繁体字
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その代表的な論者として中華民国総統を務めた馬英九が知られる。馬は台北市長だった2004年に講演で、「繁体字」の呼称は漢字簡化が進められた際に中国大陸で使われ、「煩」に通じるマイナスの評価を暗に伴う不合理で誤ったものであると述べ、「正体字」と呼ぶべき理由として古くから伝わる正統の文字であることと、簡体字・俗字・異体字との対比を挙げた[1]。こういった主張を背景に、特に台湾で行われるものを指して「正體字」「正體中文」と呼ぶことがある。

中華民国教育部は、同部が定めた規範による文字を「正體字」のほか、『 ⇒標準字與簡化字對照手冊』で標準字と呼び、中国大陸における「繁體字」と区別している。
特徴と地域差

繁体字と簡体字の関係は、日本の漢字における「明治以来行われてきた活字の字体」(旧字体)と当用漢字以後の「現代の通用字体」(新字体)との関係にほぼ相当する。ただし日本でいう「旧字体」とは異なり、繁体字は台湾や香港などでは現在も標準的な字体として一般的に使われている。個別の字で見ると、繁体字は旧字体と字体を同じくしているものがあるが、異なるものもある。現行の規範や習慣に沿った繁体字書体は、日本で明治以来行われてきた活字のものとは、字体やデザイン面など異なる点が多い。

中国大陸における簡体字と異なり、繁体字圏では漢字の字体に対する強制力を伴う厳密な規範がない状態が長期にわたって継続してきた。地域ごとの習慣・言語政策の違いにより、個々の字の字体に相違が見られる。現行の規範による字体は、初等教育の教科書などに使われる。それ以外の民間における実際の印刷書体やコンピュータにおけるフォントは、必ずしも各地の規範通りの字体を採用しているとは限らない。

台湾と香港は、ともに繁体字圏であるとはいえ、口語ほどではないものの漢字の用法や字体に違いが見られる。香港では「著」と「着」を書き分けるが、台湾では一般に区別せず「著」と書く。逆に台湾では「台」と「臺」を書き分けるが、香港では一律に「台」と書く。台湾では「裡」「衛」が規範とされるが、香港では「裏」「衞」である。このほかに、活字のデザイン差程度ともいえる細かな違いもある。

一般的に繁体字にも簡体字と同様の「新字形」と通称される印刷標準字体が適用されるため、結果として台湾・香港のものとは字体が異なることがある。例えば「麼」は大陸では「?(?)」である。
字体に関する規範
国字標準字体
台湾の標準字体。中華民国教育部1982年に頒布した常用国字標準字体表と続く次常用国字標準字体表罕用字体表に規定される。
常用字字形表
事実上、香港の標準字体を定める漢字表。香港教育署語文教育学院(現・香港教育大学)中文系により制定され、1986年に発表された。1990年2000年に大幅な修訂がなされ現在に至る。そもそもは漢字教育にあたる小学教師の参考資料として研究編纂され、編者は「正字の権威を打ち立てようとするものではない」としているが、香港教育署(現・教育局)が1988年に頒布した課程綱要に含まれる「小学常用字表」はこの字形表をよりどころにしている。地元出版社も、小中学校教科書のほかに辞書をもこの字形表に準拠して出版している。台湾の国字標準字体とは大部分で共通する。
新字形
中国大陸の印刷標準字体の通称。印刷通用漢字字形表(1965年)、現代漢語通用字表(1988年)、通用規範漢字表(2013年)に基づく。権威ある字書・辞書とされる『新華字典』・『現代漢語詞典』に見える繁体字・異体字にも原則としてこの新字形が適用されている。
コンピュータと繁体字
文字セット
Big5
1984年に台湾で制定された文字セット。繁体字圏のデファクトスタンダード。オリジナルである基本セットを特にBig5-1984と称する。
CNS 11643
中華民国の国家規格で、Big5をベースにした文字セット。
GB 12345-90
中華人民共和国の国家規格で、簡体字中国語の基本文字セットGB 2312の繁体字版といえる文字セット。
CJK統合漢字
UnicodeUCSの策定にあたり、中国 (China)・日本 (Japan)・韓国 (Korea) の漢字を統合した文字セット。
GBK
中華人民共和国の文字セットで、GB 2312を拡張し当時のCJK統合漢字をすべて取り込んだもの。繁体字をも含む。
香港増補字符集
香港政府によってBig5の拡張セットとして制定された文字セット。方言字や香港で常用される異体字を中心とする。HKSCS。
GB 18030
中華人民共和国の国家規格で、GBKをさらに拡張したもの。
フォント

