結核
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このままでは国際連合持続可能な開発目標(SDGs)で掲げる「2030年までの結核流行終息」達成が難しいとして各国の対策強化を求めている[13]。また世界では50万人の0-14歳児童が結核に感染しており、2013年では8万人(HIV陰性)が死亡した[3]。またHIV患者はリスクが26-31倍となり、HIV患者の4人に1人は結核で死亡している[3]
原因病原体のMycobacterium tuberculosis

結核は、抗酸菌群に属する Mycobacterium tuberculosis(ヒト型結核菌)、M. bovis(ウシ型結核菌)、M. africanum(アフリカ型結核菌)等結核菌群によっておこるが、日本の結核は主に M. tuberculosis による。

なお、Mycobacterium tuberculosis の読みは、日本細菌学会編の『微生物学用語集』にはラテン語読みに準じて「マイコバクテリウム・ツベルクローシス」と記載されている(正しくはミュコバクテリウム・ツベルクローシス)。tuberculosis は英語風に「テュバキュローシス」と読まれることもある。

空気感染が多く肺などの呼吸器官においての発症が目立つが、中枢神経(髄膜炎)、リンパ組織、血流(粟粒結核)、泌尿生殖器関節などにも感染し、発症する器官も全身に及ぶ。結核菌は様々な器官において細胞内寄生を行い、免疫システムは結核菌を宿主細胞ごと排除しようとするため、広範に組織が破壊され、放置すれば重篤な症状を起こして高い頻度で死に至る。肺結核における激しい肺出血とそれによる喀血、またそれによって起こる窒息死がこうした病態を象徴している。こうして死去した患者の体液が乾燥で浮遊した場合、菌が生存していれば罹患する事が有り得る。

感染者の大半は症状を発症する場合は少なく、無症候性、潜伏感染が一般的である。但し、潜伏感染の約10分の1が最終的に症状を発症し、治療を行わない場合、発病者の約半分が死亡する。結核菌がこのように最も病原力の強い細菌の一つである原因は、
感染力が強く肺から肺へ空気感染する。

免疫細胞のマクロファージ内で繁殖できる。

現存するBCGワクチンは地域によって効果がとても低い。

などによる[14]。結核菌は、細菌を殺す人間の主要な免疫細胞であるマクロファージ(食細胞)の中で繁殖できるという、極めて特殊な機構を持つ[15]。この機構は結核菌がマクロファージのリソソームとファゴソームの融合を阻害する能力を持つことによる[15]。ただし、それでも大半の正常な免疫能力をもつ健常者では、T細胞の助けを借りてマクロファージごと細菌を殺して封じ込めるため無症状か軽い症状で済むが、免疫能力の劣った人間には重い症状が発症する。
一次結核
吸入された結核菌がリンパ行性、血行性に体中に広がり細胞内に寄生して潜伏する。無症状である。免疫応答が不十分な宿主においては結核症を発症する。典型的には上肺野、肺尖部領域の肺結核を発症する。乳幼児や小児、免疫力の低い高齢者に多く見られる。
二次結核
成人の結核。
再活性化
充分な免疫応答が得られても、宿主の免疫機能が後天的に障害されると、結核菌は活性化する。宿主の免疫機能が障害される例としては、加齢、栄養失調後天性免疫不全症候群(AIDS)、糖尿病悪性腫瘍ステロイド免疫抑制剤といった薬物の使用が挙げられる。
肺結核

肺結核(A15)は呼吸器疾患で、日本における感染者の80%は肺への感染である。
症状結核の症状

当初は全身倦怠感、食欲不振、体重減少、37前後の微熱が長期間にわたって続く、就寝中に大量のをかく等、非特異的であり、咳嗽(は伴うことも伴わないこともあり、また血痰を伴うことがある)が疾患の進行にしたがって顕在化する。抗生物質による治療法が確立する以前は「不治の病」と呼ばれていた。
診断・検査法

