肝硬変
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線維化の進展を予測できる指標として FIB-4 index がある[9][10]

FIB-4 index 算出方法
( AST × {\displaystyle \times } 年齢 ) ÷ {\displaystyle \div } ( 血小板数 × A L T {\displaystyle {\rm {\times {\sqrt {ALT}}}}} )注記:AST 及び ALT は、IU/L。血小板数は、109/L (0.1万/μL)

判定
2.67以上、肝線維化確実で NASH の可能性が高い。要肝生検[11]ALT値が基準値内であっても NAFLD の場合は、1.659以上(≧)、肝線維化の可能性[12]1.3以下、肝線維化なし。経過観察[11]
肝生検

肝生検では、再生結節を伴う線維化した肝組織を認める。再生結節の大きさが3 mmより小さいものは小結節性肝硬変と分類され、アルコール性肝硬変に多くみられる。3 mm以上のものは大結節性肝硬変と分類され、ウイルス性肝硬変に多く見られる。ただし、超音波検査や腹部CT検査などの非侵襲的な画像診断技術の進歩に伴い、侵襲的な肝生検は、肝硬変に診断において意義が薄れつつある。肝生検が必要とされるのは、肝硬変に伴って肝がんと見られる腫瘍組織らしきものが画像診断で発見された時である。
上部消化管内視鏡検査

上部消化管内視鏡検査にて、食道や胃の静脈瘤を定期的に調べることは、静脈瘤破裂に伴う大出血による突然死を防ぐために、必要だとされている。
画像診断(CT、超音波など)

腫大した肝左葉と萎縮した肝右葉、mesh pattern(小網目状)の実質、鈍化した辺縁、肝表面の凹凸が 腹部超音波検査腹部CT検査で共通にみられる典型的な肝硬変像である。左葉の腫大については、腹部超音波検査で尾状葉(S1)が大動脈の位置まで達していれば、左葉腫大と判定する。なお、「アルコール性肝硬変」では、再生結節が小さく均一に分布するため、両葉が腫大し、実質は粗くなく、表面の凹凸も目立たない。

腹部超音波検査では、肝臓の再生結節、門脈圧亢進を反映した胆嚢壁の肥厚を認める。これは胆嚢静脈が、門脈に還流するためである。門脈圧亢進に伴って、傍臍静脈や左胃静脈の拡張・脾後腹膜短路など、側副血行路の形成も認める。また、しばしば腹水が見られる。

肝硬変にはしばしば肝細胞癌が合併するが、造影剤を用いたダイナミックCT・MRI検査や超音波ドップラー法などで、癌組織内の血流を評価する検査が癌の診断に有用である。
分類

残存肝機能の程度を評価するものとして以下の 「Child-Pugh (チャイルド・ピュー) 分類」または「肝障害度分類」が一般的に用いられている[13]

Child-Pugh分類(Child-Turcotte分類改)1点2点3点
肝性脳症無し軽度昏睡あり
腹水無し少量中等量以上
アルブミン(Alb:g/dl)3.5 超3.5-2.82.8 未満
プロトロンビン時間(PT:%)70 超 <70-4040 未満
ビリルビン(T-Bil:mg/dl)2.0 未満2.0-3.03.0 超

合計点で、A : 5-6 , B : 7-9 , C : 10-15 の分類を行う。

MELD score(Model for end-stage liver disease)
血清ビリルビン値・クレアチニン値・プロトロンビン時間(PT-INR)によって算出される肝機能予後評価式。メイヨークリニックのサイトで自動計算可能。また血清ナトリウム(Na)を加味するものもある。

肝障害度分類[14]肝障害度ABC
腹水ない治療効果あり治療効果少ない
血清ビリルビン値(mg/dL)2.0未満2.0-3.03.0超
血清アルブミン値(g/dL)3.5 超3.0-3.53.0未満
ICGR15(%)15未満15-4040超
プロトロンビン活性値(%)80超50-8050未満

2項目以上に該当した肝障害度が2カ所以上にある場合は、高い方の肝障害度に分類される。
主な合併症

最も多い合併症は門脈圧亢進症。ほかに、肺高血圧症や血液疾患など。

門脈圧亢進症により食道、胃、直腸静脈瘤からの消化管出血や門脈圧亢進性胃症腹水、急性腎障害などの症状が現れる
[4]
詳細は「門脈圧亢進症」を参照

心血管系合併症により、血管拡張、肺内右左短絡、低酸素症(肝肺症候群)[4]

肺高血圧症
詳細は「肺高血圧症」を参照

血液疾患により、貧血、脾機能亢進症、慢性消化管出血、葉酸欠乏症[4]

治療

肝硬変に至った肝臓を元に戻すことは不可能なため、その治療は基本的に対症療法が行われ、合併症の発生を避けるといったことが主に行われる。また、食事制限を行うことによって、肝硬変の進行を少しでも遅らせたり、合併症を防ぐといったことも行われる。これらによって肝硬変患者の延命を図る。なお、肝硬変に至った原因によっては、それに応じた治療が行われることもある。
一般的な治療肝不全用のアミノ酸製剤の例

肝硬変は、一般に飲酒によって悪化するため、食事制限の1つとして、節酒ではなく一切の飲酒を禁ずる断酒が含まれることが通常である。他にも、肝臓において尿素回路が充分に機能しないために高アンモニア血症(英語版)を生じないように、体内でのアンモニアの発生を減らす処置が行われる場合がある。よって、タンパク質がエネルギーとして利用された時に生ずるアンモニアを減らすための食事制限も行われ得る。さらに、ラクツロースを経口投与することで、これが腸内で分解されて腸内のpHを低下させることによって、腸内のアンモニアをイオン化させて吸収されにくくするといったことも行われる。他に、腸管内で腸内細菌によってアンモニアが遊離されることを防ぐために、経口投与してもほとんど吸収されない抗菌薬を経口投与して腸内細菌を殺菌するといったことが行われる場合もある。

