統合失調症
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4. 証拠・根拠の検討:妄想や幻聴の内容が事実であるかどうか・実在するかどうかについての証拠や根拠について、治療者と患者が協同で様々な角度から客観的に検討し、そこで得られた気づきを共有することで、妄想や幻聴は事実ではなく実在もしないと認識できるようサポートする[153][154][155]。たとえば、幻聴の訴えがある場合は、何らかの録音機器を使ったサポートを通して、幻聴を裏付けるような音声が録音されないという気づきを得て、幻聴は実在する音声ではないという確信を持つことができる[156]。5. 代替療法:妄想や幻聴に対する合理的な他の考え方を患者が見つけられるようにサポートしたり、治療者が提示したりする。どちらにおいても、患者と治療者が協同して、苦痛を伴わない合理的な別の考え方を見つけていく[157]。6. フォーカシング療法:セルフモニタリングの技法などを活用して、妄想や幻聴は自分の思考(自己派生の出来事)であり、実際に外部にあるもの・外部からの声(外部からの刺激)ではないということを認識できるようサポートする[158]。7. 競合刺激の活用:たとえば、幻聴が聞こえる状態で外部聴覚刺激(音楽など)を聞くと、幻聴が少なくなるという体験をすることなどを通じて、幻聴は実在する外部音声ではないという認知を形成できるようサポートする[159]。また、対処方略としては、妄想の考えをストップしたり幻聴を無視し聞き流したりしたあと他へ注意を向ける二段階法や、ちょっとした気晴らし行動などを用いた注意転換法を活用して、妄想や幻聴への注意を他の事柄(たとえば音楽など)に向け、そのような現実の事柄に意識を向けながら生活できるようサポートを行う[160][161]
心理教育 (Psycoeducation)
薬物療法によって陽性症状が軽減しても、自らが精神疾患に罹患しているという自覚(病識)を持つことは容易ではない。病識の不足は、服薬の自己中断から再発率を上昇させることが知られており、病識をもつことを援助し、疾患との折り合いの付け方を学び、治療意欲を向上させるために心理教育を行うことが望ましい。精神保健福祉士が主に担当する。統合失調症の患者は正直すぎると言われるが、なにもかも正直でなくていい、秘密があっていいということを教育する。秘密にすることで自分を守ることはマナーでもあり、社会復帰のために必要である。また、異性関係のことが自分の中であまりにも整理されていない人が多いとされ、異性の気持ちになって物事を見ることも大切な心理療法の一つである。また、心理教育の一環として、統合失調症の診断に対してノーマライジングを実施することにより、患者の苦痛を軽減することができる。たとえば、@統合失調症は珍しい疾患ではなく多くの人が罹患しうること、A統合失調症は患者自身や家族のせいで発病するものではないこと、B統合失調症も治療可能な病気であり多くの患者が症状を克服していけること、などを理解してもらえるよう丁寧に説明する[162]。患者本人のみならず、家族の援助(家族教育)も行うこともある。家族への心理教育の再入院予防効果によって、医療コストは軽減されるといわれる[163]
ソーシャル・スキル・トレーニング (SST)
統合失調症を有する患者は、陰性症状に起因する社会的経験の不足が散見され、自信を失いがちなことにより、社交、会話などの社会技能が不足していることが多い。それらの訓練として、ソーシャル・スキル・トレーニングを行うことがある。デイケアプログラムの一環として行われることが多い。SSTトレーナー、SST認定講師、心理の専門家が担当する。NICEは、SSTを統合失調症患者にルーチンとして実施してはならないとしている[144]
作業療法芸術療法風景構成法
絵画ぬりえ折り紙手芸園芸陶芸スポーツなどの作業活動を主体として行う治療である。非言語的な交流がストレス解消につながったり自己価値観を高めたりする効果がある。病棟活動やデイケアプログラムの一環として行われることが多い。作業療法士が担当する。急性期では、作業活動を通して幻覚・妄想などを抑え、現実世界で過ごす時間を増やしたり、生活リズムを整えることを目標とし、そのためには患者が集中できるような作業活動を見つけて適用することが必要となる。慢性期では、退院を目標とし、そのためには服薬管理や生活リズム管理など、自分のことは自分でおこない自己管理ができるようになり、作業能力と体力も向上することが必要となる。慢性期での作業療法では患者のペースで行なえる作業活動を徐々に増やしていくよう心がける。NICEは、陰性症状の緩和のため、すべての統合失調症患者に芸術療法が提供されるべきであるとしている[144]
その他
アドヒアランス療法は行ってはならない[144]カウンセリングや支持的精神療法[注釈 29]はルーチン実施してはならないが、他の心理療法が提供できない場合などは、患者の好みに合わせて提供できる[144]
オープンダイアローグ

