紙の基本物性と評価には、以下のような項目がある。[27] 紙は、その用途に応じた性能が求められる。印刷を前提とした紙にはインクを沁み込ませる機能が必要となり、吸水度をクレム法やコップ法などで計測する。逆に包装材料の中には防水や耐水性を付与した紙もある。食品包装用には油や脂質への耐性が求められるものも多くある。壁紙では難燃性が求められる[27]。 また、作業性や機械適性も紙の要求機能に入る。製函・段ボール製造などでは生産機械を用いて大量製造される際、紙がカールしていては使用に耐えにくい。印刷では、紙の表面硬度や平滑性、印刷時の圧縮性やインクとの適性(チョーキングや裏抜け)、紙粉発生によるパイリングの防止、オフセット印刷における紙中の水分が原因となるブリスタリングなどがある。その他、OA用紙では給排紙機能や走行機能、耐候性、トナーやインクの定着や解像度なども問題となる[27]。 紙の寸法には、断裁に必要なまわりの余白を含めた原紙寸法と、製品に仕上げたときの寸法である紙加工仕上げ寸法がある。こうした寸法は、日本工業規格やISOにより規格化されている。 原紙寸法には次の種類がある。 種類寸法(mm)
こわさ
紙が自重を支える性質(紙のこし)を表す。幅2cmのテープ状に切った紙を水平に保持し、垂れ下がり始める長さで測る。また、垂直に保持して左右に傾け、それぞれの方向で垂れ下がる角度の計が直角になった時の長さをcm単位で計測し、長さの3乗を100で割った値をクラークこわさと言う。紙箱など、紙のみで形を維持させるような場合には強いこわさが求められる。
引張り強さ
紙が引きちぎる力に抵抗する性質を表す。幅15mm、長さ20cmの試験片を用意し、両端各1cm幅を挟んで引張り試験機で測定する。破断時の荷重やエネルギーおよび紙の伸びを計測し、単位面積当たりの仕事量をタフネスとして示す。また、この結果から断裂長を導くこともある。これは、紙を非常に長いテープ状にして吊り下げた場合に破断を起こす長さに換算したもので、km単位で表される。
耐磨耗強さ
紙同士、または紙と他の物質が繰り返し摺り合わさった場合に生じる紙表面のムケなどを調べる。テーパー型磨耗試験などを用いて一定の時間・速度・圧力で摺り合わせを行い、単位質量の減少で測定する。
引裂強さ
紙が横方向に引き裂かれる時の強さを表す。4枚重ねて両端を固定した紙の中央下部端に2mmの切れ目を入れ、片方に振り子をつけて揺らす。これにより起こる引裂きの抵抗値を測定する。この数値を16枚重ね相当に換算した値をエレメンドルフ引き裂き強さ(内部引裂強さ)と言う。
破裂強さ
内容物がある紙袋の破裂に対する強さを表す。中央に円形の穴があるドーナッツ状の抑え板で紙を挟み、穴の部分にゴム製の風船を当てて膨らます。やがて紙が破れた際の圧力を破裂強さと言う。
衝撃引張り強さ
紙に強い衝撃が加わった際に抵抗する強さを表す。アイゾット衝撃試験を行う。
耐折れ強さ
繰り返し折りたたみ、開かれることに対する紙の強さを表す。実際に折り開くことを繰り返して、紙の強さを測定する。また、折りたたみによって起こり紙の破断は、背側に亀裂が入り起こることが多い。そこで、紙に罫線(表面だけに加わった切り込み)を入れて、それを背に折りたたみ割れの状態を観察する方法もある。
要求物性
紙の規格
紙に関係する規格・法令
ISO(国際標準化機構)
RoHS指令
PRTR制度(Pollutant Release and Transfer Register)
MSDS制度(Material Safety Data Sheet)=化学物質安全性データシート
ICPデータ(Inductively Coupled Plasma Data)=誘導結合プラズマによる分析データで特定有害物質などの元素分析に用いられる。RoHS指令に対する不使用の証明として求められることが多い。
