組合契約は、各当事者が出資をして共同の事業を営むこと約することによって成立する。日本の民法では典型契約の一種とされる(民法667条
以下)。実務上は「任意組合」や「NK」とも呼ばれる。なお、合名会社は会社法の規定により法人格を与えられてはいるものの、その内部関係は組合に類似しており、かつては民法典の組合の規定が準用されていた[3]。日本の民法は、以下、この節では条数のみ記載する。 組合の法的性質については諾成・有償・双務契約に分類できる。組合は形式的には双務契約であるが、組合には双務契約の性質と相容れない点も多く認められる。このようなことから、組合の法的性質については双務契約説と合同行為説とが対立するが[4]、現在では契約というよりも合同行為であると解する説が有力となっている[5][6]。両説とも決定的な論証という点では問題があるとされるが[7]、一般には契約法の規定のうち組合の団体法理と相容れない規定の適用は基本的に排除されると考えられてきた[8][4]。 2017年改正の民法(2020年4月1日法律施行)で同時履行の抗弁権、危険負担、解除の規定の適用排除が明文化された[9][10]。
組合の法的性質
同時履行の抗弁権の適用排除同時履行の抗弁権の規定(533条
危険負担の適用排除危険負担の規定(536条)も組合契約には適用されない(667条の2第1項)。すなわち不可抗力で出資義務が履行不能に陥った場合においても、536条により他の組合員が出資義務を拒むことはできず[9]、当該組合員の脱退等の問題として処理される[8][4]。
債務不履行による契約解除の適用排除組合員は、他の組合員が組合契約に基づく債務の履行をしないことを理由として、組合契約を解除することができない(667条の2第2項)。一組合員の出資義務の履行遅滞は、当該組合員の脱退や組合の解散の問題として処理され、組合契約の解除の問題とはならない[11][4]。
また、2017年改正の民法(2020年4月1日法律施行)で、組合員の一人について意思表示の無効又は取消しの原因があっても、他の組合員の間においては、組合契約は、その効力を妨げられないことが明文化された(667条の3)[9]。組合には団体的性格があり、組合の外形を信頼して取引をした第三者の利益や共同事業を行おうとした他の組合員の期待を保護するためである[9][10]。なお、意思表示の無効・取消原因のある組合員との関係では、意思表示の無効又は取消しにより、その組合員は組合に出資した財産の返還を求めることができる[9]。 組合の成立要件は以下のとおりである(667条1項)。
組合の成立要件
複数の当事者が存在すること
当事者たる組合員による出資があること組合への出資は財産的価値のあるものであればよく、金銭や不動産などはもちろん、債権、無体財産権、労務、信用でもよい(667条
特定の共同事業を営むことを目的とすること「共同」といえるためには、組合の構成員全員が事業遂行に関与するものである必要がある[14]。営利目的・公益目的・中間目的(慈善親睦等)を問わない[15]。利益の分配がある場合には全員が受け取るものでなければならず、利益を一部の構成員のみが受け取る場合(獅子組合と呼ばれる)は民法上の組合ではない[14][13]。ただし、損失を生じた場合においてそれを負担しない者があってもよいとされる[13]。事業は継続的なものでなくとも一回限りのものであってもよい(当座組合と呼ばれる)[13]。
当事者が組合の成立を約すること(当事者意思の合致)
組合の財産関係
組合財産の帰属
組合の財産は「総組合員の共有に属する」と規定されている(668条)。しかし、組合においては通常の共有と異なり各組合員による持分の処分や清算前の分割ができないなど団体的拘束を受けている。こうした独特な所有関係を表現するため、学説においては、組合財産は組合員によって合有されるといわれてきた。
組合員が組合財産を構成する自己の持分相当について行使できるとすると組合財産を処分したのに等しく組合財産を維持できない[10]。そのため、組合員は、組合財産についてその持分を処分したときでも、その処分をもって組合及び組合と取引をした第三者に対抗することができないとされている(676条1項)。組合員は、清算前に組合財産の分割を求めることもできない(676条3項)。
組合員の債権者は、組合財産についてその権利を行使することができない(677条)。2017年改正の民法(2020年4月1日法律施行)で明文化された(改正前は相殺の禁止についてのみ677条で規定されていた)[10]。
なお、判例は最判昭33.7.22で次のように述べている。「所論のように組合財産が理論上合有であるとしても、民法の法条そのものはこれを共有とする建前で規定されており、組合所有の不動産の如きも共有の登記をするほかはない。従つて解釈論としては、民法の組合財産の合有は、共有持分について民法の定めるような制限を伴うものであり、持分についてかような制限のあることがすなわち民法の組合財産合有の内容だと見るべきである。そうだとすれば、組合財産については、民法667条以下において特別の規定のなされていない限り、民法249条以下の共有の規定が適用されることになる。」
組合の債権組合の団体的性格から、大審院以来の判例法理では組合債権は組合員が共有するのではなく合有的に帰属しているとされてきた[9]。組合員には持分があるものの、組合債権は組合を構成する各人に分割されるわけではない。2017年改正の民法(2020年4月1日法律施行)で、組合員は、組合財産である債権について、その持分についての権利を単独で行使することができないことが明文化された(676条2項)。
組合の債務
組合の債権者は、組合財産についてその権利を行使することができる(675条1項)。組合の債務は各組合員に分割して帰属するのではなく、総組合員に帰属しており組合の財産がその引当てとなるが、民法には明文の規定が無かったため2017年改正の民法(2020年4月1日法律施行)で明文化された[10]。なお、組合の負っている債務も各組合員の負担部分に応じた分割債務になるわけではないことは判決によっても確認されていた(大審院昭和11年2月25日判決民集15巻281号)。
組合の債権者は組合員の固有財産に対しても権利行使をすることができる[10]。各組合員は組合の債務について直接無限責任を負う。すなわち、組合の債権者は各組合員に対して損失分担の割合の限度で直接、際限なく債務の履行を求めることができる。
各組合員が債務を負担する割合は組合内で決められた組合員の損失分担の割合に応じて変化する(特に合意がなければ等しい割合となる)。一方、組合の債権者は、その選択に従い、各組合員に対して損失分担の割合又は等しい割合でその権利を行使することができ、組合の債権者がその債権の発生の時に各組合員の損失分担の割合を知っていたときは、その割合でのみ権利を行使することができる(675条2項)。