緑膿菌
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ペニシリンセフェム系などのβ-ラクタム系抗生物質アミノグリコシド系抗生物質は当初から効果がなく、広域ペニシリン、第三世代セフェム、カルバペネム、抗緑膿菌性アミノグリコシド、ニューキノロンなどの開発によって、ようやく緑膿菌治療に有効なものが得られた。ただし、現在ではカルバペネム系薬・アミノグリコシド系薬・ニューキノロン系薬の3系統全てに耐性を示す多剤耐性緑膿菌も出現している。多剤耐性緑膿菌に対して有効と考えられているのは、抗MRSA薬である硫酸アルベカシン、モノバクタム系薬であるアズトレオナム、ポリペプチド系薬である硫酸ポリミキシンBやコリスチンメタンスルホン酸ナトリウムなどである。

この他、緑膿菌は一般に用いる石鹸食塩による殺菌や静菌効果も低い。一方、酸やイオンによる殺菌には感受性であり、またEDTAに対しては感受性を示すだけでなく、EDTA存在下では他の消毒薬の効果が増強される。

緑膿菌の薬物抵抗性には、複数の薬剤耐性メカニズムが関わっている。
薬物の細胞内への取り込みを制限する機構。

取り込まれた薬物を再び細胞外に排出する機構。

獲得した耐性酵素による薬物の分解や修飾。

抗生物質の標的となるタンパク質の変化による阻害回避。

バイオフィルムによる薬剤浸透性の低下。

これらの薬剤耐性は、抗生物質使用によって緑膿菌が既に獲得していた機構が誘導されるだけでなく、性線毛を介した接合による薬剤耐性プラスミド(Rプラスミド)の伝達や、形質導入による薬剤耐性遺伝子の獲得などによって、異なる菌株から新規に伝達される場合もある。

なお、細菌検査の分野では、逆性石鹸の1種である消毒薬のセトリミド(Cetrimide)に抵抗性があることを利用して、セトリミドを加えた培地を用いて選択的に分離培養することができる。セトリミドとともに、抗菌剤であるナリジクス酸を加えた、NAC (Nalidic-Acid, Cetrimide) 培地が緑膿菌の選択分離に用いられている。
病原性

緑膿菌は、健常なヒトに感染しても症状が出ることがほとんどない毒性の低い細菌であるが、免疫力が低下したヒトに、ムコイド型緑膿菌が日和見感染すると、緑膿菌感染症を引き起こす。院内感染によって発生することも多い。発症した場合、緑膿菌の持つ薬剤耐性のために薬剤による治療が困難であることも多い。β-ラクタム系アミノグリコシド系ニューキノロン系の3系統の抗細菌薬にそれぞれ有効なものがあるが、これらの系統すべてに対して耐性を獲得した多剤耐性緑膿菌感染症も出現しており、医療上の問題になっている。
緑膿菌感染症

緑膿菌感染症は、健常者には見られないが、免疫抑制剤の使用や後天性免疫不全症候群(エイズ)などにより免疫力の低下した人や、長期間の入院や手術などで体力を消耗している人、寝たきりの状態にある老人など、いわゆる「易感染宿主」に発症する疾患(日和見感染症)である。

医療用カテーテル気管挿管、外科的手術などの医療行為によって尿道気道創傷からの感染を起こしたり、褥瘡火傷、外傷などで皮膚のバリア機構が失われた部分から感染するケースが多い。このほか、コンタクトレンズ着脱時の損傷によってに感染を起こす場合も知られる。局所感染の場合は、眼では角膜炎炎症、耳(外傷などによる)では「スイマーズイヤー (swimmer's ear、水泳者の耳)」とよばれる外耳炎、皮膚では化膿性発疹などを起こすほか、気道感染による肺炎を起こす場合もある。またこれらの局所感染に引き続き、あるいは創傷などからの血管内への感染によって全身感染を起こし、敗血症、続発性肺炎、心内膜炎中枢神経感染などの重篤な疾患を引き起こすこともある。特に、緑膿菌敗血症では致死率は約80%に上ると言われている。
緑膿菌と院内感染

医療機関では、(1) 緑膿菌が存在しやすい環境下で、(2) 易感染宿主に対して、(3) 感染原因にもなりうる医療行為を行う、という条件が揃っているため、緑膿菌による院内感染がしばしば問題になる。

緑膿菌は易感染宿主に日和見感染して感染症を引き起こすが、病院などの医療機関は入院、通院を問わず、このような易感染宿主が集まる環境にある。また、医療機関では日常的にさまざまな消毒薬、抗生物質などの薬剤が使用されているため、これらの薬剤に対して感受性のある微生物が増殖しにくい一方で、緑膿菌のように薬剤抵抗性の強い微生物は選択的に生き残りやすい傾向にある。さらに新たな耐性を獲得した薬剤耐性菌も生まれやすい環境である。その上、外科的処置や挿管などの医療行為は、充分な配慮が行われない場合、緑膿菌感染の直接のきっかけになりうる。各医療機関が行っている対策によって、他の病原体とともに緑膿菌の発生状況はモニタリングされ、院内感染の予防が行われているが、環境中の常在菌でもある緑膿菌の完全な除去は困難であり、しばしば院内感染例が報告されている。(患者が保有しているものの他、患者への見舞い品も緑膿菌の感染源となりうる。緑膿菌は花卉商品の用土(土以外が使用されているものも含む)や植物自体に付着・生息している事が多く、そのため病院では院内への緑膿菌の流入を阻止するために見舞い等でも花卉の持ち込みを禁止している所が少なからず存在する。)
治療

緑膿菌感染症の治療は、緑膿菌に対する抗菌性を有する薬剤による化学療法が行われる。第1選択となるアミノグリコシド系ゲンタマイシン、トブラマイシンやアミカシンのほか、ペニシリン系のチカルシリンピペラシリン、第3世代セフェムであるセフタジジム、また完全合成β-ラクタムであるカルバペネム系のイミペネム・シラスタチン合剤、メロペネム,ドリペネムや、ニューキノロン系シプロフロキサシンも用いられることがある。


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