縦書きと横書き
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ただし、刊行物では、右横書きの文章は長くても数行程度ものであり、雑誌記事において、縦書きと併用して用いられる場合が多かった[8](個人の手控えでは、日露戦争に従軍した軍曹の「陣中日誌」などに、文章全体が右横書きで記されている例がみられる[9]。)。

1927年昭和2年)に鉄相に就任した小川平吉は、1929年(昭和4年)までに、左書きとなっていた駅名表記を右書きに改正させている[10]

1940年(昭和15年)頃からは左横書きによる方向統一の動きが各所で散見されるようになり、文部省の諮問機関、国語審議会では1942年(昭和17年)7月、左横書きを本則とする旨の答申を出すに至る[11]。しかしこれに対して反対論も強く、答申の同部分は閣議提案されなかった[12]。当時、陸軍はむしろ左横書き専用への移行を進めていた。しかし、国粋主義的な論調の高まりの中で、「米英崇拝」であるとして左横書き排除を唱える者も現れ、左横書きを用いる商店への投書運動も展開された[13]。このため、新聞社の中には左横書きの広告を拒否する社もあった[14][15]

戦後、GHQ/SCAPによるアメリカ教育使節団報告書中のローマ字採用勧告や漢字の廃止運動(国語国字問題 / 漢字廃止論)などの社会運動により、西欧の記法に倣う左横書きが革新的、「1行1文字の縦書き」及び「右横書き」は保守的、というイメージは決定的なものとなり、「1行1文字の縦書き」及び「右横書き」は衰退の一途をたどることとなった。前出の屋名池の調査によれば、新聞の見出しの横書きは『読売報知新聞』(現在の『読売新聞』)が1946年(昭和21年)1月1日号から左横書きに切り替わったのを初の例として、1948年(昭和23年)までに『日本経済新聞』を除く全紙の見出しが切り替わっている(日本経済新聞は1950年(昭和25年)9月に切り替え)。また紙幣では1948年(昭和23年)3月のB50銭券を端緒として左横書き化されている[16]

また、諸官庁の作成する文書形式のガイドライン『公用文作成の要領』(1951年(昭和26年)10月30日国語審議会審議決定・1952年(昭和27年)4月4日内閣官房長官依命通知)では、「執務能率を増進する目的をもって、書類の書き方について(略)なるべく広い範囲にわたって左横書きとする」としている。これにより、行政機関では、早くから多くの文書で横書きが用いられてきた。しかし、法律案に関する文書や閣議に関する文書など、縦書きされる文書も多く残る。

これに対して、裁判所では、長らく全ての文書で縦書きが用いられていた。しかし、2001年平成13年)1月1日からは、全ての文書で横書きが用いられている。なお、司法試験(論文式)の答案も、同年から横書きに変更された。

一方、印刷物の本文を見ると、日本で発行されている新聞、雑誌、一般向け書籍の多くで、今日まで縦書き(縦組み)が主流であり続けている。とりわけ新聞の一般紙では、縦組みしかない。朝日新聞社が1950年(昭和25年)頃に1ページのみの横組みの内部テスト版を作ったことがあるが、実際に発行されることはなかった[17]。雑誌でも、自然科学や工学、社会学や経済学、言語学・人類学などの分野を除き、本文に縦組みを採用する例がほとんどである。一般向け科学雑誌の『科学朝日』のように、1941年(昭和16年)の創刊時には縦組みで、その後横書き(横組み)に変えながら、1989年(平成元年)に縦組みに戻した例もある。写真やイラストの多いレイアウトに向いていたからだという[18]

文芸書の横組みは、1984年(昭和59年)刊の小峰元『クレオパトラの黒い溜息』が初めてと見られる[19]が、小峰のこれ以外の作品は出版社の要望により、すべて縦組みとなっている[20]1992年刊の吉村達也の『黒白の十字架』も横組みの推理小説で、これはコンテンツと連動してあえての横組みである。今日でも、文芸作品が横組みとされることはまれである。
縦書きと横書きの字体、書体

