細菌
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このような理由から、近年の分子生物学を中心とした生物学は、細菌を中心に研究が発展してきた。特に大腸菌などは、分子生物学の有用なツールとして現在でも頻繁に使用されている。
呼称

各言語での呼称は、ラテン語が Bacterium、日本語および中国語が「細菌」である。1828年クリスチャン・ゴットフリート・エーレンベルクが、顕微鏡で観察した微生物が細い棒状であったため、古代ギリシア語で「小さな杖」を意味する βακτ?ριον (bakt?rion)から造語し、ラテン語で “Bacterium” と呼んだことに由来する。この複数形が Bacteria である[3][4][5]。日本語の「細菌」の語の発案者は不明であるが、1895年明治28年)には『細菌学雑誌』が創刊され、19世紀末には既に使われていた[要出典]。

なお、「細菌」には「菌」という漢字が使用されているが、狭義の菌類(真菌)には含まれない。同様に、細菌とは別グループの生物である「古細菌」には細菌という語が使われているが、この記事が説明する狭義の細菌に含まれない。分類学上の「菌類」(Fungi)、「細菌」(Bacteria)、「古細菌」(Archaea)は、別々の独立した生物である。

このほかの呼称としては、真正細菌(Eubacteria)や Monera(モネラ)などがあるが、いずれも古い用語であり、使用頻度は下がっている[要出典]。真正細菌(Eubacteria)は、かつて古細菌が細菌とみなされていた時代に(Archaeabacteria と呼ばれていた)、これと区別するために使用されていた単語である。ただし、現在でもトーマス・キャバリエ=スミスら著名な研究者の一部がこの語を用いている[要出典]。
起源と初期の進化細菌、古細菌、真核生物の系統樹。下部の縦線は最終普遍共通祖先(LUCA)を表している[6]。各ドメイン内の分岐順序については多くの異説があることに注意。

地球上において、細菌は古細菌とともに生命発生の最初期の頃から存在すると考えられている[7][8][9]ストロマトライトなどの細菌由来と想定される化石が存在しているものの、大部分が単細胞性で極めて小さく、独自の特徴的な形態などを持っていないため、地質学的に細菌の進化史を解明するには多くの困難がある。一方で、現生の細菌がもつゲノム情報を検討することで、細菌の系統学的な進化プロセスが推定されており、細菌と古細菌の分岐は真核生物の誕生よりも前に遡ることが示されている[10]

細菌と古細菌の共通祖先(最終共通祖先(英語版)、LUCA)は、35-40億年前頃に生息していた超好熱菌の一種であるとする仮説が出されている[11][12][13]。ただし、それら初期生命体の生息環境が海であったのか陸地であったのかさえ定説は存在しない[14][15]

細菌は、古細菌とともに真核生物の誕生と進化に深く関与している[16]。例えば、アルファプロテオバクテリア網に属する細菌が、真核生物の祖先となる古細菌内に細胞内共生ののち細胞内器官として取り込まれ、現在の全ての真核生物が持つミトコンドリアハイドロジェノソームの元となった、というシナリオが考えられている。さらには、ミトコンドリアを既に保持していた一部の真核生物が新たにシアノバクテリアを細胞内に取り込み、今日の藻類や植物が持つ葉緑体を形成したと考えられている。これは一次共生(primary endosymbiosis)として知られている[17]
生育環境

細菌は、通常の土壌や湖沼はもちろん、地殻、大気圏熱水鉱床、水深1万m以上の深海底、南極氷床といった、生物圏とされている地球上のほぼ全ての環境に分布する[18][19]。地球上には、約2×1030細胞もの細菌が存在していると見積もられている[20]

細菌は湖や海、北極の氷、さらには地熱温泉[21]などでも豊富に見られ、温泉環境などでは硫化水素メタンなどの溶解した化合物をエネルギーに変換することで、生命を維持するために必要な栄養素を作り出している[22]。特に土壌は細菌が非常に豊富に存在する環境であり、数グラムに約1億個の細菌が含まれている[23]。細菌は有毒な廃棄物を分解し、栄養素をリサイクルする存在として、土壌生態学の観点からも不可欠な存在である。

細菌は大気中にも見られ、1立方メートルの空気中には約1億個の細菌細胞が存在している[23]。海洋には約3×1026細胞もの細菌が存在しており、これらの一部が行う光合成によって、人間が呼吸する酸素の最大50%が供給されていると見積もられている[23]

一部の細菌は芽胞という乾燥に強い形態を取ることも知られている[24]

また多細胞生物体内部や表面にも多数の細菌が付着生育しており、共生関係にある。ただし、健康な生物体の血液中、筋肉骨格など消化管以外の臓器からはほとんど検出されない[要出典]。消化管においては、食物の分解プロセスの一部を細菌が担っている。共生の例は、ルーメンマメ科植物圏における窒素固定菌の共生などに見ることができる[要出典]。また、一部の昆虫類では菌細胞と呼ばれる共生細菌を維持するための細胞を分化させ、その細胞質内に細菌を共生させるが、これら細胞質内共生細菌のなかには、カルソネラ・ルディアイ(Candidatus Carsonella ruddii)のように宿主の細胞外で生存あるいは増殖が出来ないものがある[要出典]。

バイオマスの観点では、細菌は植物を超える存在である[25]。土壌では、4000m2あたり2トンの微生物(真菌、古細菌を含む)が含まれていると見積もられている[要出典]。また海洋においては、栄養状態にかかわらず1ミリリットル(mL)あたり50細胞程度の細菌が存在しており(沿岸や生物の死体周辺ではmLあたり105細胞以上生息している)、海洋だけでも地上の真核生物量をはるかに凌駕する計算がなされている[要出典]。
形状・大きさ様々な形態を持つ細菌[26]

細菌は様々な細胞形態や配置を示す。一般に、大きさはおおむね0.5-5 μm程度であり、古細菌と同規模で真核生物よりは一桁小さい。桿菌の中では、長いものは15 μmほどになる。さらに肉眼でも見ることができるサイズになるものもあり、例えばThiomargarita namibiensisは500 μmほどに[27]、Epulopiscium fishelsoniは700 μm程度にも達する[28]。最大で2 cmにもなる細菌も発見されている[29]。逆に最小のバクテリアとしては、わずか0.3 μmのマイコプラズマ属の種が知られている[30]


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