ハジュン・チャンは、経済学を商品やサービスの生産、交換、流通に関する研究とであると定義したうえで、生物学が、DNA分析、解剖学、動物の行動のゲーム理論など、さまざまな方法で研究されており、それらはすべて生物学と呼ばれるように、経済学は、方法論や理論的アプローチではなく、取り扱っている調査対象の観点から定義されるべきであると指摘する[37]。
このように現在では、資本主義・貨幣経済における人や組織の行動を研究するものが中心となっている。広義においては、交換、取引、贈与や負債など必ずしも貨幣を媒介としない、価値をめぐる人間関係や社会の諸側面を研究する。このような分野は、人類学、社会学、政治学、心理学と隣接する学際領域である。
また、労働、貨幣、贈与などはしばしば哲学・思想的考察の対象となっている。ただし、経済システムの働きに深く関わる部分については経済思想史と呼ばれ、経済学の一分野として考えられることも多い[38]。 自然科学と比べると、不確実性の大きいヒトが関わるできごとが研究対象であるゆえ、数理化・実験が困難な分野が多い人文科学・社会科学の中において、経済学では、積極的に数理化がなされ、その検証が試みられている。そうした性質に着目し、経済学は「社会科学の女王」と呼ばれることがある[39]。 しかし、心理が関与する人間の行動、および、そうした人間が集団を構成した複雑な社会を数理モデル化することは容易ではない。現実の経済現象の観察、モデル構築、検証という一連の循環的プロセスは、いまだ十分であるとは言えないし、本当にそうした手法が経済学の全ての対象に対して実現可能であるのかどうかも定かではない、とされることもある。また、客観的に分析しているようであっても、実際には多かれ少なかれ価値観が前提として織り込まれているということやそうでなければならないことは、上述のごとくケインズやコースが指摘している。また、経済学には多かれ少なかれ経済思想史およびイデオロギーが含まれる[40]。 理論経済学では、数学を用いたモデルがある。関連のある数学の分野として、位相空間論、関数解析学、凸解析、微分積分学、確率論、数理最適化などが挙げられる。確率微分方程式や不動点定理など数学におけるブレイクスルーが経済学に大きく影響を与えることもある。ジョン・フォン・ノイマンやジョン・ナッシュ、デイヴィッド・ゲール、スティーヴン・スメイルなどの数学者や理論物理学者が経済学に貢献することも珍しくなく、チャリング・クープマンス、マイロン・ショールズ、宇沢弘文、二階堂副包など数学、物理学、工学出身の経済学者も少なくない。 理論経済学はミクロ経済学とマクロ経済学という2つの分野からなる。ミクロ経済学は、消費者と生産者という経済の最小単位の行動から経済現象を説明する。マクロ経済学は、国全体の経済に着目する。今日では、マクロ経済学においても、消費者・生産者の行動に基づく分析が主流であり(マクロ経済学のミクロ的基礎付け)、マクロ経済学はミクロ経済学の応用分野と見ることができる。 統計学において経済関連の統計が主流分野として立脚していること、統計学者や経済学者と統計学者を兼ねる者が両分野の発展に大きく貢献してきたことからもわかるように、古くから社会全体を実験室に見立てて統計学を使い裏付ける方法が経済学において多用され影響を与えてきた。こうした分野は計量経済学と呼ばれる。 実証の現代の新潮流にはダニエル・カーネマン、エイモス・トベルスキー、バーノン・スミスなど心理学(認知心理学)、認知科学の流れをくみ行動実験を用いて消費者行動を裏付ける方法が強力な道具として提供され急成長している。こうした分野は実験経済学と呼ばれる。この流れから、行動経済学、神経経済学という分野が、心理学者と心理学的素養を持つ経済学者によって生み出されている。 経済学は、その誕生・分析対象が社会・政治・経済問題と不可分であったことから政策への提言として社会へ関わる機会が非常に多い。19世紀以降は、社会的な判断において経済学が不可欠となった。社会問題を対象としている性質からか、社会的不幸を予測する理論も多々生まれトーマス・カーライルによって「陰鬱な学問」とも呼ばれた[41]。先駆的政策(事実上の実験)の過程と結果から新たな学問的問題を提起したソビエト連邦による社会主義建設は失敗し「壮大な社会実験」として総括されているが、この社会主義的政策が、第二次世界大戦後日本で採られた傾斜生産方式のように社会に有益な影響を与えたのも事実である。ちなみに、主流派経済学では傾斜生産方式の有用性について疑問符を投げかけている。 1980年代からゲーム理論が積極的に取り入られるようになり、特にマーケット・デザイン 有限な事物の分配・生産が対象であり、人間が知覚できる有限性がなければ対象とはならない。例えば宇宙空間は未だに対象ではないが、東京に供給されるビル空間の量は対象である。その他にも、人間行動の心理的要素や制度的側面も重要な研究対象である。 また、事実解明的分析と規範的分析に分けられる。前者は理論的に説明・判断できる分析であり、後者は価値判断や政策決定に使われる分析である。例えば「政府支出を増やすと失業が減少する」は真偽が判明する分析であるが、「政府支出を増やして(財政赤字を増やしてでも)失業が減少したほうが良い」は価値判断が絡む分析である。 経済学は、法学、数学、哲学などと比べて、比較的新しい学問である。経済学は、近世欧州列強の著しい経済発展とともに誕生し、その後資本主義経済がもたらしたさまざまな経済現象や経済システムについての研究を積み重ね、現代に至る。 経済学の最初を遡るとすると、古代ギリシャのプラトンの国家論にまで遡る。プラトンは、民主制を否定し、ポリスのために善く生きることを求め、消費欲や財産欲を禁止し、貨幣の使用も禁止し、人口も完全に規制される国家を理想とした。これは、ペロポネソス戦争で敗北したアテネに商品経済が浸透し、格差が拡大するなか、身分制社会を維持するためにこのように主張したとされる[42]。 続くアリストテレスは、財産の共有制を批判し、商品の売買も容認したが、金儲けのための交換(クレマティスティケ)を、ポリスのために善く生きることを忘れることになるとして批判した[43]。 トマス・アクィナスは、私有財産を肯定しながら、困窮者の財産請求権(緊急権)を例外としてみとめた[44]。 経済についての研究の始まりはトーマス・マン(1571年 - 1641年)によって書かれた『外国貿易によるイングランドの財宝』や、ウィリアム・ペティ(1623年 - 1687年)の『租税貢納論』、バーナード・デ・マンデヴィル(1670年 - 1733年)の『蜂の寓話』、ダニエル・デフォー(1660年 - 1731年)の『イギリス経済の構図』、デイヴィッド・ヒューム(1711年 - 1776年)の『政治論集』などに見られるような重商主義の学説である。
特徴
科学性と非科学性
理論
実証
政策
経済学の対象
歴史「経済思想史」を参照
古代
重商主義学説詳細は「重商主義」を参照
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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