精神療法学
[Wikipedia|▼Menu]
イギリスにおいて心理療法は非営利団体が規制しており、国家登録の心理療法士は、主に3団体英国心理療法委員会(英語版)(UKCP)、英国カウンセリング・心理療法協会(英語版)(BACP)、英国精神分析委員会(英語版)(BPC)に属している。加えて、小規模な団体に児童心理療法士協会(英語版)(ACP)、英国心理療法士協会(英語版)(BAP)も存在する。

ドイツにおいては、Psychotherapy Act (PsychThG, 1998)によって、成人への心理療法は5年の心理学専門課程あるいは精神病理学を含めた医学を修めた者でなければならないとされている。21歳までの青少年への心理療法については、心理学専門課程だけに限定されず、社会教育学ないし社会福祉の領域の専門課程でも認められている[9]

イタリアではOssicini Act (no. 56/1989, art. 3)により、心理学部または医学部を卒業後、大学専門家育成課程もしくは教育大学研究省から認可された民間の心理療法スクールで4年間の卒後訓練を経た者でなければならないとされている[10][11]

フランスでは、psychotherapistを名乗ることができるのは、国家登録の心理療法士のみであり、それには医学博士保有者(一般開業医、専門医)、心理学(臨床心理学を始め各専門分野)専攻の修了者、精神分析学専攻の修了者、精神分析協会への所属者それぞれの要件に応じて、もし免除がなければ、精神医学や心理学、精神分析学を専門分野としている高等専門大学校の2名の教授によって設置された研修機関で、法律(Decret n? 2010-534 du 20 mai 2010 relatif a l'usage du titre de psychotherapeute)で規定された臨床精神病理学に関連した理論と実践的な訓練に従って追加研修を受ける必要がある[12]

スウェーデンでは、psychotherapistを名乗ることができるのは、大学にて心理学及び心理療法の教育を修めた後に、スウェーデン保健福祉庁(英語版)に登録された者である[13]

日本においては、民間認証資格として臨床心理士メンタルケア心理士メンタル士心理カウンセラー行動心理カウンセラーチャイルド心理カウンセラー、および国家資格として公認心理師が存在する。
歴史「心理療法の一覧」および「臨床心理学」も参照

様々な技法が登場してきたが、認知・情緒・行動などに適応的な変化を図る目的は共有している。

18世紀には、フランツ・アントン・メスメル動物磁気説による治療行為を行い、後の催眠へとつながっていった。心理療法におけるラポールの概念などもこの流れで生み出された。1892年には、アメリカ心理学会が、ウィリアム・ジェームズの心理学を元にして設立される。

第1の勢力は精神分析学である。1896年にジークムント・フロイトは精神分析という言葉を用い、精神分析学を創設し、その後の心理療法に多大な影響を与えた。フロイトに師事したカール・グスタフ・ユング分析心理学を提唱、ユング心理学はユング派としてアメリカでプロセス指向心理学などを生んだ。この時代には、フロイトや現象学の影響をうけたルートヴィヒ・ビンスワンガー現存在分析、また ヴィクトール・フランクルによるロゴセラピーがある。対人関係療法は、新フロイト派とよばれるハリー・スタック・サリヴァンらの流れを組む。

イギリスではメラニー・クラインドナルド・ウィニコットらの対象関係論が展開し、アメリカでは対象関係論に影響をうけたオットー・カーンバーグ転移焦点化精神療法を考案した。また、1968年ハインツ・コフート自己愛性パーソナリティ障害について論文を発表した。

第2の勢力は行動主義である。20世紀初頭に行動主義心理学が登場する。これは戦争をはさんだ軍事学的な統制にも用いられた。動物実験により古典的条件づけオペラント条件づけなどの語が登場した。治療に関しては、1960年にハンス・アイゼンクが『行動療法と神経症』を出版する。ポジティブ心理学は、学習性無力感の研究者であったマーティン・セリグマンが1990年代に提唱。

第3の勢力は、人間性心理学である。1960年代には、人間性心理学が、自己実現理論を提唱したアブラハム・マズローらによって組織される。1942年に、カール・ロジャースが『カウンセリングと心理療法』を出版し、来談者中心療法などを提唱する。ロジャースは、集団に対応させたエンカウンターグループも開発した。アメリカのビッグサーエサレン協会を中心として、ニューエイジなどもくわわり、瞑想といった技法も研究されるようになった。ゲシュタルト療法は、エサレンを中心として発達した。

1969年にはトランスパーソナル心理学会が、LSDによる神秘体験を研究していたスタニスラフ・グロフと、上記人間性心理学のアブラハム・マズローによって設立される。瞑想などの伝統技法は第3世代の認知療法に影響した。

2000年ごろより、根拠に基づく医療が大きく提唱され、技法がマニュアル化しやすい行動主義あるいは認知心理学的な技法による有効性が見いだされる。それは、認知行動療法対人関係療法マインドフルネス認知療法といったものである。イギリスでは、こうした証拠に伴って、政策として心理療法家の養成を積極的に行っている。
影響
アウトカム

科学的手法に基づいた国際的な大規模レビューによって、心理療法は多くの状況において有効であると結論づけられている[14][15]
アドヒアランス

心理療法のアドヒアランスとは、プログラム途中での脱落率のことであり、問題の一つとして認識されている。

早期段階での脱落率はおよそ30-60%であるとされ、その定義によって幅がある。脱落率は、患者の選択手法や治療へのつなげ方など、様々な研究条件によって差が出てくる。早期脱落は、人口分布、クライアントの臨床特徴、治療家や治療手法などの要因が関係するとされている[16][17]。心理療法の妥当性、効果性を疑っているグループにおいては、脱落率は高まる[18]
副作用

心理療法の副作用についての研究は、多々の理由で限られており、おそらく患者の5-20%であろうと推測されている。副作用には症状の悪化、新症状の発生、他の関係とのひずみ、治療家への依存などが含まれる。いくつかの技法や治療家においては、さらにリスクが上昇することもあり、また患者の個性によってはより脆弱であることもある。適切な手法によって発生した副作用は、医療過誤によって起こる症状とは区別されるべきである[19]
日本における状況「日本の精神保健」も参照

2004年度からの厚労科研の研究では、医療現場での精神療法の現状について「十分に行われている」と答えた医療機関は約5%で、「若干できている」場合でも25%弱に過ぎない[20]

欧米諸国に比べ日本においては制度面の遅れがあり[8]、それゆえこれまでは心理療法が日常的なものとして位置づけられてきづらかった[21]ユニバーサルヘルスケアの下で、薬や注射などの現物には公定の報酬が支払われたもののこのような「目に見えない技術」に対しては非常に低い報酬しか設定されなかった。このことが日本における精神医療の質の低下を招いた[22]

OECDは日本に対し、軽中程度の患者に対して心理療法を提供できるよう、根拠に基づいた治療プログラムの整備をすすめるよう勧告している[23]


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:51 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef