精神障害
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DSM-IVの編集長であるアレン・フランセスは、過剰診断に注意して診断するために、まず症状が様式[注釈 10]としての一群であることが必要であり、さらに「きわめて重要で中核かつ必須の事項[113]」として、症状が同定されたというだけでなく、それが持続的であり、臨床的に著しい苦痛や、社会的または職業上の機能に著しい障害がもたらされていることが必要であるとしている[114]
生物学的検査

これまでは問診でしか診断することができなかったが、光トポグラフィーを用いた脳血流検査法やエタノールアミンリン酸の濃度を測定する血液検査法が開発されてきた、と研究中の話が報じられることがある。診断法に関する主張は従来より諸外国でも散見され、試験的、補助的に導入されることはあるが、確立された診断法は存在しないのが現状である。脳スキャン技術による診断の目処も立っていない[115]。「化学的不均衡#議論」も参照

国際神経精神薬理学会(CINP)の2013年のサミットでは、以下のように報告されている。中枢神経系(脳)の領域では、50年以上にわたる、3,000以上の論文にかかわらず、合意された生物学的指標は存在しない[7]。それ以上に、研究および臨床的な理解は、生物学的指標を同定するほど十分に高度でもない[7]。有効な生物学的指標が必要であり、脳の障害の神経生物学的な研究を進展すること必要とされている[7]

ニューヨーク州立大学のトーマス・サズ(英語版)博士は「言うまでもなく、ほとんどの身体疾患に存在するような、心の病の有無を確かめる血液検査や他の生物学的検査は存在しません。もしそのような検査法が開発されたら、その後、前述したように、症状は心の病とは見なされなくなり、身体疾患の症状として代わりに分類されるでしょう[注釈 11]」と述べている[116]。実例として、「てんかん」「パーキンソン病」「アルツハイマー病」などは脳疾患(brain disease)である[117][118][119]。「てんかん」は、DSM-III(1980年)で精神障害の一覧から除外され、ICD-10(1992年)では「精神及び行動の障害」から「神経系の疾患」に分類が変更された[120]。「パーキンソン病」「アルツハイマー病」は、DSM-IV-TRでは「一般身体疾患による認知症」に、ICD-10では「精神及び行動の障害」「神経系の疾患」の両方に分類されている。

ただし、日本の厚生労働省の統計では、「アルツハイマー病」は認知症の一部として、精神疾患として分類されている。
診断に関する問題「病気喧伝」も参照

DSM-IVアレン・フランセス編纂委員長は、過剰診断、過剰治療に対し、「『ある診断が広く行われるようになったら、疑うべし』ということです。人間はすぐには変わりませんが、物の名前はすぐに変わります。もし突然多くの患者さんが同じ診断名を付けられるようになったら、それは患者さんが変わったからではなく考え方が変わったからであり、考え方が変わるのは、多くの場合、製薬会社が自社製品を売るためにその病気のマーケティングを動かしているからなのです」と述べている[121]うつ病抗うつ薬のない時代、当時メランコリアと呼ばれていたころの罹患は100万人中50 - 100人に過ぎなかったが、現在の推算では100万人中10万人であり、1000倍に増加している[122]

各種の診断に関わる委員会は、頻繁に診断のための定義が拡大して具合が悪いとされる集団数を増やそうとして害を及ぼすため、2017年には世界保健機関のメンバーを含む多国籍ワーキンググループを集め、定義の精度や利害のバランスがうまくとれるかといった問題を検証するためのチェックリストを作成した[123]
疫学2004年の神経・精神疾患[注釈 12]における人口10万あたり障害調整生命年 (DALY)

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メンタルヘルス#各国の精神保健」および「en:Prevalence of mental disorders」も参照

精神障害は一般的であり、WHOは世界の多くの国々において3人に1人が[124]、OECD諸国では2人に1人が[125]、人生のある時点において精神障害を経験するとしている。

OECD諸国においては、労働年齢のおおよそ20%が軽中程度の精神障害を罹患しており、平均で市民の15%が精神保健問題にて医療機関を受診している[126]

年齢別の治療受給率(OECD6カ国の平均)[127]18-24歳25-34歳35-44歳45-54歳55-64歳
罹患率23%20%20%21%20%
治療受給率8%11%14%16%17%
(オーストリー、豪州、デンマーク、ノルウェー、米国、英国)

複数国を対象として行われた研究によれば、不安障害の生涯有病率は16.6%であり、女性は平均値よりも高率であった[128]。同じく気分障害については、大うつ病の生涯有病は6.7%(いくつかの研究ではより高率、また女性も高率)、双極性障害I類については0.8%であった[129]

米国では市民の46%が人生のある時点で経験する[130]。米国で多い障害は、不安障害(28.8%)、気分障害(20.8%)、衝動制御障害(24.8%)、物質乱用(14.6%)であった[130][131][132]

英国においては、4人に1人が任意の年に、若者は10人に1人が経験するとされる[133]。英国の自殺者の9人に1人は精神疾患を持っていた[133]

国際的調査によれば、統合失調症の生涯有症率は平均0.4%であり、貧困国についてはそれよりやや低かった[134]
予防

精神障害における
予防・治療・リハの連続体[135]

全体的

選択的

指示的






症例特定

早期介入

根拠に基づく治療

再発防止

技能訓練

援助付き雇用

認知の改善

包括的ケアマネジメント

詳細は「メンタルヘルス#精神保健政策」を参照

WHOの2004年の政策レポートでは、「効果的な予防措置により精神疾患リスクを削減できる(Effective prevention can reduce the risk of mental disorders)」と述べ、根拠に基づいた予防政策を提案している[5]

2011年の英国保健省による神障害予防プロモーションの経済的分析レポートでは「これら多くの介入は金銭を投じる価値があり、低コストであり、長期的には自己負担でも可能となって公的支出を減らすことができるであろう」と述べている[136]
うつ病性障害

うつ病性障害は、予防プログラムに参加した人口においては、新規発症を20-38%ほど減少させることができている[137][138]。この予防プログラムには認知行動療法が含まれる[139]。プログラムによって傷病コストも削減できている[140]


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