その後、ライオネル・ロビンズが1932年に、過去の経済学者は、いかに富が生まれ(生産)、分配され、消費され、成長するかという富の分析に研究の中心を置いてきたと指摘したうえで[26]、カール・メンガーやルートヴィヒ・フォン・ミーゼスを参照しながら[27]次のように定義した。Economics is the science which studies human behaviour as a relationship between ends and scarce means which have alternative uses.[28]他の用途を持つ希少性ある経済資源と目的について人間の行動を研究する科学が、経済学である。 ? 小峯敦・大槻忠志訳 (2016)[29]
ロビンズは、この定義は、特定の種類の行動を選択するという分類的なものとしてではなく、稀少性がもたらす影響によって行動の形態がいかなるものになるかということに注意を向けるような分析的なものであると説明した[30]。
しかし、こうした定義にはジョン・メイナード・ケインズやロナルド・コースらからの批判もある。経済問題は性質上、価値観や道徳・心理といった概念と分離する事は不可能であり、経済学は本質的に価値判断を伴う倫理学であって、科学ではないというものである[31][32]。ロビンズの定義は、過度に広範で、市場を分析する上では失敗していると批判されたが、1960年代以降、合理的選択理論が登場し、以前は他の学問で扱われていた分野にも経済学の領域を拡大したため、そのような批判は弱まった[33]。
ポール・サミュエルソンは、以下のように定義する。経済学とは、さまざまの有用な商品を生産するために、社会がどのように稀少性のある資源を使い、異なる集団のあいだにそれら商品を配分するかについての研究である。 ? ポール・サミュエルソン 『サムエルソン 経済学 [原書第13版]上』、都留重人訳、岩波書店、1992年、p.4.
一方で、とりわけゲーム理論の経済学への浸透を受けて、経済学の定義は変化しつつある。たとえば、ノーベル経済学賞を受賞したジョセフ・E・スティグリッツは、トレードオフ、インセンティブ、交換、情報、分配という五つが重要な手がかりとなるとして、以下のように経済学を定義した。経済学とは、個人、企業、政府、その他さまざまな組織が、どのように選択し、そうした選択によって社会の資源がどのように使われるかを研究する学問である。選択にはトレードオフが伴う。すなわち、一つのことに資源を多く使えば、他のことに使える資源は減少するのである。(略) また選択を行う際には、各個人はインセンティブ(誘因)に反応して、消費を増やしたり減らしたりする。(略)個人や企業がさまざまな財やサービスを売買するときには、各自の所有するモノやお金を他の人の所有するお金やモノと交換している。(略)賢明な選択を行うには情報を入手し、それを利用しなければならない。そして大学に進学するか高校を卒業したら就職するかという教育に関する決定や、どのような会社に勤めるかという職業選択、どのような財やサービスを購入するかという決定は、富の再分配を決定することになる。 ? 『スティグリッツミクロ経済学 第4版』(2013年)[34]
また、ノーベル賞受賞者ロジャー・マイヤーソンも、今日の経済学者は自らの研究分野を以前より広く、全ての社会的な制度における個人のインセンティブの分析と定義できる、と述べた(1999年)[35]。
ゲーリー・ベッカーは自分のアプローチを、行動、安定した選好、市場の均衡の最大化という仮定を組み合わせ、絶え間なく、大胆に使用することと説明した[36]。
ハジュン・チャンは、経済学を商品やサービスの生産、交換、流通に関する研究とであると定義したうえで、生物学が、DNA分析、解剖学、動物の行動のゲーム理論など、さまざまな方法で研究されており、それらはすべて生物学と呼ばれるように、経済学は、方法論や理論的アプローチではなく、取り扱っている調査対象の観点から定義されるべきであると指摘する[37]。
このように現在では、資本主義・貨幣経済における人や組織の行動を研究するものが中心となっている。広義においては、交換、取引、贈与や負債など必ずしも貨幣を媒介としない、価値をめぐる人間関係や社会の諸側面を研究する。このような分野は、人類学、社会学、政治学、心理学と隣接する学際領域である。
また、労働、貨幣、贈与などはしばしば哲学・思想的考察の対象となっている。ただし、経済システムの働きに深く関わる部分については経済思想史と呼ばれ、経済学の一分野として考えられることも多い[38]。 自然科学と比べると、不確実性の大きいヒトが関わるできごとが研究対象であるゆえ、数理化・実験が困難な分野が多い人文科学・社会科学の中において、経済学では、積極的に数理化がなされ、その検証が試みられている。そうした性質に着目し、経済学は「社会科学の女王」と呼ばれることがある[39]。 しかし、心理が関与する人間の行動、および、そうした人間が集団を構成した複雑な社会を数理モデル化することは容易ではない。現実の経済現象の観察、モデル構築、検証という一連の循環的プロセスは、いまだ十分であるとは言えないし、本当にそうした手法が経済学の全ての対象に対して実現可能であるのかどうかも定かではない、とされることもある。また、客観的に分析しているようであっても、実際には多かれ少なかれ価値観が前提として織り込まれているということやそうでなければならないことは、上述のごとくケインズやコースが指摘している。また、経済学には多かれ少なかれ経済思想史およびイデオロギーが含まれる[40]。 理論経済学では、数学を用いたモデルがある。関連のある数学の分野として、位相空間論、関数解析学、凸解析、微分積分学、確率論、数理最適化などが挙げられる。確率微分方程式や不動点定理など数学におけるブレイクスルーが経済学に大きく影響を与えることもある。ジョン・フォン・ノイマンやジョン・ナッシュ、デイヴィッド・ゲール、スティーヴン・スメイルなどの数学者や理論物理学者が経済学に貢献することも珍しくなく、チャリング・クープマンス、マイロン・ショールズ、宇沢弘文、二階堂副包など数学、物理学、工学出身の経済学者も少なくない。 理論経済学はミクロ経済学とマクロ経済学という2つの分野からなる。ミクロ経済学は、消費者と生産者という経済の最小単位の行動から経済現象を説明する。マクロ経済学は、国全体の経済に着目する。今日では、マクロ経済学においても、消費者・生産者の行動に基づく分析が主流であり(マクロ経済学のミクロ的基礎付け)、マクロ経済学はミクロ経済学の応用分野と見ることができる。 統計学において経済関連の統計が主流分野として立脚していること、統計学者や経済学者と統計学者を兼ねる者が両分野の発展に大きく貢献してきたことからもわかるように、古くから社会全体を実験室に見立てて統計学を使い裏付ける方法が経済学において多用され影響を与えてきた。こうした分野は計量経済学と呼ばれる。 実証の現代の新潮流にはダニエル・カーネマン、エイモス・トベルスキー、バーノン・スミスなど心理学(認知心理学)、認知科学の流れをくみ行動実験を用いて消費者行動を裏付ける方法が強力な道具として提供され急成長している。
特徴
科学性と非科学性
理論
実証
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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