紅い眼鏡/The_Red_Spectacles
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小道具もスタッフの持ち込みという自主製作映画に近い体制で(安価な小道具の調達、拾い物の活用、ロケ現場の清掃作業、撮影スケジュールに合わせたセット構築など、美術スタッフの作業は過酷を極めた[10])、当初16ミリフィルム撮影で500万円から600万円の予算を予定していたがプロカメラマンを起用して35ミリフィルムで1000万円という話になり[11]、最終的に2500万円になったものの、かなりの低予算で仕上げている。プロデューサーの斯波は自宅を抵当に入れて製作費を捻出し、出演者はノーギャラと一部で言われているが、実際にはギャラを払っている。ただしお願いして通常の出演料の半分の額だったという[12]。大量の眼鏡が出るシーンがあるが、フレームを買う予算も無く全国のファンに呼びかけてフレームの寄付を募った程で、返礼に高田明美デザインの特製ステッカーが送られた。後年冒頭のヘリシーンで殆ど(予算)持っていかれたと制作スタッフがインタビューに応えている[要出典]。

事前のアニメ雑誌等での記事では、主人公が着用する特殊強化服のプロテクトギアが前面に出されて、あたかもアクション映画であるかのようであったが[13]、実際には迫力のあるアクションはプロローグのみ、後はその後日談と言う構成[14]、映像はほぼモノクロ、台詞中心のストーリー構成で粗が見えないように夜間シーン中心[7]という節約に勤しんだ演出となった。ジャン=リュック・ゴダールの『アルファヴィル』と鈴木清順の『殺しの烙印』、ウォルター・ヒルの『ウォリアーズ』が参考にされている[4]。さらにアニメ監督である押井守らしく、事前に絵コンテを描き、それにあわせて役者が演技する形になっている[15]

学生時代には映画青年で8ミリフィルムで実写の自主制作映画も作っていた押井は、これを機に実写方面にも表現の幅を広げることになった。ちなみにこの方法はアニメ・実写問わず形を変えて度々使用することになり、押井の弟子と言われる神山健治のテレビアニメ『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』にも引き継がれている。

音楽には斯波重治により川井憲次が起用された[16]。その理由は、低予算でも多彩な音を作れるという事情によるものであったが、以後の押井作品には欠かせない存在となる。

その川井が作曲したメインテーマ曲「The Red Spectacles」は、1989年から新日本プロレスに参戦したサルマン・ハシミコフを始めとするソ連出身の格闘家のレッドブル軍団、1998年から総合格闘技イベントPRIDEに参戦したウクライナの格闘家イゴール・ボブチャンチンの入場曲に採用され、本作を見たことのないプロレスファン・格闘技ファンにもお馴染みとなっている[17]
主なロケ地

お台場(13号埋立地) - 紅一がヘリで逃亡するシーン。当時はほとんど何もない空き地であった。

山形空港 - 山形県東根市。撮影当時東京サミットが開催され羽田、成田両空港の警備が厳しく撮影は不可能であった。そこで「トキワ館」ロケの際利用した山形空港が空港ロケの地になった。背後に映る航空機は全日空の羽田?山形線で、当時は山形新幹線開業以前とあって、全日空路線の中でも高い搭乗率を誇っていた。

キネカ大森 - エレベーターのシーン。本作が公開された劇場で西友大森店内にある。メインスタッフ、キャストによる舞台挨拶が行われた。

トキワ館 - 山形県上山市にあった伊藤和典の実家の映画館。1990年代に閉館。2021年に建物が解体され現存しない。

新百合ヶ丘駅 - 冒頭の空港内からタクシー乗り場まで。文明が紅一を追うシーンの印象的な螺旋階段やタクシー乗り場は今でも健在だが、植え込みが育っていたり開発が進んだりしており多少印象は異なる。

