結核
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肺病は、肺の病気の総称であったが、俗称として肺結核の意味もあった[6]。多くの人が罹患する病気で好発部位はであるが、全身の臓器器官に感染し、顕著な症状を呈している部位名の前後に「結核」を付け加えるなどした呼び方により細分化される(肺結核肺外結核カリエス参照)。

結核菌は1882年に医師・細菌学者であったロベルト・コッホによって発見された。炎症を起こす結核菌の周囲を炎症した細胞が取り囲み結節を形成する様子から、結核と呼ばれるようになった[7]。別の説では、7世紀の中国で、結核性頸部リンパ節炎(古称:瘰癧)の見た目が「くだものの種(核)が連なったような」様子から結核と呼ばれ、結核性頸部リンパ節炎と労咳は別の病気と考えられていたが同じものだという研究結果から結核となった話がある[8]

感染経路は結核菌を含む飛沫核の吸入による空気感染[3]、結核患者からのくしゃみ唾液より感染する[3]。世界人口の約4分の1が結核菌に感染しており、その中の5‐10%に結核の症状を発症し、発症した人からしか感染は起きない[3]抗菌剤が効かない多剤耐性肺結核(MDR-TB)や「超多剤耐性」(XDR)の薬剤耐性が問題となっている[9][10]
概要

世界保健機関(WHO)によると、結核は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の次に死者の多い感染症であり[3]、2021年には1000万人の患者が発症し160万人が死亡したと推定している[3]

世界の10大死因のひとつで、結核死亡の95%以上は低中所得国で発生、うちインド、次いで、インドネシア、中国、フィリピン、パキスタン、ナイジェリア、南アフリカ共和国の7か国で、全体の64%を占めているとされる[11]。とくにインドは2019年264万人の患者が発生、人口10万人あたりの罹患率は日本の約19倍、世界の結核患者の26%を占めるとされる[12]

現在では抗生物質による治療薬があるものの、多剤耐性結核の出現の問題もあり、また、小児には使用が推奨されていないという問題がある[12]。小児の死亡率も高く、2016年には、推定で100万人の小児が結核を発症し、25万人が結核で死亡(HIVに感染した小児を含む)したとされる[11]。また、結核は、HIV感染者の死亡の第一原因であり、2016年には、世界のHIV感染者の死因の40%が結核だったとされる[11]

このままでは国際連合持続可能な開発目標(SDGs)で掲げる「2030年までの結核流行終息」達成が難しいとして各国の対策強化を求めている[13]。また世界では50万人の0-14歳児童が結核に感染しており、2013年では8万人(HIV陰性)が死亡した[3]。またHIV患者はリスクが26-31倍となり、HIV患者の4人に1人は結核で死亡している[3]
原因病原体のMycobacterium tuberculosis

結核は、抗酸菌群に属する Mycobacterium tuberculosis(ヒト型結核菌)、M. bovis(ウシ型結核菌)、M. africanum(アフリカ型結核菌)等結核菌群によっておこるが、日本の結核は主に M. tuberculosis による。

なお、Mycobacterium tuberculosis の読みは、日本細菌学会編の『微生物学用語集』にはラテン語読みに準じて「マイコバクテリウム・ツベルクローシス」と記載されている(正しくはミュコバクテリウム・ツベルクローシス)。tuberculosis は英語風に「テュバキュローシス」と読まれることもある。

空気感染が多く肺などの呼吸器官においての発症が目立つが、中枢神経(髄膜炎)、リンパ組織、血流(粟粒結核)、泌尿生殖器関節などにも感染し、発症する器官も全身に及ぶ。結核菌は様々な器官において細胞内寄生を行い、免疫システムは結核菌を宿主細胞ごと排除しようとするため、広範に組織が破壊され、放置すれば重篤な症状を起こして高い頻度で死に至る。肺結核における激しい肺出血とそれによる喀血、またそれによって起こる窒息死がこうした病態を象徴している。こうして死去した患者の体液が乾燥で浮遊した場合、菌が生存していれば罹患する事が有り得る。