容器包装リサイクル法
グリーン購入法
森林認証制度
寸法詳細は「紙の寸法」および「ISO 216」を参照
A列本判
B列本判
仕上げ寸法には、A列とB列がある。 1連とは一定寸法に仕上げられた紙1,000枚(板紙の場合は100枚)のことで、紙取引の基準となる枚数である。小数点を使い、2.5連(2,500枚)のように表す場合もある。 坪量は、紙や板紙の基準となる重さを、単位面積である1m2あたりの質量で表す。単位はg/m2。坪量は紙の基本品質を表す、重要な項目である。米坪ともいう。元は1尺四方あたりの匁単位の質量のことを坪量と呼んだ(坪を参照)。厚さについて言及する際、単に「グラム」と言った場合は坪量(米坪)を指す。 連量は、一定寸法に仕上げられた紙1,000枚(1連)の質量。寸法は日本の場合、板紙では実際に取引する紙の寸法、板紙以外では四六判(788mm×1,091mm)が一般的である。1連が1,000枚でないのが通常(例えば100枚)である用紙の場合には連量も変わる。 連量は、紙の重みだけでなく、厚みを比較する目安としても捉えられている。厚い紙は、郵便はがき[注釈 1]で209.3kg、薄いものは純白ロール紙34kgがある。ただし、紙質によって同じ厚みでも密度は異なるため、あくまで目安。同質の紙同士で厚みを比較する際にはよい参考になる。厚さについて言及する際、単に「キロ(グラム)」と言った場合は(四六判にした時の)連量を指す。 コンピュータなどの電子技術が普及すれば、紙を使わなくなるペーパーレスが実現し、印刷や配布、紙の保管などのコストを削減できるだろう、とする予想があった。 しかし、コンピュータが高度に普及した現代においても、紙の使用量は減少していない。紙に代わるデジタルドキュメントシステムで、移行の手間などやはり大きなコストが発生すること、紙のアフォーダンスを再現することが難しいことなどが原因としてあげられる[28]。 紙は、環境問題で議論の対象となることが多い。日本国内で生産される紙の原料の約6割は古紙だが、残りの約4割は木材などを原料としたバージンパルプである。バージンパルプの原料には、丸太を製材に加工する際に発生する残材(端材)なども使われるが、丸太を2?3cmの大きさに砕いた木材チップが用いられている。木材チップは国内産のものもあるが、日本国外から輸入されるものの方が多い。木材チップの原料には、主にユーカリやアカシアなどの植林木が用いられている。しかし、植林を行なうためにその土地の天然林を伐採している事例もあるとの指摘がある。また、木材チップの原料の一部には天然林から伐採された丸太も用いられており、環境団体からは、天然林の伐採対象には生物多様性が豊かな原生林も含まれていることが指摘されている。
A列
B列
枚数の単位
連
質量の単位
坪量
連量
現代社会と紙
紙とコンピュータ
紙と環境問題
脚注[脚注の使い方]
注釈^ 民営化前における官製はがきのこと。
出典^ 日本印刷技術協会編、『製本加工ハンドブック 〈技術概論編〉』日本印刷技術協会(2006/09 出版)、ISBN 9784889830880
^ a b c d e f g 原 p.71-147 4.洋紙のレシピ
^ a b c d e f 原 p.15-33 1.紙の来た道“ペーパーロード”
^ 原 p.35-59 2.文化が育てた“紙”、紙が育てた“文化”
^ 日本包装技術協会『包装の歴史、3.包装産業の発達』日本包装技術協会、1978年、111-125頁。
^ a b 小平征雄, 福田隆真, 梅田素博「 ⇒目的造形における紙の技法と教材の分類」『北海道教育大学紀要 第1部 C 教育科学編』第39巻第2号、北海道教育大学、1989年3月、p161-177、doi:10.32150/00003593