日本語において縦書きと横書きで字形や組版が異なることがある。
漢字

漢字は、活字体の場合は縦書きのときも横書きのときもその字体に変わりはないが、手書きの字形の場合は異なるケースがある。
仮名

小書き仮名は、縦書きと横書きで書く位置が異なる。縦書きの場合は、通常の文字に比べ右側に書き、多くの場合は右上に書く。以前は前の文字の右下に書くこともあった。横書きの場合は、下に書き、左下にすることも多い。下付き文字のように枠外になることはない。

音引き(ー)は、縦書き時は縦線で、横書き時は横線で書かれる。波ダッシュを用いる場合は、通常縦書きの場合と横書きの場合は90度回転させた上で鏡像にした字形になる。

??のような合略仮名は縦書きのときにのみに用いられる。

くの字点は縦書きのときに主に用いられ通常横書きでは用いないが、への字のように書いたりダッシュで代用することもある。
約物

約物は、縦書きと横書きとで字体が異なるものがある。

句読点は、縦書きの場合は全角枡の右上、横書きの場合には全角枡の左下に書く。

括弧は縦書きの場合と横書きの場合は90度回転させる。

使用する約物を変える場合もあり、横書き時には句読点の代わりにピリオドコンマを用いることがある。また、ダブルクオートを横書きで用いるが、縦書きでは鍵括弧に変更する場合もある。

小数点は、横書きではピリオドを用いるが、縦書きでは中黒を用いる。

ダッシュは、縦書きは縦線、横書きは横線になる。

リーダーは縦書き時には中黒を縦に並べるが、横書きは中黒を横に並べたり、ピリオドを横に並べたりする。
英数字
数字

数字に関しては、横書きでは算用数字を、縦書きでは漢数字を用いることが多いという違いがある。ただし、縦書きでも2?3桁程度の算用数字は漢字・かな1文字分のスペースに横に並べて詰め込むことがあり、これを組数字という。

新聞社や通信社の一部では、縦書きの算用数字化を進める動きもあるという[21]
ローマ字

縦書きの中のローマ字は仮名のようにそのまま書かれることも多いが、90度回転して文字の下が左に向くように書くこともある。
特殊な例としてみられる右横書きバスの右側面の表記例。「貸切」「岩手県北自動車株式会社」「八幡平号」の文字が右横書きで書かれている

自動車船舶など明瞭に前後の概念を持つ対象に文字を書く場合、進行中の読み取りを考慮して右側面に右横書きが用いられることがある。むろん反対側では左横書きであり、左右で書字方向が逆行することになる。しかしながら、レタリング表示がロゴタイプの概念に置き換えられるにつけ、この慣例も廃れつつある。例を挙げると、名古屋製酪株式会社ではトラックの右側面の表記を2018年1月から導入の新型車両には従来の「ターャジス」から「スジャータ」に置き換えるとしている[22]
縦書きと横書きの使い分け

現代日本においては、縦書きも横書きもともに用いられる。

縦書き(縦組み)は、書道作品のほとんど、国語の教科書、文芸小説詩歌戯曲など)、新聞などで用いられる。漫画もその戦前からの伝統を踏襲しており、コマ運びは右横進行、吹出しの台詞は縦書きが標準であるが、左開きに製本された場合、コマ運びだけは、右横進行のことも左横進行のこともある。また、基本的に台詞は縦書きであるが、一部の外国語が話されているというシーンでは、その台詞の吹き出しだけ横書きにする、という漫画作品もある。この場合、一つのページに縦書きと横書きが混在する。

自然科学関連の書籍でも、数式などを用いない啓蒙書では、縦書きの例が依然として多い。社会科学系の書物も、数理経済学、会計学の専門書を除くと縦書きが多い。公文書においては法令や法案、官報、あるいは国会での決議と決議案が縦書きにされる。縦書きおよび右横書き基調の綴じ本は、右開きに製本される。

横書き(横組み)は、例えば、外国語数学科学音楽になどに関する専門書、つまり、横書きの言語数式楽譜を含むような文書のほとんどで使われる。コンピュータ出力もほとんど横書きである。


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