ツベルクリン反応インターフェロンγ遊離試験顕微鏡下での病原体の検出、核酸増幅検査(核酸増幅法)、画像検査などの検査方法がある。
ツベルクリン反応詳細は「ツベルクリン」を参照

後述の通り、日本ではBCG接種が義務であるため、欧米より信頼性が乏しい検査となっている。それでも、発赤20mm以上、硬結10mm以上の「強陽性」の所見は、活動性の結核感染を示唆する。「中等度陽性」は、特に結核の診断の可能性を高めるものでも低くするものでもないと考えられる。免疫不全患者や悪性リンパ腫では、結核に関する免疫寛容が成立していたり現在は結核菌感染があったりしても、ツベルクリン反応が陰性になり、「アネルギー」と呼ばれる。
インターフェロンγ遊離試験「QFT検査」を参照

この検査は、血液を結核菌特異的なタンパク(ESAT-6およびCFP-10)で刺激し、結核菌特異的T細胞の産生するインターフェロンγの産生量をみることで、結核感染を診断する検査法である。BCGや非結核性抗酸菌感染の影響を受けず、感度89%、特異度98%と報告[16]される。検査時には検体の温度管理を行う必要がある(採血から搬入までの時間10時間以内、搬送温度は摂氏17℃から27℃)。また、数時間から一両日で検査結果を出すことができるとされている。また同様の原理のT-SPOT.TB検査も用いられる。

QFTならびにT-スポットは、インターフェロンγ遊離試験 (IGRA) と総称される[17][18][19]
核酸・蛋白検出

核酸増幅法としてリアルタイムPCR (TaqMan PCR)[20]、核酸増幅とキャピラリ電気泳動を組み合わせたPCR-CE法としてミュータスワコーMTB[21]がある。また、核酸検出法としては、DNA-RNAハイブリダイゼーション(アキュプローブ法)、DNA-DNAハイブリダイゼーション(DDHマイコバクテリア)などがある。他に迅速診断法としてキャピリアTB蛋白検出法)がある[20]
検査所見肺の病巣の断面標本TBLBで見つかった結核肉芽腫ラングハンス型巨細胞

喀痰塗抹検査(チール・ニールセン染色)は喀痰中の抗酸菌の有無および排菌量をみる検査であり、まず行うべき方法である。また蛍光塗抹検査を利用することもできる。

なお、結核を疑った患者から採痰を行う場合は、専用ブースを用意して採集する。これまで喀痰中の排菌量はガフキー号数で表記されてきた。新結核菌検査指針では、検出菌数を 1+, 2+, 3+ で表すこととなった(± はガフキー1号、1+ は2号、2+ は5号、3+ は9号に相当)。

塗抹検査では、結核菌か非結核性抗酸菌かの同定はできない。菌の同定および薬剤耐性を調べるには喀痰培養検査を行うが、結核菌は培養による繁殖が遅く、3-6週間必要で早期診断には適さない。

早期診断には、喀痰の結核菌DNAのPCR検査が有用である。感度特異度が高く日本でも普及してきている。ただPCR法は、死菌でもDNAを検出することで、陽性になってしまう。

気管支鏡下のBAL(気管支肺胞洗浄)やTBLB(経気管支肺生検)も診断に有用である。胃液検査は培養のみが検査に適するので、早期診断に有用ではない。血液培養をする場合は、専用のスピッツが必要である。

胸水がある場合、胸水培養で結核菌が陽性になるのは25%未満である。胸膜生検が必要である。
画像所見

単純
レントゲン写真:古典的典型例では空洞を伴う結節影がみられる。

胸部CT肺浸潤影と娘結節の存在、空洞形成、肺門リンパ節腫大、胸水など。

多彩な像を呈するため肺結核は画像のみでの正確な診断は困難である。喀痰検査や血液検査とともに総合的に診断する。
治療

かつては、抗菌剤ストレプトマイシン単剤の投与で効果があったが、現在は薬剤耐性獲得の危険があるため、単剤での治療は行わない[22]


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