統合失調症
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病棟活動やデイケアプログラムの一環として行われることが多い。作業療法士が担当する。急性期では、作業活動を通して幻覚・妄想などを抑え、現実世界で過ごす時間を増やしたり、生活リズムを整えることを目標とし、そのためには患者が集中できるような作業活動を見つけて適用することが必要となる。慢性期では、退院を目標とし、そのためには服薬管理や生活リズム管理など、自分のことは自分でおこない自己管理ができるようになり、作業能力と体力も向上することが必要となる。慢性期での作業療法では患者のペースで行なえる作業活動を徐々に増やしていくよう心がける。NICEは、陰性症状の緩和のため、すべての統合失調症患者に芸術療法が提供されるべきであるとしている[144]
その他
アドヒアランス療法は行ってはならない[144]カウンセリングや支持的精神療法[注釈 29]はルーチン実施してはならないが、他の心理療法が提供できない場合などは、患者の好みに合わせて提供できる[144]
オープンダイアローグ

薬物治療や入院治療を極力避け、対話による回復を目指す治療法である。世界的に注目されており、日本への導入が進められている[165][166]。詳細は「オープン・ダイアローグ」を参照
食事と運動

NICEは患者に対し、健康的な食事と運動プログラムの組み合わせを提供すべきであるとしている[167]。統合失調症の患者はファーストフード、炭水化物や脂質の多い加工食品(インスタント食品や菓子)、ソフトドリンクの摂取が多く、食物繊維や果物の摂取が少ない傾向にあり適切な量や回数の理解が必要である[168]。長期間の運動プログラムを定期的に行った統合失調症患者は、そうでない患者と比較して高いメンタルヘルスの改善が認められた[169]。また、統合失調症における精神科のリハビリテーションにおいてメタボリックシンドロームの予防を目的にした運動プログラムが盛んになった[170]
その他
電気痙攣療法 (ECT)
薬物療法が確立される以前には、電気痙攣療法(電気ショック療法)が多く用いられてきた。この療法は左右の額の部分から脳に100Vの電圧、パルス電流を1 - 3秒間通電して、痙攣を人工的に引き起こすものである。電気痙攣療法の有効性は確立されている[171]が、一方で有効性の皆無も臨床実験で報告されている[172][173][174]。かつて電気痙攣療法が「患者の懲罰」に使用されていたこともあり、実施の際に患者が痙攣を起こす様子が残虐であると批判されている。まれに電気痙攣療法により脊椎骨折などの危険性があるため、現在では麻酔を併用した「無痙攣電気痙攣療法」が主流である。しかし、副作用や実施の際には、麻酔科医との協力が必要であることなどからして、実質的に大規模な病院でしか実施できない。現在では、この治療法は主力の座を薬物療法に譲ったものの、急性期の興奮状態の際などに行われることもある。NICEは現在の根拠では、ECTを統合失調症の一般的管理としては推奨することはできないとしている[注釈 30]。また、ECTは全ての治療の選択肢が失敗したか、または差し迫った生命危機の状況でのみ使われるべきであるとしている[175]
鍼治療
統合失調症の症状の軽減と関連疾患に対して鍼治療が行われることがある[176][177]
経過統合失調症の経過の概念図。赤線が症状、青線が活動性を表す。

経過は、前駆期、急性期、消耗期(休息期)、回復期に分ける4区分と、前駆期、進行前駆期、精神病早期、中間期、疾患後期に分ける5区分の2種類がある。
前駆期
かかりはじめの時期。妙に身辺が騒がしく感じる、担がれている感じがする(神輿に乗った気分と騙されている気分の両方)、眠れない、音に敏感になるなどの状態。過労や睡眠不足に注意する。
急性期
症状が激しい時期。不安になりやすい、不眠、幻聴、妄想、脳が働き過ぎの状態。
消耗期
元気がなくなる時期。眠気が強い、体がだるい、ひきこもり、意欲がない、やる気がでない、自信が持てない、脳がほとんど働かないなどの状態。数か月単位の休息をとり、焦りは禁物である。
回復期
ゆとりがでてくる、周囲への関心が増える時期。ソーシャル・スキル・トレーニング、リハビリテーションなどを行う時期である。
前駆期 (prodromal phase)
当人は何の自覚症状も無いケースもあるが、社会的能力の障害、軽度の認知的解体または知覚の歪み、喜びや快感を経験能力の低下、全般的な対処能力の欠如などを呈する。統合失調症と診断された後に振り返って初認識されるレベルの軽度のケースもあれば、以前から社会的・学業的、職業的機能障害として顕著であった場合もある。
進行前駆期 (advanced prodromal phase)
引きこもりや孤立、易怒性猜疑心の強まり、異常思考、知覚の歪み、解体などの不顕性の症状が出現することがある。統合失調症における妄想および幻覚の発症は、急激(数日または数週間)な場合もあれば,緩徐で潜行性(数年間)の場合もある。
精神病早期 (early psychosis phase)
患者の症状が最も悪化している病期。
中間期 (middle phase)
症状期間は断続的な同定可能な増悪および寛解を伴うケースも持続的な場合もある。機能障害は悪化する傾向がある。
疾患後期 (late illness phase)
その個人ごとの疾患のパターンが確立される。能力障害は安定、悪化、軽減のどれも起こりうる[178]

