経済成長
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経済成長の源泉である労働投入の伸び、資本投入の伸び、全要素生産性(TFP, Total factor productivity)の3つの変数がある生産関数に、潜在的に活用可能な労働力資本ストックの水準を当てはめえられるものが潜在産出量であり、その伸び率が潜在成長率と呼ばれる[2]

潜在産出量と実質の国内総生産との差は産出量ギャップと呼ばれる。なお潜在産出量を構成する要因としては、資本労働などの生産要素の投入量、これらに依存しない残差としての全要素生産性があげられる。

失業が常に「インフレ非加速的失業率」(NAIRU)にあるときに達成されるGDPが「完全GDP(Perfect GDP)」である[3]。現実の失業が自然失業率の水準にあれば達成されたであろう[4]、すなわち、完全雇用が達成されたときのGDPを完全GDPという[5]
帰属計算

経済成長率を計算するもとになるGDPには原則として貨幣経済で取引された付加価値だけが計上される。そのことによる統計的な問題がGDPには存在する。たとえば以下のような差がある。

GDPに計上されないもの

家族の内部における身内による介護


GDPに計上されるもの

外部に委託された有料サービスによる介護


帰属計算によってGDPに計上されるもの

農家による自家生産物の消費


付加価値生産の増大とその意義

経済成長は、付加価値の生産が増大することである。このため、実際に生産量が増加することとは異なる場合がある。以下、原材料生産と自動車生産が別の国で行なわれていると仮定する。

1年目に、30万円の原材料から100万円の自動車を製造している場合、自動車生産によって生み出された付加価値は70万円である。100台生産していたとすると、自動車生産による総付加価値生産は7000万円になる。一方原材料生産でも100台分で3000万円の付加価値が生まれる。翌年、自動車生産が110台になる一方、原材料高騰で1台あたりの原材料が40万円になったとする。この場合、自動車の価格が変わらなければ自動車生産による付加価値生産は6600万円となる。原材料は4400万円である。

この場合、二年目の時点において、原材料生産国では付加価値生産が1400万円増加する一方、自動車生産国では付加価値生産が400万円減少する。自動車生産国は自動車を増産したにもかかわらず、経済成長率がマイナスとなる。これは市場経済の働きにより、原材料生産のほうに価値が置かれるようになったことを意味する。結果、原材料生産国は増産をするようになり、自然と自動車生産の価値が上昇し、自動車生産が増大していく。このように価格機構を持っている市場経済は経済成長機構を内蔵している[注釈 1]。生産数量の増大は上記のように、付加価値を市場から提示されることで決定される。また、付加価値は生産に要した労働資本に分配される。労働力への分配は賃金などを意味し、資本への分配は利潤を意味する。

1)多くの効率化政策が行われていること、2)職業選択・居住地選択の自由があること、3)セーフティネットが充実していること、の3つの前提を満たしている国では、効率化政策(パイの拡大)原則を採用することが望ましいとしている[6]
経済成長の要因

経済成長の要因として、1)労働力(人口増加)、2)機械・工場などの資本ストック(蓄積)、3)技術進歩、の3つが挙げられる[7][8]。労働・資本以外の要因で成長力が高まることを「全要素生産性(TFP)が上昇する」という[9]。GDPの成長率は、技術進歩率(全要素生産性上昇率)と資本の成長率と労働の成長率に分解できる[10]

経済成長の条件として、1)私的所有権の保護、2)イノベーション、3)科学的合理主義を可能とすることへの容認、4)債権債務の制度化、5)参加の自由、6)開放性、がある[11]

2006年の世界銀行の成長開発委員会の報告書では、経済成長をする一般原則は存在しないという結論となっている。この委員会にはノーベル経済学賞受賞者のマイケル・スペンスロバート・ソローを含む21人の専門家や300人の研究者が参加し、11の作業部会と12のワークショップなどにより2年間の検討が行われた[12]
需給

