原核生物(細菌と古細菌)では通常、遺伝物質が2つの娘細胞に均等に配分される二分裂と呼ばれる栄養細胞分裂が行われるほか、出芽のような別の分裂様式も観察されている。二分裂は、細胞分裂前の紡錘体の形成やクロマチン凝縮を伴わない細胞分裂の原始的な形態で、無糸分裂(英: amitosis)とも呼ばれる[11]。どのような種でも、すべての細胞分裂においてDNA複製が1回行われる。細菌の場合、ディビソーム
(英語版)というタンパク質複合体が、細胞分裂、分裂時の内膜と外膜の収縮、そして分裂部位でのペプチドグリカン細胞壁の合成を担う。チューブリン様タンパク質であるFtsZは、細胞分裂のための収縮環(英語版)形成に重要な役割を果たしている[12]。ヒトを含むほとんどの真核生物は、核に複数の染色体を持っている。有糸分裂(英: mitosis)では、それぞれの染色体が複製され、新しい2つの核に分配され、染色体の総数が維持された遺伝的に同一の娘細胞を生成する。各染色体のコピーがそれぞれの娘細胞に確実に分離されるように、有糸分裂では紡錘体が形成される。染色体は、線路を走る車両のように、細長い微小管に沿って移動する。一般に、有糸分裂が起こる前にはDNAが複製されるS期(合成期)がある。有糸分裂の後には細胞質分裂が続き、親細胞の細胞成分(細胞質・細胞小器官・細胞膜など)が、2つの新しい娘細胞に均等に分配される。有糸分裂を構成するそれぞれの段階を総称して動物の細胞周期のM期(有糸分裂期)、すなわち親細胞が遺伝的に同一の2つの娘細胞に分裂する過程が定義される。 減数分裂(英: meiosis)の場合、染色体の数が親細胞の各2本から、娘細胞の各1本へと減少する[13]。減数分裂では連続した2回の分裂を経て、4つの単数体の娘細胞が作られる。第一減数分裂では、相同染色体(英語版
減数分裂
真核生物の細胞分裂「世代交代」も参照
核を持つ真核生物の場合、細胞分裂の過程は、核を持たない原核生物よりも複雑である。ヒトのような高等動物の場合、ほとんどの細胞は親細胞と遺伝的に同一の娘細胞を形成する有糸分裂によって生成するが、重要な例外として、有性生殖のための単数体の配偶子(精子と卵細胞)は減数分裂によって形成される。有糸分裂と減数分裂とは、細胞のライフサイクルのある時点で、有性生殖の過程で行われる。どちらの分裂様式も、真核生物の最後の共通祖先に存在していたと考えられている。
真核生物の細胞周期真核生物の細胞周期の模式図。(外円) 細胞周期は間期(I)と有糸分裂(M期)に大分される。(内円) 間期はギャップ1(G1), DNA合成(S), ギャップ2(G2)に分かれ、M期は有糸分裂と細胞質分裂に分かれる(図示なし)。静止期(G0)は細胞周期から脱出した非分裂状態である。詳細は「細胞周期」を参照
細胞が2つの娘細胞に分裂するまでに起こる一連の段階を細胞周期(英: cell cycle)あるいは細胞分裂周期(英: cell-division cycle)という。これらの段階には、遺伝情報を担うデオキシリボ核酸(DNA)の複製が含まれ、続く細胞質分裂と呼ばれる過程で、細胞質・染色体・その他の構成成分が2つの娘細胞に分割される。 間期(英: interphase)とは、細胞が有糸分裂、減数分裂、細胞質分裂の前に必ず通る過程である[15]。間期は主にG1期、S期、G2期という3つの段階からなり、この間に細胞は細胞分裂の準備をする。
間期
G1期G1期は細胞の成長期であり、DNA複製の準備のために特殊な細胞機能が起こる[16]。細胞のサイズが増大し、mRNAとタンパク質を合成し、後続の段階に備える。
S期S期(英: synthesis phase、合成期)では、遺伝情報を継続するために染色体が複製される[17]。ゲノムの正確な複製は細胞分裂に不可欠であるため、S期の過程は厳密に制御されている
G2期G2期の間、細胞は、有糸分裂が始まって紡錘体が合成されるM期に入る前に急速に成長し、タンパク質を合成して最終の成長段階を経る。