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日本では平安時代故人が生前に書いた手紙などを漉き直し、法華経を筆写して供養することがあり、これは「故紙」と呼ばれた[2]。江戸時代には江戸の浅草紙、京都の西桐院紙、大阪の港紙などの再生紙が存在した[22]

紙は排出されるゴミに占める比率が高く、家庭では25%、オフィスからは46%(1988年度)が相当する。これらが古紙として再生されることはゴミ軽減の効果が大きい[2]
洋紙の製造

洋紙の製造では、幅広の紙を機械を使って連続的に抄くため、大量生産が可能となっている。洋紙製造には、次の工程がある。
パルプ化工程

調成工程

抄造工程

塗工工程

仕上・加工工程

パルプ化工程右手の高い塔が蒸解釜詳細は「パルプ」を参照

パルプは、その後の工程と同じ工場の中で製造する場合と、別の工場で製造する場合がある。パルプ製造とその後の工程を両方とも行う工場は、紙パルプ一貫工場と呼ばれる。

洋紙の製造過程では多くの場合、木材からパルプを製造する。木材から製造するパルプは、製造方法により機械パルプと化学パルプに大別される。現在、化学パルプでは、クラフトパルプが一般的である。また、古紙から作るパルプも多く用いられており、古紙脱墨パルプと呼ばれる。白い紙を作る場合、パルプ製造過程でパルプを漂白する。漂白したパルプは、晒しパルプと呼ばれる。

近代的な工場では一般に蒸解釜が使われるが、1950年代までは蒸気加熱したチップを蒸解釜に仕込む1ベッセル方式が主流であった。スウェーデンのカミヤ社が開発した連続式パルプ化方式が実用化されたあとは現在に至るまでチップを蒸気加熱後に、浸透タワーを経由してから蒸解釜に仕込む2ベッセル方式が主流となった。木材からパルプを取り出すにはまず、パルプを煮て柔らかくする必要があり、長時間高温・高圧で煮込む。この方式には釜の大きさに応じた量を1回ごとに煮込む「バッチ式」と、連続して煮込む「連続式」があるが、チップを縦に細長い円筒容器の頂部から投入し、薬液と混入し煮たのち、底部から連続的に取り出す方式が連続蒸解釜であり、カミヤ式連続蒸解釜が主流となった。2ベッセル方式のメリットは、薬液浸透の難しい樹種にも蒸解薬液(白液)をチップに充分にしみ込ませることが可能である点であり、1970年代に開発された[25]。製紙会社によく見る、巨大な塔はこの蒸解釜である。
調成工程

調成工程では、各種パルプを混合し、叩解し、薬品を添加する。叩解には、かつてはビーター、現在はリファイナーという機械が使われる。調成工程を経たパルプを、紙料という。
抄紙工程

抄紙工程では、抄紙機を使い、紙料を1%程度に水で薄めたものを原料に、次の工程で紙を抄く。
ワイヤーパート- 紙料を、網(ワイヤー)の上に流して薄く平(たいら)にすることで、湿紙を作る。水分が重力によって脱落し、紙料の水分は99%から80%程度になる。

プレスパート - 湿紙にフェルト(毛布)を当てて上下から圧縮することで、水分を搾り取る。この工程で、湿紙の水分は55%程度になる。

ドライヤーパート - 湿紙を加温して水分を蒸発させ、水分が8%程度になるまで乾燥させる。

塗工工程

塗工紙の場合は、コーターを使い、紙の表面を顔料などで塗工する。コーターには、抄紙機と直結することで抄紙・塗工を1工程とするオンマシン式と、抄紙とは別工程とするオフマシン式がある。ロール状の原紙
仕上・加工工程

乾燥し、抄紙機またはコーターから出てきた紙は、次の工程で仕上・加工する。
カレンダリング

リールによる巻き取り

ワインダーやカッターで
断裁

包装

出荷

紙に添加される薬品

各種洋紙に添加される主な薬品は次の通り。薬品は、調成工程でパルプに混合されたり、塗工工程で紙の表面に塗工されたりする。機械抄き和紙にも合成ねり(粘剤)などの薬品が用いられている。詳細は製紙用薬品を参照。
サイズ剤
水性インクなどのにじみを防ぐ。かつてはロジンと硫酸バンド(硫酸アルミニウム)が広く使われており、そうした紙は酸性紙という。酸性紙は寿命が50年から100年で、図書館での蔵書の保管などで寿命が短すぎることが大きな問題になった。中性紙は、硫酸バンドの代わりに、AKDやASAなどの中性サイズ剤を用いており、寿命は酸性紙の4倍から6倍といわれている。現在、印刷用紙やPPC用紙では中性紙が使われることが多く、酸性紙は新聞や雑誌など長期保存の必要がない用途で使われる。
填料
繊維間の隙間を埋め、不透明度・白色度・平滑度・インク吸収性を向上させる。従来からカオリンなどのクレー(白色粘土)やタルク(滑石)が使われているほか、中性紙では炭酸カルシウムが使われる。填料は、印刷用紙やPPC用紙などには5%から20%程度、辞書などに使う薄葉印刷用紙では25%程度が含まれる。
紙力増強剤
紙の強度を高くする。紙が乾いた状態での強さを上げる乾燥紙力増強剤と濡れた状態での強さを上げる湿潤紙力増強剤に分かれる。主にデンプンポリアクリルアミドが使われる。
染料
染料は、紙に色を付けたり、白さを高めたりする。白さを高めるには、繊維の黄色の補色である青色の染料が使われる。また、書籍などでは、文字を読みやすくするため、淡い黄色の染料を使う。蛍光染料は、白さを特に高めるために使う。
塗料
高級印刷用紙などの美感や平滑さを高める目的で塗料が紙の表面に塗布されることがあり、そうした紙は塗工紙という。塗料は、カオリン炭酸カルシウムなどの白色顔料と、デンプンやラテックスなどのバインダー(接着剤)を混合して作る。
生産・消費量詳細は「製紙業」を参照