また、肝硬変に伴う高アンモニア血症の他に、肝臓でのアミノ酸代謝能力が低下したことによって、芳香族性の側鎖を持ったアミノ酸が蓄積したことなども合わさって発症する肝性脳症を防ぐために、上記の他に、分岐鎖アミノ酸を多く含み、芳香族アミノ酸の含量が少ない、肝不全用のアミノ酸製剤が投与される場合もある。

肝硬変に伴って発生した門脈圧亢進症によって発生した脾腫などの結果として生ずる、貧血の改善のためには、鉄剤を用いることもあるものの、肝硬変の原因によっては鉄過剰によって肝細胞が打撃を受ける可能性があるため、慎重さが求められる。また、脾腫による血小板減少と、肝臓による血液凝固因子合成量の減少に伴う出血傾向については、軽度であればビタミンKの補充によって肝臓での血液凝固因子合成を促進する方法もあるものの、もはや肝臓による血液凝固因子合成が望めない場合は、血液凝固因子を補充するために新鮮凍結血漿の輸血が行われることもある。新鮮凍結血漿の輸血によって、肝硬変の肝臓では合成が不足しがちになるアルブミンも補充できる。ただし、この治療を行うと、輸血に伴う感染症のリスクを患者は負うことになる。

肝硬変による門脈圧亢進症の結果、脾腫以外にも様々な合併症が現れるために、それらの対処が求められる場合もある。門脈の流れが悪くなったことなどによって発生する腹水については、体液貯留を防ぐためにも塩分制限を患者に課し、利尿薬の投与が試みられるものの、効果が不充分であれば、腹部に針を刺して直接腹水を抜き取る場合もある。門脈に溜まった血液が無理に心臓に戻ろうとした結果、しばしば痔核や食道静脈瘤を形成する。このうち食道静脈瘤破裂による出血は、致死的である場合もあるために、食道静脈瘤破裂を防止する処置が試みられる場合もある。これらのように、門脈圧亢進は様々な合併症を引き起こすため、TIPS(経頚静脈的肝内静脈短絡術)が試みられる場合もある。この他、肝硬変に伴って肝がんが発生した場合は、その治療が試みられることもある。

ただし、いずれの治療も肝硬変の病期の進行に伴って治療は困難になりがちであり、死亡に至ることもある。これを避けるために、肝移植が行われる場合もあるものの、仮に肝移植が成功したとしても、拒絶反応を防止するために生涯にわたって免疫抑制剤を使用し続ける必要があるため、患者は日和見感染症を含めて感染症全般に注意せねばならない。また移植後の長期経過の中で、移植された肝臓の機能低下など更なる問題が出てくる場合もある。
原因別の治療

以上に加えて、肝硬変が発生した原因によって、以下の治療が試みられたり、特に患者に強い食事制限を課したりする場合がある。
アルコール性肝硬変では、まず禁酒こそが最も重要であり、患者は直ちに断酒をしなければならない。例えば、
アルコール性脂肪肝であれば可逆的なので、一時的な禁酒によって脂肪肝が解消されれば、適量の飲酒ならば許されるようになる場合があるのに対して、肝硬変に至った肝臓は不可逆的であるために生涯の断酒が求められる。残存している肝機能を可能な限り長く維持しておくために、断酒は避けられない。なお、その他の原因による肝硬変であっても禁酒は予後を改善するため、いずれにしても肝硬変になった場合は断酒が求められる。

B型肝炎の結果発生した肝硬変では、HBV-DNA陽性の場合にはエンテカビルなどによる、抗B型肝炎ウイルス治療が試みられる[15]。なお、5年間にわたるテノフォビル投与により、HBVによる肝硬変患者の約75%は、肝硬変が改善していた[16]

他の病気の治療への影響

肝硬変に陥った患者は、肝機能が低下するために、もしも、肝硬変患者が肝臓以外にも疾患を抱えていて、何らかの治療を行っていた場合には、その治療にまで影響を及ぼす場合がある。例えば、その疾患の治療のために使用していた薬物が、肝臓で代謝されたり、胆汁へと排泄されることが必要な薬物であった場合、その薬物が使用不能になる可能性があるといった具合である。
予後

肝硬変は、肝臓の不可逆病変であり、治癒しない。そして肝不全に陥った場合、死を避けることは難しい。したがって、残存している肝機能をどれだけ維持できるか、いかに代償性肝硬変の状態を長く維持できるかによって、予後は左右される。この他に、腎機能が低下した患者や、肺機能が低下した患者では予後が極めて悪い。さらに、肝硬変は肝がんを発症しやすい状態であるため、肝がんを発症して死亡に至るケースもある。また、肝硬変に伴う出血傾向によって、消化管出血、特に、食道静脈瘤の破裂によって急死する場合もある。なお、非代償性肝硬変に至ったとしても、肝移植が成功した患者の生命予後は改善される。しかしながら、肝移植を行った場合、HLAが完全に一致しない限り拒絶反応を抑えるための免疫抑制を生涯行う必要が出てくるなど、問題もある。
出典・脚注[脚注の使い方]^ ヘモクロマトーシス 慶應義塾大学病院 KOMPAS
^ 肝疾患診療実践マニュアル 文光堂 1995


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