総需要が不足して売れ残りが発生しても、物価の下落で全部売り切れる、つまり経済活動は総供給で決まるという考え方を「セイの法則」という[13]三菱総合研究所は「長期の経済成長は、国全体でどれだけモノ・サービスをつくりだす能力があるかという経済全体の供給面から決まる」と指摘している[14]

現代(2011年)の経済は、供給に需要が適応するのではなく、需要に供給が適応する経済構造となっている。供給重視のアプローチは、経済の歪みを拡大させ社会的負担を増加させる。結果、経済の持続的発展を妨げる[15]

経済は、需要と供給のうち小さい方に合わせて決まるとされる(マクロ経済学のショートサイド原則)。つまり産出量ギャップがある場合、供給サイドを変えなくても経済を成長させることができる[16]

発展途上国では、生産性を高めることに多大な労力が割かれており、生産性を高めることができた国が経済成長を実現させた。しかし、経済の成熟とともに、次第に需要側が重視されるようになった。それは需要と供給を一致させる価格メカニズムが働くと考えられてきたのに対し、現実には価格が硬直的で、供給に対して需要が不足するというケースが頻繁に見られるようになったからである。つまり、生産に必要な資本設備・労働力が余り、非稼動設備・失業が発生するケースが頻発した[17]
教育

経済発展には、発展に即応できる教育を受けている人が必要である[18]。日本の場合、江戸時代から庶民レベルで識字率が高く、教育水準の高かったため経済発展したと考えられている[18]。また明治時代の学校制度の普及で義務教育によって読み書き計算ができる国民教育が充実した事と、戦後の高等教育の進学者増加で経済発展に対応できる人材が日本では輩出されたとされている[18]。1960年代の日本の高度経済成長期、日本経済は年率約10%成長したが、その内の約6割が技術進歩によるものであった[19]
貿易

自然条件が悪い場合でも、比較優位を利用し、経済発展の基盤をつくることができる[20]。実証研究で、産業間の移動が激しいほど経済が成長するという統計もある[21]。貿易は経済発展の大きな要素となる[22]

これまでに経済成長をした国の貿易は、資源国をのぞけば急速な産業化をへており、労働者は主に製造業に雇用されていた。貿易と経済成長の段階として、 (1) 伝統的な産品の輸出、(2) 第1次輸入代替(軽工業品)、(3) 第1次輸出代替(伝統的産品から軽工業品に主流が移る)、(4) 第2次輸入代替(重工業品)、(5) 第2次輸出代替(軽工業品から重工業品に主流が移る)、などがある[23]。1960年代以降の途上国の標準所得と生産高の割合は低下しており、サービス産業に比べて製造業の相対価格は低下している。製造業の雇用は減っており、過去と同様の経済成長は困難になる可能性があるため、経済成長にはサービス産業の生産性が必要ともいわれる[24]
経済成長の類型

経済成長は、多様な制約により抑制される可能性がある。このうち、先進国経済で主要な2要件は、
生産性の向上

有効需要の創出  

である[25]。この2条件のうち、どちらが成長要因(裏返せば、制約要因)となっているかによって、近代的経済成長の様式は、以下の3類型にまとめられる[26]
比例的成長

生産性主導

需要飽和


比例的成長経済近代的部門と伝統的部門の2部門からなる経済において、近代的部門(資本主義部門)が技術進歩・生産性の上昇もなく、すべての投入と産出が比例的に増大する。成長に必要な労働力は、伝統的部門から無制限に供給される[27]アーサー・ルイス(Arthur Lewis) は、この状態を「無制限労働供給経済」と呼んだ。二重経済モデル(dual economy model)ともいう。太平洋戦争前の日本は、基本的には比例的成長経済にあったと考えられている。無制限労働供給が終了するとき、それをルイスの転換点という。日本でいつ無制限労働供給が終了したかについては、1930年代説と1950年代説とがある[28]。2007年現在は、中国がルイスの転換点を越えたかどうかが議論されている[29]


生産性主導経済生産性が高い速度で上昇し、それにともない一人当たりの賃金(所得)も上昇するが、国民の消費意欲は旺盛で、次々と新しい需要が生まれ、経済は急成長する。日本の高度経済成長がそれに当たる。


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