繁体字中国語フォントは、Big5-1984を基本文字セットとしてきた。日本で市販される商品は、Big5-1984の範囲にとどまる場合が多い。香港などではフォントメーカーが独自の拡張を施した製品を販売した。Unicodeの浸透とともに、Big5を主としてCJK統合漢字をカバーするものやHKSCSやBig5拡張規格に対応したものもオペレーティングシステムのパッケージやアップデート・拡張機能、市販品、オープンソースソフトウェアとしての流通などを通じて普及している。

一方、簡体字中国語フォントも準拠する文字セットがGBK、GB 18030と拡張を重ねたことにより繁体字をカバーするようになった。中国の国家規格には字体についても規定したものがあり、簡体字フォントは、ビットマップフォントとGB 2312しかなかった時代から中国大陸の字体規範に沿ってデザインされている。GB 18030対応フォントも規格に適合することが求められ、収録されている繁体字の大部分は「新字形」に沿ったデザインになっている(新字形の「奥」「?」が別に含まれている「奧」「?」といった文字には適用されない)。

台湾・香港の両政府とも字体に関する規範に準拠することを積極的に求めることがなかったため、Big5系のフォントが規範に完全に適合することはまれであった。とはいえ、楷書の要素を取り入れる例があり、日本で「明治以来行われてきた活字の字体」よりも、台湾・香港の規範に近いことが多い。

特に2005年ごろから、特に台湾の字体規範に適合したフォントの普及の動きが見られる。Windows Vista以降のMicrosoft Windows微軟正K體新細明體)、OS X 10.11 El Capitan以降のmacOSやiOS 9以降のiOS蘋方-繁〈PingFang TC〉)といったオペレーティングシステムの繁体字中国語標準フォントが国字標準字体に準拠した。AdobeGoogleなどと共同開発したオープンソースフォントの繁体字版思源K體 (Source Han Sans TC)と明朝体に当たる思源宋體 (Source Han Serif TC)は、国字標準字体に対応している。

蘋方には「蘋方-港 (PingFang HK)」、思源K體バージョン2.00以降には「思源K體 香港 (Source Han Sans HC)」という香港字形のバリエーションもある。
対照例示

台湾、香港における標準字体、中国大陸における新字形による繁体字、簡体字のほか、韓国における漢字、日本の旧字体・新字体も参考のために掲げた。日本語では当用漢字以前、必ずしも標準字体が定まっていたわけではない。ここでは日本語において使われることがまれな漢字について、日本語フォントに見られる字体を便宜上新字体として扱っている。

使用ウェブブラウザの仕様やインストール・設定されているフォントなどといった閲覧条件により、正確な字体が再現されない場合がある。以下の条件に適合する場合、意図に沿った表示となる。

日本語・簡体字中国語・韓国語のフォントのほか、繁体字は台湾・香港の標準字体に準拠したフォントがインストールされ有効になっている。

ウェブブラウザが指定された言語属性に従い、言語に適したフォントで表示でき、適切なフォントが設定されている。

特に繁体字中国語で台湾のもの(zh-TW、zh-Hant-TW)と香港のもの(zh-HK、zh-Hant-HK)を区別していること。

上記を満たさない場合はISO/IEC 10646Unicodeで符号位置が区別される?-温・群-羣・衛-衞・?-鋭などの一部を除き、台湾と香港の字体との区別ができない。

表の(青色)の部分は、香港の標準字体が台湾の標準字体との間に相違点が基本的にないことを示す。

以下の世界人権宣言第1条の表示例が一致すれば、台湾欄の漢字は台湾の規範に沿った表示となっている。

国字標準字体使用中のフォント
人人生來自由,
在尊嚴和權利上一律平等。
他們有理性和良心,
請以手足關係的精神相對待。

台湾香港新字形簡体字韓国旧字体新字体
乘(乘)乘乘乘乘乗
亞(亞)亞?亞亞亜
假(假)假假假假仮
冷(冷)冷冷冷冷冷
別(別)??別別別
畫(畫)畫画?畫画
劃(劃)劃?劃劃劃
()?勳勳勲
?(?)????呉
??啓?啓啓啓
圈(圈)圈圈圈圈圏
圖(圖)圖?圖圖図
塵(塵)塵?塵塵塵
()曉曉曉搗
壞(壞)壞坏壞壞壊
奧奧奥奥奧奧奥
廠(廠)廠厂廠廠廠
廣廣廣广廣廣広
強(強)????強
從(從)從从從從従
感感感感感感感
憲憲憲?憲憲憲
??????戸
臺台臺台臺臺台
抬(抬)抬抬擡擡擡
效(效)效效效效効
敘敍叙叙敍敍叙
於於於于於於於
東(東)東?東東東
樂樂樂?樂樂楽
次次次次次次次
?温温温??温
澀(澀)澀?澁澁渋


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