精神医学
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フロイトを中心とする精神分析の治療法は様々な批判[16]や、理論的な指摘を受け新フロイト派といった他の学派を生んでいった。しかし、後の認知心理学は、何年も治らない症状や無意識への疑問から現在の主流となっている。

1950年代に入って、向精神薬の開発により、生物学的精神医学はようやく実用的レベルの段階に達した。1949年にリチウムに抗躁作用があることが見つかり, 1952年にクロルプロマジン(従来は麻酔前の人工冬眠に使用していた薬であるが)とレセルピンが作られ,これらに劇的な抗精神病作用があることが分かった(この年をもって精神薬理学誕生とされることがある)。さらに、1958年には最初の抗うつ薬であるイミプラミンが合成された。精神薬理学の発達はその後、治療だけでなく、精神疾患のメカニズムの一部、特に中枢神経内での薬物作用の機序についての知識(神経生化学)を急速に発展させることになる。一方、治療面では、向精神薬の登場で統合失調症(2002年までの旧称は精神分裂病)の幻覚妄想をかなりの確率で抑制できるようになり、それまで精神病院で一生過ごすしかなかった患者が退院できるようになった。これが1960年代からの社会防衛的入院から外来治療への転換を生んだ。

米国精神医学会(APA)による診断基準「DSM」の第1版、第2版では、記述的分類と病因に基づいた分類が混在していた。当時は、科学の発展に伴っていずれは各々の精神疾患に対する脳の障害部位が特定されていくものと期待されていたからである。

DSM第3版(DSM-III)では編集方針が変わり、症状に基づいた分類が採用され、病因に基づいた分類は極端に排斥された。現在臨床で用いられているDSM第4版(DSM-IV)や国際疾病分類第10版(ICD-10)もその流れに続いている。このことによって、ようやく他の医学領域と同様に、根拠に基づく医療を可能にする基礎ができた。それでも力動的精神医学は1960年代まではアメリカを中心に盛んに行われていたが、DSM(第3版以降)に代表される操作的診断基準の台頭や生物学的精神医学の進歩に伴い、精神医学における精神疾患の成因・経過の説明法としては科学的でないと考えられるようになってきた。ただし、いまだヒトの脳内の物理現象が生理学的にどのような精神活動・現実的行動として具現化するのかという高次心理過程の研究は途上の段階にあるため、臨床現場においては、薬物治療などの対症療法を中心とした生物学的精神医学に基づく精神薬理学・大脳生理学的アプローチと、精神療法心理カウンセリングなどの精神病理学臨床心理学的アプローチを折衷して治療にあたる場合が多い。また、精神科加療中の患者の重大犯罪などをきっかけとして、各種発達障害、触法患者の処遇の問題などが新たに着目されている。
21世紀

製薬会社マーケティングや保険医療経済上の支配力が精神医療を含む医療全体を圧倒するようになった。疫学的な大規模調査研究が進み、コモンメンタルディスオーダーとしての精神疾患が唱えられるようになった。操作的診断基準の不適切な使用などにより、相対的に純粋なうつ病患者が減少し神経症的・適応障害的なうつ病患者が増加した。精神薬理学の進歩などにより、重度の統合失調症が減少し軽度の統合失調症が増加した。さらに、広汎性発達障害というカテゴリーが新たに加わり、これまで統合失調症、パーソナリティ障害に含まれていた患者の再編成がなされている。
課題
スティグマ詳細は「精神障害#スティグマ」を参照

大規模疫学調査による重症患者の未治療率の算出などからもわかるように、患者に対する偏見差別は相当根強く、『精神病患者=頭がおかしい危険人物』という誤解も見られる。例えば未だに「精神病院に行ったほうがいい」などという言葉が相手を侮辱する意図で使われているし、退院できる患者の家族から「一生入れたままにして、戻してくれるな」と言われることもある。

何もかもを「こころの問題」として捉え、あらゆる事を精神医学的に解決させようとする風潮や、誤った医療知識による科学偏重主義、マスコミ犯罪報道の際に「犯人には精神科通院歴があり……」と安易に偏見を煽ったり(附属池田小事件の項を参照)、完全無欠のはずがない医療者を完全でない、という理由で断罪したりという問題も発生している。
操作的診断基準に関わる問題

20世紀半ばから生物学的精神医学や精神薬理学が急速な進歩を遂げた現代に至っても、いまだヒトの高次心理過程の研究途上の段階にある。従って、特に精神医学分野は他の医学分野に比べ、根拠に基づく医療が不十分とされることがある[17][18]

このような課題に対処するため、現在の臨床現場で主に用いられる診断基準の「アメリカ精神医学会発表精神障害の診断(DSM-5)」、「疾病及び関連保健問題の国際統計分類(ICD-10)」は、共に「操作的診断基準」を採用している[19][20]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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