これにより、例えばある患者が、違う精神科医の診療を受けるたびに、カルテに記載される精神疾患の診断名が異なるといった、従来の診断基準に由来する問題は少なくなり、精神医学・精神科医療の科学的発展に大きく貢献したとされる[21][22]。一方、あくまでも問診時に患者から訴えられる症状に応じて診断が行われるため、あらかじめ診断基準を知っていれば症状を偽れる可能性があり、科学的な診断法と称しながらも、そもそも詐病などとの弁別が難しいという根本的問題も同時に指摘されている[21][22]。「精神障害の診断と統計マニュアル#批判」も参照
日本における問題OECD各国の平均精神病院入院日数(赤線が日本)[23]。詳細は「日本の精神保健」を参照
世界で有数の精神病院数と入院患者がいる日本においては[24]、以前に比べて保険点数上のメリットが減少したこともあり、かつて横行していた「社会からの隔離」目的の新たな社会的入院は少し減少した。
しかしまだ実際に罹患している患者の症状が快方に向かっても、家族や社会が受け入れず入院が長期化してしまうこともある。
心理療法の欠如と行き過ぎた多剤投与「日本の精神保健#心理療法の欠如と行き過ぎた多剤投与」も参照
軽度の抑うつの場合や、向精神薬を用いた薬物治療などの対症療法に抵抗がある場合、あるいは心因性精神疾患など薬物の効果が現れにくい場合や、発達障害・慢性化精神疾患など急激的な改善が期待されにくい場合を中心に、精神療法や心理カウンセリング、または作業療法や言語療法など、化学的アプローチではない治療法を患者が希望することがある[25][26]。
また、特定の精神疾患患者に限らず、薬物治療などの対症療法と並行して、一定の診療時間を確保した精神療法や心理カウンセリングなどの原因療法により、自分の認知や性格の傾向を見つめ直したいと患者が希望することも多い[25][26]。しかし現実には、精神科医だけでなく医師全般が、特に外来患者へ対応する場合、限られた時間内に多数の患者へ診療を行うことが迫られるため、いわゆる「3分診療」「5分診療」のみに終始することが多いとされ、中でも精神科医療においては、上記のような操作的診断基準に関わる問題や[21][22]、数分間では充分な精神療法などを行うことが難しいという問題などから、短時間の診療形態には問題があると指摘されている[27][28]。
また、精神療法は主に臨床心理士が担当することが多い現在の臨床現場において[25][29]、実践的な精神療法を担える精神科医は現実的には少なく[25][30][31]、そのような専門性を持った精神科医もおらず臨床心理士・作業療法士・言語聴覚士などにも人件費を割かない医療機関では、経営上薬物治療のみを行っている所も多い[27][28]。
このような現状から、2010年には精神療法の一種である認知療法・認知行動療法に関して、「入院中ではない患者」について「当該の療法に習熟した医師」が「30分以上を診療に要した」場合「16回までに限り」保険適用になると診療報酬が改定され、注目された[31]。