例えば、重度の骨折をした場合、一般的に診断、治療、回復、リハビリ、寛解(かんかい)という段階を経るが、統合失調症もこれと同じことが当てはまり、中でもリハビリは困難を伴う一方大変重要な段階である。陽性症状は時間の経過により改善することも多いが、それとともに陰性症状が目立ってくる。しかし、抗精神病薬の投与をしても慢性的に陽性症状および陰性症状が持続して残る患者も多い。長期療養の結果、晩年期になると長年続いた顕著な精神症状が燃え尽きる様に寛解されるに至るという医学的な考え方もあり、「晩期寛解」と呼ばれる。多くの統合失調症患者は加齢とともに症状が改善する[179]

英国を中心とした実証的な家族研究の結論によると、確実な服薬遵守より、家族が患者に批判的な言動をするかどうかのほうが、患者の経過を左右する[180]
予後

統合失調症の予後について、過去(特に薬物療法がなかった時代)と比較すると、全体的にかなり向上しているといわれている。「進行性の経過を取り、ほとんどが人格の荒廃状態に至る」というイメージやスティグマ(偏見)が残っているが[8][181]、これは事実に反しており、一部の人が荒廃状態に至るだけである。イギリスのデータでは、患者は困難や将来的な再発への脆弱性を抱えながらも、一部の人々は、完治はしないが寛解するという根拠がある[注釈 31]

イギリスでの5年追跡調査では、22%は1回の発病エピソードのみで完全寛解、35%は数回のエピソードを繰り返し軽い機能障害が見られる、8%は数回のエピソードで障害も継続、35%は数回のエピソードで障害も増悪していた[183]。病型別の予後では、妄想型や緊張型は、妄想幻覚などの症状のほうが抗精神病薬に反応しやすいため、予後がよく、破瓜型や単純型などの陰性症状には治療の効果が得られにくいため、予後が悪いと一般的に言われている。ただし、こうした傾向はあるが、妄想型などでも治療に反応しない例がまれではなく、病型により機械的に予後が予測できるものではない。患者の生活態度や薬物投与を含めた環境を改善することで症状を軽減できるが、生活レベルでの具体的な改善策は得られていないのが現状である。

1961年、カリフォルニア州精神保健局は、18か月以内の退院率について、非投薬群が88%、投薬群が74%と報告している[184]

1977年、アメリカ国立精神衛生研究所(英語版)(NIMH)の臨床研究施設における研究報告は、退院時期について、非投薬群は投薬群より早いと報告している[185]。また、退院一年後の再発率について、非投薬群が35%、投薬群が45%と報告している[185]

1978年、モーリス・ラパポートの研究[注釈 32]は、退院3年後の転帰について、非投薬群は投薬群より良好で再入院率も低いと報告している[186]

1992年、世界保健機関の10ヵ国を対象とする研究報告は、2年後の転帰について、貧困国は3分の2近くが良好な転帰、3分の1強が慢性化、富裕国は37%が良好な転帰、59%が慢性化と報告している[187]。抗精神病薬の使用率は、貧困国が16%、富裕国が61%であり、使用率が3%のインドのアグラが最も良好、使用率が最も高いモスクワが最も悪かった[187]

2007年、マーティン・ハロウの研究[注釈 33]は、15年後の転帰について、抗精神病薬なしは40%が回復、44%が良好な転帰、16%が一様に不良、抗精神病薬ありは5%が回復、46%が良好な転帰、49%が一様に不良と報告している[188]


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