統合失調症
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統合失調症維持期の抗精神病薬治療については、継続、中止、間欠投与[注釈 25]、減量・低用量の4つの戦略がある[129]。中止については、近年各国のガイドラインは初回エピソード患者を中心に肯定的に傾いてきており、減量・低用量についても、ガイドラインは完全に否定してはいない[129]。一方、複数エピソードを経験している患者に対しては中止は推奨されておらず、間欠投与については、いずれのガイドラインも推奨していない[129]

薬物療法を中断すると、中断した当初は調子がいいように感じることもあるが、多くは3か月、半年と時間が経つにつれて再発する(拒薬、怠薬[注釈 26])。自己判断で中断するのではなく、精神科医の指導のもとで継続して服用することが重要である[131]

2006年、アラスカ州最高裁判所は抗精神病薬に関する訴訟の判決文で、「向精神薬は患者の心身に重大で永続的な悪影響を及ぼすことがある[注釈 27]」「数々の破壊的な副作用を引き起こす可能性があることが知られている[注釈 28]」と説明している[132]。「抗精神病薬#統合失調症」および「向精神薬#精神科の薬」も参照

統合失調症に柴胡加竜骨牡蛎湯半夏瀉心湯加味逍遥散抑肝散など、漢方薬が有効なこともある。ただし、統合失調症を漢方薬のみで治療するのは難しく関連症状に対して使用される[136]。また、漢方の温胆湯が統合失調症に効果があり、短期的に全体的改善が生じる[137]。温胆湯は抗精神病薬と比較して有効性が高くはないが、錐体外路症状が生じにくいことが示されている[137]。「抗精神病薬#抗精神病作用が報告されている物質」も参照

2010年代後半から、陰性症状の1つである認知機能低下の改善を目指し、製薬会社各社がグリシントランスポーター1阻害薬の開発を進めている[138][139][140][141][142] 。グリシントランスポーター1阻害薬は現在イクレペルチン(ベーリンガーインゲルハイム)、ビトペルチン(ロシュ)、ORG-25935(Organon & Co.)、ペサンパトル(ファイザー)が臨床試験に入っている[138][139][140][141][142]
心理社会的介入

十分な傾聴と受容を通して、妄想や幻覚の背景にある苦しみや、妄想や幻覚による苦悩を理解し、治療関係を構築した上で、次のような効果的な治療を患者と協同で進めていく[143]
認知行動療法 (CBT)
NICEは、すべての統合失調症患者に認知行動療法を提供すべきであり[144]、その場合は個人別セッションを最低16回行うとしている[145]。英国などで有効性が証明されており、日本での認知行動療法のさらなる導入が求められている[146]。認知行動療法では、以下のような技法を活用して、妄想や幻聴の妥当性を検証したり機能的な考え方や行動を形成したりすることができるよう患者を支援する[147]。1. 行動実験:妄想の内容や幻聴の要求に逆らって(もしくは無視して)行動し、その結果を検証するという行動実験を通して、患者をサポートする。行動実験により、妄想の内容は事実ではなく幻聴の要求も正しくないという気づきが得られ、妄想や幻聴の妥当性を否定でき、苦痛を和らげることができる[148]。2. 認知再構成法・論理的分析法:協同的な治療関係が確立した後、妄想や幻聴の内容を論理的・科学的に検討したり、妄想的信念の根拠を検証したり、別の解釈の探求を行ったり、妄想や幻聴の内容に反する出来事・体験に注意を払ったりすることを通じて、患者が妄想や幻聴の妥当性を検討することをサポートする[149][150]。3. 現実検討:認知的変容には実体験を通じた現実検討が有効である[151]。妄想や幻聴の内容を、患者が実体験・行動を通じて再検証することをサポートし、それにより得られた気づきを共有する[152]。4. 証拠・根拠の検討:妄想や幻聴の内容が事実であるかどうか・実在するかどうかについての証拠や根拠について、治療者と患者が協同で様々な角度から客観的に検討し、そこで得られた気づきを共有することで、妄想や幻聴は事実ではなく実在もしないと認識できるようサポートする[153][154][155]。たとえば、幻聴の訴えがある場合は、何らかの録音機器を使ったサポートを通して、幻聴を裏付けるような音声が録音されないという気づきを得て、幻聴は実在する音声ではないという確信を持つことができる[156]。5. 代替療法:妄想や幻聴に対する合理的な他の考え方を患者が見つけられるようにサポートしたり、治療者が提示したりする。どちらにおいても、患者と治療者が協同して、苦痛を伴わない合理的な別の考え方を見つけていく[157]。6. フォーカシング療法:セルフモニタリングの技法などを活用して、妄想や幻聴は自分の思考(自己派生の出来事)であり、実際に外部にあるもの・外部からの声(外部からの刺激)ではないということを認識できるようサポートする[158]。7. 競合刺激の活用:たとえば、幻聴が聞こえる状態で外部聴覚刺激(音楽など)を聞くと、幻聴が少なくなるという体験をすることなどを通じて、幻聴は実在する外部音声ではないという認知を形成できるようサポートする[159]。また、対処方略としては、妄想の考えをストップしたり幻聴を無視し聞き流したりしたあと他へ注意を向ける二段階法や、ちょっとした気晴らし行動などを用いた注意転換法を活用して、妄想や幻聴への注意を他の事柄(たとえば音楽など)に向け、そのような現実の事柄に意識を向けながら生活できるようサポートを行う[160][161]
心理教育 (Psycoeducation)
薬物療法によって陽性症状が軽減しても、自らが精神疾患に罹患しているという自覚(病識)を持つことは容易ではない。病識の不足は、服薬の自己中断から再発率を上昇させることが知られており、病識をもつことを援助し、疾患との折り合いの付け方を学び、治療意欲を向上させるために心理教育を行うことが望ましい。精神保健福祉士が主に担当する。統合失調症の患者は正直すぎると言われるが、なにもかも正直でなくていい、秘密があっていいということを教育する。秘密にすることで自分を守ることはマナーでもあり、社会復帰のために必要である。また、異性関係のことが自分の中であまりにも整理されていない人が多いとされ、異性の気持ちになって物事を見ることも大切な心理療法の一つである。また、心理教育の一環として、統合失調症の診断に対してノーマライジングを実施することにより、患者の苦痛を軽減することができる。たとえば、@統合失調症は珍しい疾患ではなく多くの人が罹患しうること、A統合失調症は患者自身や家族のせいで発病するものではないこと、B統合失調症も治療可能な病気であり多くの患者が症状を克服していけること、などを理解してもらえるよう丁寧に説明する[162]。患者本人のみならず、家族の援助(家族教育)も行うこともある。家族への心理教育の再入院予防効果によって、医療コストは軽減されるといわれる[163]
ソーシャル・スキル・トレーニング (SST)
統合失調症を有する患者は、陰性症状に起因する社会的経験の不足が散見され、自信を失いがちなことにより、社交、会話などの社会技能が不足していることが多い。それらの訓練として、ソーシャル・スキル・トレーニングを行うことがある。デイケアプログラムの一環として行われることが多い。SSTトレーナー、SST認定講師、心理の専門家が担当する。NICEは、SSTを統合失調症患者にルーチンとして実施してはならないとしている[144]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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