、必要以上に血球が破壊され、すなわち、赤血球、血小板などが総じて減少傾向となる汎血球減少症が見られる場合もある。

他に特筆すべきこととして、肝硬変患者は糖尿病を合併する場合があるため、糖尿病の指標が注目されることもある。血糖値を下げるホルモンであるインスリンが肝硬変になった肝臓に来たとしても、肝臓でグリコーゲンを合成するなどして血糖値を下げることが難しくなることが一因である。この結果、食後高血糖が起こりやすくなり、HbA1c(ヘモグロビンA1c分画)の上昇も見られることがある。ただし、肝硬変患者は低血糖も起こしやすくなる。これは、肝硬変になった肝臓は、グルカゴン、成長ホルモン、糖質コルチコイドといった血糖値を上昇させるホルモンが来ても、肝臓に蓄えることのできるグリコーゲンの量が減少するためグリコーゲンの分解による血糖値維持を続けることが難しくなる上に、肝臓においてコリ回路をはじめとする糖新生の能力も低下するためである。

なお、肝硬変の原因を探るための血液検査項目としては、ウイルス学的検査(HBV抗原・抗体, HCV抗体など)、自己免疫学的検査(ANA(Anti-Nuclear Antibody:抗核抗体)、AMA(Anti-Mitochondrial Antibody:抗ミトコンドリア抗体)、AMA-M2分画=抗PDH抗体など)などを行う。

線維化の進展を予測できる指標として FIB-4 index がある[9][10]

FIB-4 index 算出方法
( AST × {\displaystyle \times } 年齢 ) ÷ {\displaystyle \div } ( 血小板数 × A L T {\displaystyle {\rm {\times {\sqrt {ALT}}}}} )注記:AST 及び ALT は、IU/L。血小板数は、109/L (0.1万/μL)

判定
2.67以上、肝線維化確実で NASH の可能性が高い。要肝生検[11]ALT値が基準値内であっても NAFLD の場合は、1.659以上(≧)、肝線維化の可能性[12]1.3以下、肝線維化なし。経過観察[11]
肝生検

肝生検では、再生結節を伴う線維化した肝組織を認める。再生結節の大きさが3 mmより小さいものは小結節性肝硬変と分類され、アルコール性肝硬変に多くみられる。3 mm以上のものは大結節性肝硬変と分類され、ウイルス性肝硬変に多く見られる。ただし、超音波検査や腹部CT検査などの非侵襲的な画像診断技術の進歩に伴い、侵襲的な肝生検は、肝硬変に診断において意義が薄れつつある。肝生検が必要とされるのは、肝硬変に伴って肝がんと見られる腫瘍組織らしきものが画像診断で発見された時である。
上部消化管内視鏡検査

上部消化管内視鏡検査にて、食道や胃の静脈瘤を定期的に調べることは、静脈瘤破裂に伴う大出血による突然死を防ぐために、必要だとされている。
画像診断(CT、超音波など)


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