日本製紙連合会の調べによれば、2012年における世界の紙・板紙の生産量は、前年比0.4%増の約4億トン。国別生産量のトップは中華人民共和国で10,250万トン。次いでアメリカ合衆国の7,438万トン、日本2,608万トンは世界3位に位置している。国民1人当たりの消費量のトップはベルギーで約318kg。次いでオーストラリアの約252kg、ドイツの約243kgが続く。日本は約218kg。

2017年の世界の紙・板紙生産量は、4.2億トンと2016年比1.7%増加。北米や欧州、日本などのこれまでの紙パルプ産業をけん引してきた国が、シェアを落とす中、アジア地域の存在感が増してきている。[26]
紙の物性
基本物性

紙の基本物性と評価には、以下のような項目がある。[27]
こわさ
紙が自重を支える性質(紙のこし)を表す。幅2cmのテープ状に切った紙を水平に保持し、垂れ下がり始める長さで測る。また、垂直に保持して左右に傾け、それぞれの方向で垂れ下がる角度の計が直角になった時の長さをcm単位で計測し、長さの3乗を100で割った値をクラークこわさと言う。紙箱など、紙のみで形を維持させるような場合には強いこわさが求められる。
引張り強さ
紙が引きちぎる力に抵抗する性質を表す。幅15mm、長さ20cmの試験片を用意し、両端各1cm幅を挟んで引張り試験機で測定する。破断時の荷重やエネルギーおよび紙の伸びを計測し、単位面積当たりの仕事量をタフネスとして示す。また、この結果から断裂長を導くこともある。これは、紙を非常に長いテープ状にして吊り下げた場合に破断を起こす長さに換算したもので、km単位で表される。
耐磨耗強さ
紙同士、または紙と他の物質が繰り返し摺り合わさった場合に生じる紙表面のムケなどを調べる。テーパー型磨耗試験などを用いて一定の時間・速度・圧力で摺り合わせを行い、単位質量の減少で測定する。
引裂強さ
紙が横方向に引き裂かれる時の強さを表す。4枚重ねて両端を固定した紙の中央下部端に2mmの切れ目を入れ、片方に振り子をつけて揺らす。これにより起こる引裂きの抵抗値を測定する。この数値を16枚重ね相当に換算した値をエレメンドルフ引き裂き強さ(内部引裂強さ)と言う。
破裂強さ
内容物がある紙袋の破裂に対する強さを表す。中央に円形の穴があるドーナッツ状の抑え板で紙を挟み、穴の部分にゴム製の風船を当てて膨らます。やがて紙が破れた際の圧力を破裂強さと言う。
衝撃引張り強さ
紙に強い衝撃が加わった際に抵抗する強さを表す。アイゾット衝撃試験を行う。
耐折れ強さ
繰り返し折りたたみ、開かれることに対する紙の強さを表す。実際に折り開くことを繰り返して、紙の強さを測定する。また、折りたたみによって起こり紙の破断は、背側に亀裂が入り起こることが多い。そこで、紙に罫線(表面だけに加わった切り込み)を入れて、それを背に折りたたみ割れの状態を観察する方法もある。
要求物性

紙は、その用途に応じた性能が求められる。印刷を前提とした紙にはインクを沁み込ませる機能が必要となり、吸水度をクレム法やコップ法などで計測する。逆に包装材料の中には防水や耐水性を付与した紙もある。食品包装用には油や脂質への耐性が求められるものも多くある。壁紙では難燃性が求められる[27]

また、作業性や機械適性も紙の要求機能に入る。製函・段ボール製造などでは生産機械を用いて大量製造される際、紙がカールしていては使用に耐えにくい。印刷では、紙の表面硬度や平滑性、印刷時の圧縮性やインクとの適性(チョーキングや裏抜け)、紙粉発生によるパイリングの防止、オフセット印刷における紙中の水分が原因となるブリスタリングなどがある。その他、OA用紙では給排紙機能や走行機能、耐候性、トナーやインクの定着や解像度なども問題となる[27]
紙の規格
紙に関係する規格・法令

ISO(
国際標準化機構

RoHS指令

PRTR制度(Pollutant Release and Transfer Register)

MSDS制度(Material Safety Data Sheet)=化学物質安全性データシート

ICPデータ(Inductively Coupled Plasma Data)=誘導結合プラズマによる分析データで特定有害物質などの元素分析に用いられる。RoHS指令に対する不使用の証明として求められることが多い。


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