経済学
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スコットランドの哲学者・経済学者アダム・スミスは『国富論』(1776年)で、政治経済学を、国民の富の性質と動機の研究と定義し、人々に十分な収入や生活費を提供すること、公共サービスのための収入を国家にもたらすことと定義した[16]政治経済学(ポリティカル・エコノミー)は、政治家立法者の科学(サイエンス)の一分野として考えた場合には、二つの明確な目的がある。第一に、国民に十分な収入や食料などの生活物資を提供すること、つまり、より適切にいえば、国民が自分自身で、そのような収入や食料などの生活物資を入手できるようにすることであり、第二に、十分な公共サービスを提供するための収入を国家(ステート)ないしは共和国(コモンウェルス)にもたらすことである。それが提案することは、国民と統治者の両方を豊かにすることなのである。 ? アダム・スミス国富論』「第四編 政治経済学の体系についてー序論」高哲男訳[17]

フランスの経済学者ジャン=バティスト・セイは1803年に、公共政策からは区別されるものとして、経済学を、富の生産、分配、および消費の科学と定義した[18]

ジョン・スチュアート・ミルは1844年に、次のように定義した。富の生産のための人間の共同作業から生じる社会現象について、それらの現象が他の目的の追求によって変更されない限り、その法則を追跡する科学[19]

風刺としては、トーマス・カーライルは1849年に、古典派経済学の異名として「陰気な科学」と呼んだが、これはマルサス (1798) の悲観的分析に対してのものであった[20]

カール・マルクスは、『資本論』(1867年)で次のように述べた。問題なのは、資本主義的生産の自然諸法則そのものであり、鉄の必然性をもって作用し、自己を貫徹するこれらの傾向である。 ? 『資本論』序言[21]

さらに、マルクスの盟友フリードリヒ・エンゲルスは、経済学について次のように述べた。 経済学は、最も広い意味では、人間社会における物質的な生活資料の生産と取引とを支配する諸法則についての科学である。経済学は、本質上一つの歴史的科学である。それは、歴史的な素材、すなわち、たえず変化してゆく素材を取り扱う[22]。 ? フリードリヒ・エンゲルス反デューリング論(1878年)」

アルフレッド・マーシャルは『経済学原理』(1890)において、次のように定義した。政治経済学 (Political Economy) または経済学 (Economics) は、生活上の通常の仕事(ビジネス)における人間の研究であり、また、幸福であること(ウェルビーイング)を達成するために用いられる物質的な必要条件に密接に関連する個人的および社会的行動の研究である。したがって、経済学とは一方で富の研究であり、他方で、より重要な面であるが、人間の研究の一部である[23][24][25]

マーシャルは続けて、宗教と経済は人間の歴史の二大作用であるが、人間の性格は、日々の仕事とそれによって獲得される物質的資源によって形成される、人が生計を立てるためのビジネスは、その人の心が最高の状態にある時間の大部分を満たしており、自分の能力をどう用いるか、仕事が与える考えや感情、同僚、雇用主、従業員との関係などによって、人の性格は形成されるとして、経済や仕事は人間に強い影響力をもたらすと主張した[24]。マーシャルの定義は、富の分析を超えて、社会からミクロ経済学のレベルまで定義を拡張し、今でも広く引用されている。

その後、ライオネル・ロビンズが1932年に、過去の経済学者は、いかに富が生まれ(生産)、分配され、消費され、成長するかという富の分析に研究の中心を置いてきたと指摘したうえで[26]カール・メンガールートヴィヒ・フォン・ミーゼスを参照しながら[27]次のように定義した。Economics is the science which studies human behaviour as a relationship between ends and scarce means which have alternative uses.[28]他の用途を持つ希少性ある経済資源目的について人間行動を研究する科学が、経済学である。 ? 小峯敦・大槻忠志訳 (2016)[29]

ロビンズは、この定義は、特定の種類の行動を選択するという分類的なものとしてではなく、稀少性がもたらす影響によって行動の形態がいかなるものになるかということに注意を向けるような分析的なものであると説明した[30]

しかし、こうした定義にはジョン・メイナード・ケインズロナルド・コースらからの批判もある。経済問題は性質上、価値観道徳心理といった概念と分離する事は不可能であり、経済学は本質的に価値判断を伴う倫理学であって、科学ではないというものである[31][32]。ロビンズの定義は、過度に広範で、市場を分析する上では失敗していると批判されたが、1960年代以降、合理的選択理論が登場し、以前は他の学問で扱われていた分野にも経済学の領域を拡大したため、そのような批判は弱まった[33]

ポール・サミュエルソンは、以下のように定義する。経済学とは、さまざまの有用な商品を生産するために、社会がどのように稀少性のある資源を使い、異なる集団のあいだにそれら商品を配分するかについての研究である。 ? ポール・サミュエルソン 『サムエルソン 経済学 [原書第13版]上』、都留重人訳、岩波書店、1992年、p.4.

一方で、とりわけゲーム理論の経済学への浸透を受けて、経済学の定義は変化しつつある。たとえば、ノーベル経済学賞を受賞したジョセフ・E・スティグリッツは、トレードオフインセンティブ、交換、情報、分配という五つが重要な手がかりとなるとして、以下のように経済学を定義した。経済学とは、個人、企業、政府、その他さまざまな組織が、どのように選択し、そうした選択によって社会の資源がどのように使われるかを研究する学問である。選択にはトレードオフが伴う。すなわち、一つのことに資源を多く使えば、他のことに使える資源は減少するのである。(略) また選択を行う際には、各個人はインセンティブ(誘因)に反応して、消費を増やしたり減らしたりする。(略)個人や企業がさまざまな財やサービスを売買するときには、各自の所有するモノやお金を他の人の所有するお金やモノと交換している。(略)賢明な選択を行うには情報を入手し、それを利用しなければならない。そして大学に進学するか高校を卒業したら就職するかという教育に関する決定や、どのような会社に勤めるかという職業選択、どのような財やサービスを購入するかという決定は、富の再分配を決定することになる。 ? 『スティグリッツミクロ経済学 第4版』(2013年)[34]

また、ノーベル賞受賞者ロジャー・マイヤーソンも、今日の経済学者は自らの研究分野を以前より広く、全ての社会的な制度における個人のインセンティブ分析と定義できる、と述べた(1999年)[35]

ゲーリー・ベッカーは自分のアプローチを、行動、安定した選好、市場の均衡の最大化という仮定を組み合わせ、絶え間なく、大胆に使用することと説明した[36]

ハジュン・チャンは、経済学を商品やサービスの生産、交換、流通に関する研究とであると定義したうえで、生物学が、DNA分析、解剖学、動物の行動のゲーム理論など、さまざまな方法で研究されており、それらはすべて生物学と呼ばれるように、経済学は、方法論や理論的アプローチではなく、取り扱っている調査対象の観点から定義されるべきであると指摘する[37]

このように現在では、資本主義貨幣経済における人や組織の行動研究するものが中心となっている。広義においては、交換、取引贈与負債など必ずしも貨幣を媒介としない、価値をめぐる人間関係や社会の諸側面を研究する。このような分野は、人類学社会学政治学心理学と隣接する学際領域である。


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