愛国工業工場跡 - 違法立ち食い蕎麦屋、拷問室、蒼一郎の部屋など。東京都小平市にあった。跡地はエコス小平店(現TAIRAYA小平店)となっている。

オリエンタルホテル- 紅一が宿泊したホテルで、作中では波止場通りを左に曲がった港町十三番地にあるという設定。文明配下の部隊の襲撃を受けるが撃滅。神奈川県横浜市石川町駅近くの大丸谷坂にあった。もと船員相手の「チャブ屋」とよばれた宿泊施設。『あぶない刑事』などテレビドラマの撮影にも頻繁に使用されていたが、1990年代初めに廃業。

ビデオグラム

公開後VHS、LD化された後、ほど無く廃盤。2003年2月にDVD-BOX「押井守シネマ・トリロジー 初期実写作品集」においてDVD化され、単体版は2010年4月にリリースされた。
反響

斯波はこの作品の予告編を、自身が音響を担当した『天空の城ラピュタ』の収録最終日に宮崎駿高畑勲に見せて感想を求めたが、宮崎はキョトンとして何も言わず、高畑は「判断のしようがない」と終始曖昧に言葉を濁していたという[18]。宮崎はその後、本作のパンフレットに「押井さんについて」と題した文章を寄稿している。この中では、自分が脚本で押井が監督するはずだったアニメ映画(『アンカー』を指すとみられる)がつぶれてスケジュールが空いたときに二人で知床まで自動車旅行をした話のあとに、「ぼくは実写映画に関心も興味もない。時たま、ほんとに時たまの気まぐれな観客の立場から出る気はない。だから、押井さんが映画少年をいまだにひきずっているのを見ると、アニメーションの監督を実写の人がやるような違和感しか感じない」と述べた上で、本作には押井が「何を考えているか」が「いちばんはっきり表現されていると思った」、(本作を見ているうちに)「70年のバリケートの中にいる高校生の彼が、俺にとって現実と呼ぶに価するのはこの瞬間だけだといまも叫んでいる気がした」と記している[19]
ラジオドラマ(『紅い眼鏡を待ちつつ』)
オリジナル版

映画公開に先駆けて、1987年1月26日 - 30日にラジオ日本の『ペアペアアニメージュ』内にて5夜(全6回)に渡って放送された[20][21]

脚本:押井守伊藤和典

キャスト:吉田理保子水島裕三ツ矢雄二太田貴子中尾隆聖

再録音盤

オリジナルマスターが所在不明となったため、押井守が推敲・加筆修正した台本に基づいて2000年に再録音(音楽も2曲川井憲次により新たに作曲した)されたものが、2000年9月刊行の『犬狼伝説・全』に特典CDとして付属。サウンドトラックCD新装版『Original Soundtrack 紅い眼鏡 - The Red Spectacles - Complete Revival』にはリマスタリングされた原盤を使用した。

第一夜 「ケルベロスの夜-機甲刑事の栄光と没落」

第二夜 「ケルベロスの夜-犬の名は都々目紅一」

第三夜 「立食師たちの夜-マッハ軒立食師撲殺事件・異聞」

第四夜 「立食師たちの夜-師よ神話の人となるか」

第五夜 「立食師たちの夜-犬は戦いの闇に舞い降りるか」


スタッフ[22]

脚本:押井守・伊藤和典/監督:押井守/録音演出:若林和弘


キャスト

局員A:大塚明夫/局員B:松山鷹志/局員C:佐久間レイ/局員D:兵藤まこ/空港アナウンスの声:佐久間レイ/警察無線の声A:松山鷹志/警察無線の声B:土師孝也/警察無線の声C:大塚明夫/ナレーター:土師孝也


他ケルベロス・サーガ作品との違い

本作以外のケルベロス・サーガ各作品では、「首都圏治安警察機構」、通称「首都警」として描かれる組織が、本作でのみ「首都圏対凶悪犯罪特殊武装機動特捜班」となっている。当時はシリーズ化の予定はなく、後に設定を変更した(ただし、パラレルワールド的な見方も可能であるようである)。設定上の最大の違いは、前者が国家警察警察庁)でもなく、自治体警察警視庁)でもない国家公安委員会直属の第三の警察力として設立されたのに対し、後者が警視庁内の一組織という点である。


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