感染者の大半は症状を発症する場合は少なく、無症候性、潜伏感染が一般的である。但し、潜伏感染の約10分の1が最終的に症状を発症し、治療を行わない場合、発病者の約半分が死亡する。結核菌がこのように最も病原力の強い細菌の一つである原因は、
感染力が強く肺から肺へ空気感染する。

免疫細胞のマクロファージ内で繁殖できる。

現存するBCGワクチンは地域によって効果がとても低い。

などによる[14]。結核菌は、細菌を殺す人間の主要な免疫細胞であるマクロファージ(食細胞)の中で繁殖できるという、極めて特殊な機構を持つ[15]。この機構は結核菌がマクロファージのリソソームとファゴソームの融合を阻害する能力を持つことによる[15]。ただし、それでも大半の正常な免疫能力をもつ健常者では、T細胞の助けを借りてマクロファージごと細菌を殺して封じ込めるため無症状か軽い症状で済むが、免疫能力の劣った人間には重い症状が発症する。
一次結核
吸入された結核菌がリンパ行性、血行性に体中に広がり細胞内に寄生して潜伏する。無症状である。免疫応答が不十分な宿主においては結核症を発症する。典型的には上肺野、肺尖部領域の肺結核を発症する。乳幼児や小児、免疫力の低い高齢者に多く見られる。
二次結核
成人の結核。
再活性化
充分な免疫応答が得られても、宿主の免疫機能が後天的に障害されると、結核菌は活性化する。宿主の免疫機能が障害される例としては、加齢、栄養失調後天性免疫不全症候群(AIDS)、糖尿病悪性腫瘍ステロイド免疫抑制剤といった薬物の使用が挙げられる。
肺結核

肺結核(A15)は呼吸器疾患で、日本における感染者の80%は肺への感染である。
症状結核の症状

当初は全身倦怠感、食欲不振、体重減少、37前後の微熱が長期間にわたって続く、就寝中に大量のをかく等、非特異的であり、咳嗽(は伴うことも伴わないこともあり、また血痰を伴うことがある)が疾患の進行にしたがって顕在化する。抗生物質による治療法が確立する以前は「不治の病」と呼ばれていた。
診断・検査法

ツベルクリン反応インターフェロンγ遊離試験顕微鏡下での病原体の検出、核酸増幅検査(核酸増幅法)、画像検査などの検査方法がある。
ツベルクリン反応詳細は「ツベルクリン」を参照

後述の通り、日本ではBCG接種が義務であるため、欧米より信頼性が乏しい検査となっている。それでも、発赤20mm以上、硬結10mm以上の「強陽性」の所見は、活動性の結核感染を示唆する。「中等度陽性」は、特に結核の診断の可能性を高めるものでも低くするものでもないと考えられる。免疫不全患者や悪性リンパ腫では、結核に関する免疫寛容が成立していたり現在は結核菌感染があったりしても、ツベルクリン反応が陰性になり、「アネルギー」と呼ばれる。
インターフェロンγ遊離試験「QFT検査」を参照

この検査は、血液を結核菌特異的なタンパク(ESAT-6およびCFP-10)で刺激し、結核菌特異的T細胞の産生するインターフェロンγの産生量をみることで、結核感染を診断する検査法である。BCGや非結核性抗酸菌感染の影響を受けず、感度89%、特異度98%と報告[16]される。検査時には検体の温度管理を行う必要がある(採血から搬入までの時間10時間以内、搬送温度は摂氏17℃から27℃)。また、数時間から一両日で検査結果を出すことができるとされている。また同様の原理のT-SPOT.TB検査も用いられる。

QFTならびにT-スポットは、インターフェロンγ遊離試験 (IGRA) と総称される[17][18][19]


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