薬物治療や入院治療を極力避け、対話による回復を目指す治療法である。世界的に注目されており、日本への導入が進められている[165][166]。詳細は「オープン・ダイアローグ」を参照
食事と運動

NICEは患者に対し、健康的な食事と運動プログラムの組み合わせを提供すべきであるとしている[167]。統合失調症の患者はファーストフード、炭水化物や脂質の多い加工食品(インスタント食品や菓子)、ソフトドリンクの摂取が多く、食物繊維や果物の摂取が少ない傾向にあり適切な量や回数の理解が必要である[168]。長期間の運動プログラムを定期的に行った統合失調症患者は、そうでない患者と比較して高いメンタルヘルスの改善が認められた[169]。また、統合失調症における精神科のリハビリテーションにおいてメタボリックシンドロームの予防を目的にした運動プログラムが盛んになった[170]
その他
電気痙攣療法 (ECT)
薬物療法が確立される以前には、電気痙攣療法(電気ショック療法)が多く用いられてきた。この療法は左右の額の部分から脳に100Vの電圧、パルス電流を1 - 3秒間通電して、痙攣を人工的に引き起こすものである。電気痙攣療法の有効性は確立されている[171]が、一方で有効性の皆無も臨床実験で報告されている[172][173][174]。かつて電気痙攣療法が「患者の懲罰」に使用されていたこともあり、実施の際に患者が痙攣を起こす様子が残虐であると批判されている。まれに電気痙攣療法により脊椎骨折などの危険性があるため、現在では麻酔を併用した「無痙攣電気痙攣療法」が主流である。しかし、副作用や実施の際には、麻酔科医との協力が必要であることなどからして、実質的に大規模な病院でしか実施できない。現在では、この治療法は主力の座を薬物療法に譲ったものの、急性期の興奮状態の際などに行われることもある。NICEは現在の根拠では、ECTを統合失調症の一般的管理としては推奨することはできないとしている[注釈 30]。また、ECTは全ての治療の選択肢が失敗したか、または差し迫った生命危機の状況でのみ使われるべきであるとしている[175]
鍼治療
統合失調症の症状の軽減と関連疾患に対して鍼治療が行われることがある[176][177]
経過統合失調症の経過の概念図。赤線が症状、青線が活動性を表す。

経過は、前駆期、急性期、消耗期(休息期)、回復期に分ける4区分と、前駆期、進行前駆期、精神病早期、中間期、疾患後期に分ける5区分の2種類がある。
前駆期
かかりはじめの時期。妙に身辺が騒がしく感じる、担がれている感じがする(神輿に乗った気分と騙されている気分の両方)、眠れない、音に敏感になるなどの状態。過労や睡眠不足に注意する。
急性期
症状が激しい時期。不安になりやすい、不眠、幻聴、妄想、脳が働き過ぎの状態。
消耗期
元気がなくなる時期。眠気が強い、体がだるい、ひきこもり、意欲がない、やる気がでない、自信が持てない、脳がほとんど働かないなどの状態。数か月単位の休息をとり、焦りは禁物である。
回復期
ゆとりがでてくる、周囲への関心が増える時期。ソーシャル・スキル・トレーニング、リハビリテーションなどを行う時期である。
前駆期 (prodromal phase)
当人は何の自覚症状も無いケースもあるが、社会的能力の障害、軽度の認知的解体または知覚の歪み、喜びや快感を経験能力の低下、全般的な対処能力の欠如などを呈する。


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